学校でいじめが発生し、ことの深刻さによっては謝罪会見が開かれるケースも珍しくない。
「いじめを容認する学校は許されない!」。
そんな見えない圧力に押されるように開かれる会見では、学校側は煮え切らない発言に終始するようにみえる。
「いじめ」については、いじめ防止対策推進法第2条で定義されている。該当すれば、たとえ軽微であっても、勝手に判断してはならない。「問題なし」として文科省への報告を怠ると「もみ消し」と見られる可能性もあるからだ。
「いじめ」なのか「いじり」なのか…。もはやその境界線など関係なく、「ひとまず報告」が無難なのが学校のやるせない現実だ。
「いじめ事案」に翻弄される学校の実情を、県庁職員から教員免許なしで、異動により高校の校長を命じられた川田公長氏が明かす。
※この記事は川田公長氏の書籍『素人校長ばたばた日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。

いじめ防止対策推進法第2条のいじめの定義

「おいっ、さぼるんじゃねーよー」
男子生徒が女子生徒を怒鳴った。
ある日の体育の授業前の教室での出来事だった。
男子生徒は教室に忘れ物を取りに来ていた。そこへ、体調不良を訴えて保健室で休んでいた女子生徒が戻ってきた。体育の授業を休むことになっていた女子生徒に向かって、男子生徒が強い言葉を発したのだ。

女子生徒はこれに腹を立て、担任の教諭に報告した。
「W君に突然めっちゃ強い口調で怒鳴られたんですけど。私、サボってないし、すごくむかついたんで、先生、W君を注意してくれませんか?」
いじめ防止対策推進法第2条では、いじめとは「児童等が在籍する学校において、一定の人的関係にある他の児童等が行う行為であり、心理的または物理的な影響を与え、対象となった児童が心身の苦痛を感じるもの」と定義されている。
つまり、同じクラスの男子生徒が「さぼるんじゃねーよ!」と言ったことにより、言われた女子が苦痛を感じた場合、法律上の「いじめ」に該当するのである。
たとえ軽微なものであっても報告しなければ、「隠ぺいしている」と見なされる。担任の教諭は教頭に伝え、教頭から私へ「いじめ事案」として報告があがってきた。
「いじめですか。男子生徒と女子生徒の関係はどうだったのでしょうか?」
「2人はわりと親しくて、ふだんは軽口を叩き合う間柄のようです。男子生徒としては、彼女がさぼったものだと勘違いして思わず口調が強くなってしまったらしいのです」
教頭の話によると、関係性のある中でのちょっとしたいざこざにすぎない気がした。ただ、こうした事案について「これくらい大丈夫」などと勝手に判断し、文部科学省へ報告をあげなければ、「もみ消し」などと見なされないとも限らない。

いじめ報告件数が少ないと褒められず隠ぺいを疑われる

いじめの認知件数は年度ごとに各学校から教育委員会に、そして文部科学省に報告され、その結果が都道府県一覧となってマスコミなどに公表される。
報告件数が少ないとどうなるか。いじめが少なくて素晴らしい! ………………と褒められることはなく、隠ぺいを疑われるのだ。

当時、九州の某県が2年連続で“最低”になり、厳しく批判されていた。このため、本県においても、いじめの発生については積極的な報告が教育委員会により“奨励”されていた。
学校としては再度、状況を確認したうえで、正式に「いじめ」と認定し、文部科学省へ報告する「発生件数」にカウントした。
私たちは生徒2人に対し、こうした発言でも「いじめ」に該当すること、そして文科省に報告されることを説明したうえで男子生徒に謝罪をさせた。
学校の対応が予想以上に大きくなったことに2人とも驚いていたらしい。

インターネットパトロールとは

ある日、インターネットパトロール業者から私宛にメールが入った。
令和×年×月×日、午後10時ごろ、SNS「Facebook」上にて、貴校生徒とみられるアカウントでの特定生徒に対する誹謗中傷投稿を確認しました。
【投稿内容】特定生徒の動画について「デカすぎ」「巨人」「(笑)」等の記載。発信内容には侮辱的表現が含まれ、学校関係者が特定できる形での人格否定的投稿であるため、「いじめ防止対策推進法」第2条における「心理的な影響」に該当する可能性があります〕
最近では珍しくなくなったが、本県教育委員会では、専門業者に依頼してインターネットパトロールを実施している。パトロール業者が「問題事案」を見つけると該当する高校の校長宛にメール連絡が入るシステムだ。私はすぐさま教頭に相談し、担任教諭とともに生徒を特定した。
私もその投稿を見たが、同級生たちが公園で飛び跳ねながら戯れているもので、その中で一番長身の生徒について「デカすぎ」「巨人」などの手描き文字が添えられていた。
私の目からすると、ふざけ合いながら一番高くジャンプした生徒を囃しているだけで「いじめ」のニュアンスなど微塵もない。
「これ、いじめですかね?」教頭に問う。
「一応、通告があったので対応しないといけませんし・・・・・・」
われわれは投稿した生徒と、写真に出ていた生徒を呼び出し、注意・指導を行なった。生徒たちは予期せぬ事態にびっくりしていたという。生徒の1人は「これはいつもの『いじり』です」と言ったらしい。彼らの反応からもやはり悪ふざけにすぎないようだった。
ひとたび「いじめ」と記録されれば、学校は「対応中」として管理され、報告義務、再発防止策、教育委員会への経過報告などが生じる。
そのたびに最終責任者である私は、何十回も読み返しボロボロになった「いじめ防止マニュアル」のページを繰ることになるのだった。


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