
賃貸不動産において入居率は物件の収益性に大きく影響するため、不動産投資の観点から注目されている指標です。しかし、具体的な入居率の目安や目標は立地条件等によって変動するため、数値だけに惑わされないよう注意しましょう。
本コラムでは、入居率に関する基本的な知識や、入居率の目安のほか、入居率を高める具体的な施策や、入居率が高い物件に共通する特徴を解説します。
■不動産投資での入居率の事前知識
(画像:PIXTA)はじめに、入居率に関する基本的な知識を解説します。投資判断や具体的な施策を考えるための前提知識となるため、しっかりと確認しておきましょう。
●入居率の種類と特徴
入居率とはアパートやマンションなどの賃貸物件において、一棟全体の総戸数に対する入居している戸数の割合を指し、物件の収益性を測る重要な指標のひとつです。
入居率の計算方法は以下の通りです。
入居率=(入居している戸数÷総戸数)×100
例えば、総戸数6戸のうち3戸に入居者がいる場合、入居率は (3戸÷6戸)×100=50%となります。入居率は高いほど収益性に優れている物件といえます。
もっとも、一口に入居率といってもいくつかの種類があり、それぞれ異なる特徴があるため、どの「入居率」を指しているのか注意しなければなりません。
種類特徴時点入居率・ある特定の時点での入居状況を示す・一時的な空室に影響されやすいが、短期的な収益性を測る上では有効
・シンプルな計算式で最も簡易的に入居率を算出できる稼働入居率・一定期間の稼働日数における入居率を示す
・年間の稼働入居率を把握することで、一時的な空室に影響されない、より長期的な収益予測が可能になる賃料入居率・実際の賃料収入と満室想定時の賃料収入を比較する
・賃料設定の妥当性や、空室による損失額を把握できる
時点入居率は、ある特定の時点における物件の入居状況を示す指標です。測定の基準となる日に空室があればその影響を直接受けるため、一時的な変動が大きいのが特徴です。長期的な収益の安定性を判断するには適していませんが、短期的な収益性を把握するには有効です。また、シンプルな計算式で最も簡易的に入居率を算出できるのが特徴です。
稼働入居率は、一定期間の稼働日数における入居率を示す指標です。例えば、1年間のうち何%の期間が満室だったのかを示すため、時点入居率よりも長期的な傾向を分析することができます。年間の稼働率を把握することで、時点入居率と比べより長期的に安定した家賃収入が得られるかどうかを判断しやすくなります。
賃料入居率は、満室時に得られる想定賃料収入と、実際の賃料収入を比較する指標です。たとえ部屋が埋まっていても、家賃を値下げして入居者を確保している場合、この指標は低くなります。そのため、単なる入居状況だけでなく、賃料設定の妥当性や空室による損失額を把握するために活用されます。
また、想定賃料収入が周辺賃料相場よりも高ければ賃料入居率は低くなりやすく、周辺相場よりも低ければ賃料入居率は高くなりやすくなります。適切な水準で想定賃料収入を設定しなければ賃料入居率の数字があまり意味を持たなくなってしまうため、適切な水準で設定されているかを事前に確認しておくことが重要です。
●3つの入居率を組み合わせて物件を分析しよう
3種類の入居率は算出の目的がそれぞれ異なるため、不動産投資にあたっては複数の入居率を組み合わせて物件を検討するようにしましょう。
例えば、時点入居率が低くても稼働入居率が高ければ、一時的な空室が発生しても長期的には安定していると判断できます。一方で、稼働入居率が高くても賃料入居率が低い場合は、家賃を下げて入居者を確保している可能性があり、収益性の改善が必要かもしれません。
このように、3つの入居率をバランスよく分析することで、物件の本当の価値や将来のリスクを把握し、適切な投資判断を行うことができます。
■入居率は95%が目安
不動産投資における入居率の目安として、95%前後が一般的な基準とされています。時点入居率は一時的な影響に左右されるため、稼働入居率での95%をひとつの目安と考えましょう。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が賃貸住宅管理会社向けにインターネットで実施したアンケート調査によると、2022年度と2023年度の各1年間での全国平均入居率は以下の通りです。
2022年度2023年度首都圏95.8%96.6%関西圏94.9%96.6%その他92.9%92.6%全国95.3%95.8%出典:公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「市場データ(日管協短観)2022年度・2023年度」ただし、入居率の目安はエリア特性、物件種別、投資戦略によって大きく異なるため注意が必要です。例えば、人口が増加傾向にある都市部では、単身世帯の割合が増加しており単身者向けの物件が高い入居率を維持しやすい一方で、人口が減少傾向にある地方の物件では入居率が低くなりやすい可能性があります。
そのため、入居率の全国平均を参考にしつつも、投資するエリアや物件の特性に応じた目標を設定することが重要です。単に高い入居率を目指すだけではなく、ターゲット層をより明確にし、適切な賃料設定やマーケティング戦略を組み合わせることで、安定した収益を確保できるようにしましょう。
■入居率を上げる方法9つ

ここでは、入居率を向上させるための具体的な施策を9つ紹介します。安定した収益を確保し、投資物件の価値を維持・向上させるためにも、長期的な視点で施策に取り組むことが重要です。
●ターゲット層に合わせたリフォーム・リノベーション
入居者のニーズに応じたリフォームやリノベーションを行うことは、物件の魅力を高め、空室リスクを軽減する有効な手段となります。
リフォームとは、老朽化した物件の機能を回復し、使いやすくするための工事で、リノベーションとは、建物を改修して新しい価値を加える工事になります。
例えば学生向けの物件であれば、インターネット環境の整備や家具付きプランの導入が効果的です。一方で、ファミリー層をターゲットとする場合は、収納スペースの充実や防音性の向上が求められます。
リフォームの際には、単なる内装の美化だけでなく、ターゲット層のライフスタイルを考慮した設備の導入を意識するようにしましょう。ただし、リフォーム・リノベーションには内容によって高額な費用を要する場合もあるため、計画的に行うようにしましょう。
●適切な賃料設定
賃料の設定は、入居率に大きな影響を与える要素のひとつです。
高すぎる賃料は空室を生む原因となり、低すぎる賃料は収益の低下につながります。周辺の市場相場を調査し、自身の物件の立地や設備の特徴を考慮したうえで、適正な賃料を設定することが大切です。
また、入居者獲得のためにフリーレント期間を設定したり、周辺賃料相場を踏まえて契約更新時の賃料見直しを検討したりすることも高い入居率につなげる方法のひとつです。
●入居者募集の効果的なプロモーション
入居率を上げるために、ターゲット層に適した広告手法を用いて、効果的な入居者募集を行っていきましょう。
不動産ポータルサイトへの掲載が基本的な手法となりますが、SNSを活用した情報発信や、地域の不動産会社と連携した紹介制度の導入も効果的です。
現在はインターネットで物件を探すことが主流となっているため、内見前に物件の良さを伝えられるよう質の高い写真・動画を用意することも重要です。
●仲介会社との良好な関係構築
入居者募集をスムーズに進めるためには、信頼できる仲介会社と良好な関係を築くことも大切です。
仲介会社は、物件を探している入居希望者とオーナーをつなぐ重要な役割を担っています。そのため、定期的な情報共有や、迅速な対応を心がけるなど、積極的に仲介業者に働きかけるようにしましょう。
また、仲介手数料や広告費を適切に設定し、物件の魅力を最大限に伝える資料を用意することで、優先的に紹介してもらえる可能性が高まります。
●入居者の満足度を高める管理体制
入居率を維持するためには、入居者の満足度を高める管理体制が求められます。物件の管理が行き届いていないと、退去が増えることで結果的に空室率が上がる要因となります。
具体的には、迅速なトラブル対応、共用部分の清掃、定期的なメンテナンスを徹底することで、入居者が快適に暮らせる環境を提供するようにしましょう。特に、水漏れや鍵の紛失などの緊急対応が遅れると入居者の不満につながりやすいため、迅速に対応できる賃貸管理会社と契約することが大切です。
賃貸管理会社の変更を検討すべきタイミングや、賃貸管理会社の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】管理会社を変更する際の注意点や手順とは?管理会社の選び方も解説
●最新設備の導入
入居者のニーズを満たすために、最新設備の導入も検討しましょう。特に、宅配ボックス、インターネット無料設備、防犯カメラなどは、利便性や安全性を向上させ、入居希望者の関心を引きやすい要素となります。
ただし、所有する物件の種類によって導入できる設備が異なるため、注意が必要です。例えば一棟マンションや一棟アパートであれば、共用部分に宅配ボックスや防犯カメラを設置することが比較的容易であるものの、区分マンションの場合は管理組合の許可が必要となるため、個別に導入するのは難しい場合があります。
そのため、物件の規模や構造を考慮しながら、導入可能な設備を選定することが重要です。
●敷金・礼金などの初期費用の見直し
入居者にとって、敷金や礼金などの初期費用は大きな負担となります。そのため、これらの費用を適正に見直すことで、入居検討者のハードルを下げ、空室対策につなげることができます。
特に礼金はオーナーの収入にはなりますが、入居者にとっては不要なコストとみなされることが多いため、「礼金無し」に設定することで集客力が高まる可能性があります。また、敷金についても一部免除や分割払いを認めることで、より多くの入居検討者を惹きつけることにつながる可能性はあります。しかしながら、退去時の原状回復費用のリスクが高まるため注意が必要です。
初期費用を減らすことでより多くの入居検討者を惹きつけることができる一方、支払い能力の低い入居希望者が集まってくるリスクも高まります。そうしたリスクに対しては、保証会社の活用や賃貸管理会社との間で入居者審査の目線すり合わせなどの対策が必要です。
●ペット可、DIY可など、入居条件の緩和
近年、「ペットを飼いたい」と希望する入居者が増えており、ペット可物件の需要も高まっています。ただし、ペットによる設備の損傷や騒音トラブルのリスクがあるため、事前にペット飼育のルールを定めたり、通常より敷金を追加したりするなどの対応が求められます。
また、DIY可物件も注目されており、入居者が自由にカスタマイズできる環境を提供することで、物件の魅力が増し、長期入居につながるケースもあります。この場合も、原状回復のトラブルを防ぐために改装範囲を明確にし、事前の許可制とするなどのルール設定が必要です。
●定期的な市場調査と戦略の見直し
不動産市場は常に変化しているため、競合物件の動向や入居者ニーズの変化を定期的に把握することが重要です。そのため、周辺エリアの賃料相場を分析し、物件の家賃が適正かどうかを見直すなど、競争力を維持できるように心がけましょう。
また、入居者のニーズも時代とともに変化していきます。インターネット無料設備の導入やテレワーク環境の整備など、最新のトレンドに合わせた対応を行うことで、競争力を高めることができます。
安定した入居率を維持するためには、市場調査を定期的に実施し、それに基づいて柔軟に戦略を見直すことが重要です。
■入居率が高い物件の特徴3つ

最後に、入居率が高い物件に共通する特徴を3つ紹介します。安定した収益を確保するためにも、これらの要素を参考にしながら入居率を高められるようにしましょう。
●建物・設備が充実している
入居率を左右するもうひとつの要素が、建物や設備のクオリティです。築年数が経過していても、室内の設備が充実していたり、適切なリフォームやリノベーションが施されていたりすれば、十分に競争力を維持できます。
また、近年ではテレワークの普及に伴い、高速インターネット環境の整備が求められるケースが増えており、これが入居を決める要因になることも少なくありません。
そのため、物件選びの際には建物のクオリティや設備の充実度をチェックし、リノベーション等が必要である場合には、あらかじめ費用等を確認しておきましょう。
●管理体制が整っている
物件の管理体制がしっかりしているかどうかも、入居率に大きく影響します。建物管理においては、共用部分であるエントランスやゴミ置き場、廊下などであっても、きちんと整理整頓されていると入居者にとって快適な住環境となり、長く住み続けたいと思う要因のひとつになり、高い入居率を確保するためには建物管理会社の対応が非常に重要になります。
また、賃貸管理会社の対応の良し悪しも重要です。入居者からの問い合わせやトラブルに迅速かつ適切に対応できる賃貸管理会社であれば、入居者の満足度が高まり、退去率の低下につながります。
このように、管理体制がしっかりしている物件は、入居者にとって快適で安心できる住まいとなり、結果として高い入居率を維持しやすくなります。不動産投資においては、物件そのものだけでなく、管理の質にも目を向けることが重要です。
●立地条件が良い
建物・設備の充実や管理体制に加え、立地条件も物件の価値を大きく左右する要素であり、入居者が物件を選ぶ際の決定的なポイントとなります。特に、公共交通機関へのアクセスは入居率に直結する要素となります。
また、周辺環境も重要です。スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどの商業施設が近くにあることで、日常生活の利便性が向上し、入居希望者にとって魅力的な条件となります。加えて、学校や病院、公園といった生活インフラが整っているエリアでは、ファミリー層の需要も高まります。
さらに、治安の良さも入居者が重視するポイントです。犯罪率が低く、街灯が多いエリアや、駅からの道が明るい場所は、単身者や女性にとって安心できる環境となり、入居率の向上につながります。
建物・設備の充実や管理体制については、物件の購入後に見直すこともできますが、立地条件については見直すことができないため、十分な検討を行った上で物件選定をすることが重要です。
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