いまの幸せのため、将来の安心のため、「収入アップ」はすべての人の切実な願いだ。いちばんの近道は、会社員なら出世を目指すことだが、悲しいことに、出世しても、その先が希望通りの道につながっているとは限らない。

実情を見ていく。

出世のため、円滑な「社内コミュニケーション」にいそしむが…

少子高齢化が進展する日本。急速なインフレに歴史的円安となれば、将来にも希望は見出しにくい。まずは自分の未来を守るため、いまの愉しみなど考えず、とりあえずは「節約」と「資産形成」に突っ走ってしまうのも仕方ない。

現役世代は、少しでも給与を増やすことが重要になる。そのため、出世は有効な手段となるだろう。

出世するには、仕事の能力はもちろんだが、社内での人間関係作りも無視できない。

「仕事だけしていれば…」という姿勢を取っていると、やはり、重要な情報が回ってくるのが遅れたり、大切な局面で存在を忘れられたりして、悔しい思い、悲しい思いをすることになる。

円滑な人間関係作りといえば「飲みニュケーション」もまだ選択肢となるのだろうか?

株式会社ネクストレベルが20歳以上の社会人に実施した『「飲みニケーション」についてどう思うか』とのアンケート調査を見てみよう。

それによると、仕事上の飲み会の頻度は「年に1~2回」が最多で30.1%だが、その一方で「ほとんどない」が29.1%と並ぶ。コロナ禍以降、飲み会が消失した会社も多いらしい。

また会社の飲み会の参加が必須かどうかでは、58.4%が「参加・不参加は個人の自由」と答える一方で「必須ではないが断りにくい」が22.5%だった。さらに「ほぼ必須」9.7%、「必須」4.6%という、厳しい(?)文化を残す会社もあるようだ。

そして「ズバリ、飲みニケーションが必要かどうか?」の問いには、「いらない」が27.0%、「どちらかというといらない」が37.5%となり、64.5%は不要と考えている結果に。

注目すべきは、これが全世代に見られる傾向である点だ。「20代」「30代」の64.9%、「40代」の66.0%、「50代以上」の60.0%が「飲みニュケーション不要論」を支持している。

部長に昇進が決まり、ハシャギまくる万年課長

とはいえ、上司との飲み会の席に参加することで、今後の仕事の方針から、部下たちに対するさまざまな評価、人事の裏事情まで、ときには情報が飛んでくることもある。

第二新卒として入社した20代後半の男性は、いまどきの若者には珍しく、飲み会への参加に熱心だ。

「誘われたのに行かないっていうのは印象が悪いですし…。でも、100%性格ではないにしろ、上司が考えていることや、今後の仕事について話を聞けて、普段の仕事に役立つこともありますから」

素直に飲み会についていき、熱心に話を聞く男性は、上司たちからの受けも上々だった。

「しかし、そこで聞いてしまったんです…」

ある部長が退職することになり、就職氷河期世代の40代の万年課長が、いよいよ部長へと昇進することになったという。

「課長の昇進の内定祝いみたいな席だったのですが、もう、課長の喜びようったらありませんでした。〈これでオレも、嫁さんに顔が立つぞー!〉と、メチャクチャはしゃいで。給料も上がるんだろうな、いいな、と、うらやましさ半分で見ていたのですが…」

「まさか…」思わず絶句する部長の給与額

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、サラリーマン(平均年齢43.6歳)の平均給与は、月収で36.3万円、年収で596.9万円。

●係長(平均年齢45.5歳)の場合は、月収38.2万円、年収で657.0万円。

●課長(平均年齢49.2歳)の場合は、月収50.0万円、年収で815.4万円

●部長(平均年齢52.9歳)の場合は、月収60.4万円、年収956.5万円。

平均値では部長も大台に届かないが、それでも他の先進国の国々に置き去りにされた貧しい日本では、まだ恵まれている金額といえるだろう。

「40万円の給料が、そんなにうれしいかね…」

男性のすぐそばで独り言をつぶやいたのは、経理課の女性係長。思わずギョッとした男性が係長を見ると、彼女はグッとビールをあおってグラスを空け、そのまま席を立って戻らなかった。

役職部長の月収の分布を見ると、中央値は56.3万円。最頻値は「60万~70万円」で17.6%。そして部長職にもかかわらず、14.6%が「月収40万円」を下回っている。

「係長の独り言から〈部長の給料40万円〉を基準に周囲を観察すると、たしかに、みんなの生活レベルが見えてくるような…」

「あれ? もしかしてオレ、相当ヤバいところにいるんじゃ?…って。それに気づいて、だんだん血の気が引いていくような気がしたね」

この男性は、都内の一軒家で両親と同居という恵まれた環境。数万円を家に入れるだけで、掃除洗濯食事つきの生活を送っており、少し金銭感覚がずれていたかもしれない、とは本人の談。

「帰宅して即、転職サイトに登録しましたよ。いまの会社で出世しても先が見えてるってことですから…」

社内での出世も重要だが、そもそもの給料水準が低ければ、頑張っても限界がある。ならば、転職して新天地を目指すのも有力な選択肢だ。

昭和時代と異なり、就職先で辛抱しても会社は守ってくれない。ならば、会社を頼るのではなく、自分でキャリアを設計し、自分の力で稼ぐしかないではないか。

[参考資料]

株式会社ネクストレベル『「飲みニケーション」についてどう思うか』のアンケート調査

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』