2025年のTOB(株式公開買い付け)件数が100件(届け出ベース)に到達した。前年は年間で100件ちょうどだったが、今年は3カ月半を残して100件の大台に2年連続で乗せた。
例年、10~12月が1年で最も件数が伸びることから、今後、どこまで記録を伸ばすのか注目される。またTOBのうち、MBO(経営陣による買収)を目的した案件はすでに21件と過去最多に並ぶ。
前年比6割のハイペース
今年のTOBが100件に達したのは9月12日。出光興産と博報堂DYホールディングスの2社がTOB開始を関東財務局に届け出たことで、100件ジャストとなった。前年のこの時期は60件(9月10日)だったので、6割を超える大幅な増加となる。

出光興産は持ち分法適用関連会社で石油精製を手がける富士石油、博報堂DYはインターネット広告代理店のデジタルホールディングスに対し、それぞれ完全子会社化を目的にTOBを始めた。
TOBが成立すれば、富士石油、デジタルホールディングスはいずれも東証プライム市場への上場が廃止となる。
国内投資ファンドの健闘が目立つ
今年のここまで100件のTOB対象企業の上場区分(韓国証券取引所上場、非上場の各1社含む)をみると、東証スタンダードが40社で最も多く、東証プライム37社、東証グロース13社、名証3件、東証リート(不動産投資信託)3社、その他4社。
TOBの目的は子会社化60件、MBO21件、親子上場解消9件、純投資・買い増しなどが10件。
また、買付者が投資ファンドとなった案件は25件と全体の4分の1を占め、引き続き牽引役となっている。ただ、25件のうち14件に国内投資ファンドが関与し、海外ファンドの独壇場だった前年(27件中、海外ファンドが21件)と打って変わり、健闘が目立つ。
MBOもTOB件数を押し上げている。今年は21件とすでに前年の年間19件を上回り、過去最多の2011年に並ぶ。
背中を押す「東証要請」
TOB増加の背景として見逃せないのは東京証券取引所が2023年3月にプライム市場とスタンダード市場の上場企業に要請した「資本コストと株価を意識した経営の実現への対応」だ。
PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る割安企業は、物言う株主(アクティビスト)の経営介入を招きやすく、買収の標的になる懸念がある。このため、投資ファンドとの連携やMBOによる株式の非公開化で先手を打つ動きが広がっているとみられる。
例えば、今回、博報堂DYがTOBを始めたデジタルホールディングスでは物言う株主のシンガポール系投資ファンドのシルバーケイプ・インベストメンツが10%強の株式を保有する大株主となっており、こうした物言う株主の存在がTOB受け入れの決め手の一つになった可能性もある。
立ちはだかる上場維持基準
昨年来、「上場基準」未達による上場廃止を避ける動きが顕在化している。上場廃止のおそれをTOB受け入れの理由にあげたケースは少なくとも11件あり、全体の1割を占める。
東証の市場区分見直しから3年となる2025年3月以降、上場維持基準に未達でも上場を認める「経過措置」が順次終了している。改善期間(通常1年)内に基準に適合しないと、監理・整理銘柄に指定(6カ月間)後、上場廃止となる。
東証スタンダード上場で電子写真プリンターなどを手がける桂川電機はMBOを8月から実施中だが、流通株式時価総額(10億円以上)を満たしていない状況を踏まえ、株主に早期に売却機会を提供するとしている。
今年は案件の大型化も目立つ。NTTは親子上場の解消を目的にNTTデータグループに2兆3000億円規模のTOBを5月から6月にかけて実施した。
6月初めには、トヨタ自動車に源流企業である豊田自動織機がトヨタグループによる総額4兆7000億円の買収・非公開化を受け入れると発表。日本企業のM&Aとして歴代2位の超大型案件だが、これに関連するTOB(3兆7000億円規模)は12月をめどに予定されている(現時点の集計には含まず)。
コロナ禍を経てTOBラッシュが再来
TOB件数はリーマンショック前年の2007年に最多の104件を記録した。
2010年代に入ると、TOBは年間40~50件で推移。コロナ禍初年の2020年(60件)を境に復調に向かい、21年70件、22年54件、23年74件を経て、24年は一気に100件まで件数を伸ばした。
文:M&A Online
【M&A Online 無料会員登録のご案内】
M&A速報、コラムを日々配信!
X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック
【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック