名だたる神社仏閣がひしめく観光名所、京都。しかし、京都の見どころはそれだけではありません。

歴史ある近代建築の宝庫であり、和風建築やモダニズム建築をはじめ、さまざまなデザインに出会えます。建築家の円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、今回は京都駅周辺の「名建築」を見ていきましょう。

JR京都駅から東本願寺・西本願寺へ至るルートは、名建築の宝庫

JR京都駅から東本願寺・西本願寺へ至るルートは、参詣者向けの旅館や仏具屋が並び、門前町特有の落ち着いた雰囲気の街路を散策できる。両寺院とも明治期の再建なので近代建築の範疇だ。ぜひ参詣してほしい。

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01.プラットフォーム上の鉄道遺構「JR京都駅プラットフォーム上屋」

JR京都駅プラットフォーム上屋には、リベットを打った鉄骨の美しいアーチが残っている。リベットとは鉄骨を留める大きな釘のようなもの。打つ前のリベットの頭は一方だけで、熱したリベットをすばやく打ち込んで、もう一方を叩いて留める。

よく見ると叩いた跡がわかる。

見どころは神社仏閣だけじゃない!…〈京都駅〉周辺で出会える“一見の価値あり”の「名建築」10選【建築家が解説】

02.これで京都の風景が変わった「JR京都駅ビル」

JR京都駅ビルは、高層化を目指したコンペが行われたが、結果的にもっとも背の低いものが選ばれた。原広司は世界中を歩いて集落や都市を研究した建築家で、ここの内部吹き抜けの大階段もローマのスペイン階段のような街路の楽しさを再現している。最上階の展望テラスまでエスカレーターで上がることができる。

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03.賛否両論のローソク「京都タワー」

JR京都駅北向かいの京都タワーは、あまりの高さに反対運動が起こったことで有名である。山田守は郵政出身の建築家で、大正時代には分離派として知られた。分離派といってもウイーン分離派ではなく、1920年代ヨーロッパの表現主義に近い。放物線を多用する彼のデザインの特徴は、このタワーとその下のビル部分にも表れている。

建築家の棚橋諒が構造設計を担当しており、それまでのタワーとは違い鋼鉄製の筒状の構造となっているのが特徴だ。

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04.京都のインターナショナルスタイル「セコム損保京都ビル」

安井武雄は大阪モダニズムの旗手として知られる建築家で、烏丸七条南西角のセコム損保京都ビルは、船をイメージさせるインターナショナルスタイルだ。

京都駅から北へ延びる烏丸通りは、明治から大正にかけての都市改造で、駅から御所へ通じるメインストリートとして設計されて今の姿になった。大正、昭和の2度の即位式ではパレードのメインコースとして使われた。戦前の写真を見ると当初は黒くなかったようだ。なんらかの事情で改修したのだろう。今の黒い姿もよいとわたしは思う。

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05.建築家・棚橋諒の古建築への敬意あふれる「同朋会館」

七条通りを渡り、一本目を西に向かった同朋会館は西半分が増築で、増築部のバルコニーに丸柱がないのはその部分だけ鉄骨製だからだ。西側バルコニーは後補かも知れない。東側の玄関回りが基本形だが、丸柱が2階までしか達していない。つまり東大寺二月堂のような舞台造りを模倣しているわけだ。2階と3階とで手すりのデザインが違うことも、3階こそ舞台であることを意識しているからだろう。京大教授の棚橋は古社寺保存に長く携わった。彼の古建築に対する尊敬の念を感じる作品だ。

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まだまだある!京都駅周辺で“一見の価値あり”の「名建築」

06.武田の和表現「東本願寺銅蓮弁噴水」

もともと烏丸通りは東本願寺の門前広場を避けて迂回していたが、即位式のパレードを迂回させるわけにいかず、広場を突っきる道が後でできた。その結果、道にはさまれたこの広場ができたのだ。武田は噴水や街路灯など街路のデザインに和風を持ち込んだ建築家で、この東本願寺銅蓮弁噴水がハスのかたちなのは仏教寺院の門前だからだ。

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07.京の伝統工芸の集積「東本願寺菊の門」

東本願寺菊の門は、勅使門なので菊のご紋がある。亀岡末吉は古社寺の修復を手がけた建築家で、ウイーン分離派に似た優雅なデザインが特徴だ。この門扉の透かしにそれがよく表れており、全体に薄いピンクなのもウイーン分離派を思わせる。さらに、左右柱の目の高さにある釘隠しに色鮮やかな七宝が使われているなど、京都の伝統工芸をふんだんに使っている。文化財の修復は伝統技術の伝承の場でもあるのだ。

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08.和洋折衷の初期コンクリート寺院「旧顕道会館」

油小路通りを南に折れると、初期のコンクリート寺院旧顕道会館がある。水平線の強調はインターナショナルスタイルの特徴だが、この場合は和風を意識しているせいだろう。アーチ部分の植物模様など1920年代表現主義を思わせる。増ます田だ清きよしは鉄筋コンクリートを自在に操れた最初の建築家のひとりだ。

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09.圧巻。伊東のインド感「本願寺伝道院」

そのまま油小路通りを南へ向かうと、本願寺伝道院が現れる。伊東忠太は日本建築の源流を探すためラクダに乗ってアジアを旅した建築家で、これがインド的なのはその成果だ。

町家の屋根を軽々と超す赤レンガのタワーは、驚くことに西本願寺の境内からも見える。それほど大きいのに圧迫感がないのは伊東の手腕だ。道路際の車止めの石柱の上に、伊東のデザインした怪獣たちが行儀良く載っているのがおもしろい。公開日もあるようなので、内部もぜひ見ておきたい。

伝道院と西本願寺との間に、木造の門が残っている。今は堀川通りとなっているが、門と西本願寺のあいだが門前広場だったのだろう。門の南側には龍谷ミュージアムや、有名な和菓子「松風」の亀屋陸奥がある。

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10.建築家・武田五一によるインターナショナルスタイル「関西電力京都支店」

JR京都駅に戻る手前、塩小路通り沿いの関西電力京都支店は、縦横のフレームを見せたデザインで、最上階のバルコニーが水平線を強調した武田にしては珍しいインターナショナルスタイルだ。クリーム色のタイルにL型の型押しがあって陰影をつけているところは、交友のあったアメリカの建築家ライトのデザインを思わせる。建物西側の照明を組み込んだ出入り口のデザインも必見だ。

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円満字 洋介建築家