テロ組織への資金流出や振り込め詐欺などを未然に防ぐため、金融機関の「本人確認」はますます厳しくなっています。そのようななか、司法書士で『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者の岡信太郎氏は、こうした金融機関の対応について、「そろそろ見直すべき時期に来ている」といいます。
金融機関の本人確認が厳しくなった「2つ」の理由
10年以上前ならできたのに…なぜできなくなった?
せっかく老後資金を蓄えてきたのに、「いざ」というときに使えない――。そんな信じられないようなケースを見聞きすることが増えてきました。
病気や認知症で金融機関に足を運べなくなった親の代わりに、子どもが出向いて手続きをすることは誰しも考えると思います。
10年以上前なら、子どもが親の通帳と印鑑を持って銀行へ行っても、本人の代わりに預金を引き出すことは可能なこともあったようです。必ずしも本人が手続きに出向く必要はなかったのです。
しかし近年は、ことあるごとに本人確認が求められるようになっています。
1.テロ組織への資金流出防止
1つ目は、「犯罪収益移転防止法」の制定です。この法律は、別名本人確認法とも呼ばれます。
この法律のもともとの目的は、マネー・ロンダリングを防いだり、テロリストに資金が渡ってテロ活動の資金として使用されることを防いだりすることにありました。テロ組織は国内ばかりでなく、国際的なネットワークを持っています。
2.巧妙化する「振り込め詐欺」の防止
2つ目は、いわゆる「振り込め詐欺」のような犯罪が全国各地で多発し、社会問題となっていることです。
振り込め詐欺に手を染める犯罪者集団はさまざまな手口で高齢者の資産を狙ってきます。その手口は年々巧妙化、複雑化しており、お金をだまし取られる被害が後を絶ちません。
犯罪者集団にお金が渡ってしまうと、戻ってくる可能性はかなり低くなります。それゆえ、金融機関は慎重に慎重を重ねて本人確認を徹底するようになり、犯罪とは無縁な一般市民の生活にも影響が出ています。
これらの理由から、親のための支出であっても本人確認なしに家族が高額のお金を引き出すのは難しくなっています。
もちろん、本人の「意思確認」は慎重に行うべきです。預貯金であれ、不動産であれ、財産をどうするかの決定権は本人にあるからです。たとえ家族であっても、本人の意思に反して財産を動かしたり使ったりする行為は法的に問題があります。
2025年には約700万人が認知症…金融機関に求められる「変化」
ところが最近、本人確認ができないために、本人のための支出であっても自由に使うことができないケースが増えてきているのです。本人が認知症とわかった途端、金融機関側から口座を凍結されることもめずらしくなくなってきました。
その理由はもうおわかりですね。そう、認知症高齢者の増加です。
高齢者のお金を狙った振り込め詐欺の多発によって本人確認が厳しくなっていることは先ほどお話ししました。振り込め詐欺による被害をなくすために、金融機関が高齢者の預貯金の引き出しや振り込みに慎重になっています。それはある程度仕方のないことです。
ただ、金融機関が高齢者や認知症の方にどう対応するかは、そろそろ見直すべき時期に来ていると私は考えています。
実際、高齢化が進行し、認知症に関する案件や相続案件は司法書士である私の事務所でも年々増えています。しかしながら、スムーズに対応できる窓口はまだまだ少ないと感じます。
現在、どの銀行も相続手続きを相続センターに一本化する傾向が見られます。認知症に対応するための新たな資格を導入することも発表されました。
ただ、これは認知症になる前に本人が代理人を設定しておかなければいけません。
岡 信太郎司法書士のぞみ総合事務所代表