毎年110万円までの贈与の範囲内であれば税金はかからないため、子どもや孫に生前贈与をしている人や検討している人も多いでしょう。しかし、生前贈与が一部の相続人にだけ行われていたことが後に発覚した場合、大きなトラブルに発展する可能性があります。
81歳の母親から聞いた衝撃の事実
今回の相談者は、木村さん(女性・48歳)です。
木村さんには子どもがいませんが、木村さんの51歳の姉と45歳の弟には、それぞれ2人の子どもがいます。ある日、木村さんは、81歳になる母親から遺言のことで相談したいと言われて、母親に会いに行きました。
「母は姉から、姉の希望通りの内容で公正証書遺言を作るようしつこく迫られて困っていました。母は、3人の子ども達になるべく公平な相続をしたいと思っているのに、姉はほとんど全ての遺産を独り占めする気だというのです」
母親の話によると、木村さんの姉は、母にたびたびお金の相談をしていたそうです。
「姉の2人の子どもたちに毎年110万円の生前贈与をしていると聞いて、びっくりしました。私には子どもがいないけれど、弟には2人の子どもがいるので、弟の子どもにも生前贈与をしているのかと聞いたところ、弟からは何も言われていないので、生前贈与をしていないというのです。不公平だと思いました」
母の遺産を独占しようとする姉の企み
木村さんの母親は、姉がたびたびお金の相談をしにくるので、姉がお金に困っていることを心配して「私が助けてあげないと」と考えていたようです。しかし、木村さんは姉がお金に困っているとは思えませんでした。
「姉は年に2、3回は海外旅行に行っているはずです。
木村さんの弟さんの長女は重度のアトピー、次女は喘息の持病があり、治療費や入院費にお金がかかって大変だそうです。
「贅沢な暮らしをしている姉が母の遺産を独り占めすることを、母が本当に望んでいるはずがありません。でも、母に姉が贅沢な暮らしをしていることを伝えても、『そんなはずないじゃない! 美穂ちゃん(木村さんの姉)はいつもお金に困っていて私のところに助けを求めにくるのよ!』と反論されてしまいました」
武器になるのは「客観的な証拠」
木村さんは母親に姉の生活ぶりを話しても信じてもらえず、困ってしまいました。よく考えてみると、木村さん自身も、姉から海外旅行に行った話を聞いた以外は、姉の生活について詳しく知っているとは言えず、母親に信じてもらえるような客観的な証拠も持っていませんでした。そこで、木村さんは探偵に素行調査を依頼しようと考えました。
「実は以前、元旦那の浮気調査を探偵に依頼したことがあるんです。
明らかになった姉の行動……
木村さんから依頼を受けて、木村さんの姉の素行調査を実施したところ、以下のことが明らかになりました。
• ベンツのゲレンデを運転していた
• エルメスのバーキンやカルティエの腕時計などの高級ブランド品を身に付けていた
• 銀座にある高級エステサロンに通っていた
ベンツのゲレンデヴァーゲン(Gクラス)は、芸能人の間でも人気のある高級車です。
「姉は昔から高級志向でブランド物が大好きでしたが、ベンツのゲレンデに乗っていたことには正直驚きました。
探偵に素行調査を依頼したことは伏せておいた方が無難なので、木村さんは母親に「お姉ちゃんがベンツのゲレンデという高級車を運転するのを見かけた」と伝えました。後日、母親は姉を問いただし、姉は母親からもらったお金を自分のために使いこんでいたことを白状したそうです。
その後、しばらくして、木村さんは母親から「私が元気なうちに、3人の子どもに平等に相続できるような内容の遺言書を作成したいので手伝ってほしい」という相談を受けました。姉や姉の子どもたちに生前贈与した分を考慮した上で、平等に分配できるようにしたいとのことでしたので、相続診断士の資格を持つ私が詳細をお伺いしてアドバイスをさせていただきました。
兄弟のうち一人が遺産を狙って親を巧みに操作して、親が言いなりになると、兄弟の間で不公平が生じてしまいます。
若梅 秀孝
MJ リサーチ綜合探偵社
取締役