
ペット保険最大手のアニコム ホールディングス<8715>は、M&Aによる動物病院の事業承継を加速する。
病院経営を譲り受け、アニコムグループの病院として運営することで、グループのスケールメリットを活かし、動物病院事業を拡大する。
今後3年間(2026年3月期~2028年3月期)に、動物病院の事業承継はじめ、ロボット手術を含む最先端の高度獣医療を提供する動物病院の整備や、健康ケア商材の新規開発などに70億円を投じる。
業容とペット保険事業の拡大目指す
動物病院の事業承継では、病院経営は退きたいが臨床は続けたいなどのオーナー(病院長)のニーズに応え、譲渡後もグループの社員や業務委託など形で動物病院運営に関わることを可能にした。
さらに事業承継した動物病院の勤務獣医師や看護師らのスタッフも、アニコムグループの社員として動物病院を継続していくことができるという。
これまでのM&Aは、2020年にペット関連インターネットサービスのシムネット(仙台市)を子会社化したのをはじめ、2022年にHong Kong Anicom Company Limited(香港愛你康有限公司)を、2024年にブリーディング(ペットの繁殖)事業を手がけるフローエンス(千葉県市原市)を子会社化した実績がある。
シムネットはブリーダーマッチングサイト「みんなのブリーダー」「みんなの子猫ブリーダー」などを運営しており、傘下に収めることでブリーダーとの接点を増やし事業拡大につなげるのが狙い。
フローエンス(千葉県市原市)も、ブリーディングを通じて、飼い主との接点を広げることで、事業の拡大が可能になる。
今後は動物病院の事業承継を通じて、これまでのM&Aと同様に業容の拡大と主力事業であるペット保険事業の伸長を目指す。
今後は合従連衡が進行
アニコムでは、今後のペット保険市場について「競争の激化や損害率(集めた保険料に対して、実際に保険金として支払った割合)の上昇によりネット型保険の事業撤退が相次ぎ、合従連衡が進行する」と見る。
すでに近年では、アクサ損害保険が「アクサダイレクトのペット保険」の販売を2024年6月に終了したほか、イーペット少額短期保険も2024年7月に「e-ペット 70・50」の販売を終了した。
イーペット少額短期保険では販売終了の理由を「医療費の上昇の影響で、想定を超える保険金の支払いが続き、安定した事業を継続していくことが困難と判断した」としている。
また、法人向けに顧客管理や営業支援などのクラウドサービスを提供しているスカラ<4845>は2025年6月に、ペット保険子会社の日本ペット少額短期保険(東京都渋谷区)を、ホームセンターのカインズなどを傘下に持つベイシアグループ総研(埼玉県本庄市)に譲渡した、などの事例がある。
2026年3月期は6期ぶりの経常減益
アニコムは2000年にanicom(動物健康促進クラブ)から、どうぶつ健保(ペット共催)に関わる事業を受託するため設立されたピ-エスピーが前身。
2008年にペット保険を専門に扱う損害保険会社として営業を開始し、同年にアニコム ホールディングスに社名を変更した。
2014年に動物医療分野の基礎研究の推進、先進医療の開発に向けた臨床などを行うため、「日本どうぶつ先進医療研究所(現 アニコム先進医療研究所)」を設立するなど保険以外の事業に進出。
現在はペット保険に加え、獣医療や遺伝子解析、腸内細菌叢(腸内フローラ)検査などの事業を展開しており、これら事業によって他社と差別化しているのが強みで、同社によると2009年から2023年まで連続で国内のペット保険トップシェアを維持しているという。
アニコムの2025年3月期の経常収益は676億8300万円(前年度比12.0%増)、経常利益は49億4100万円(同18.8%増)と、経常収益、経常利益ともに2ケタの増加となった。
2026年3月期は経常収益は7.9%増加するものの、高度獣医療を提供する動物病院などへの投資がかさみ経常利益は33.2%の減少を見込む。経常減益は2020年3月期以来6期ぶりとなる。
動物病院の事業承継は、同社の今後の業績にどのような影響を与えるだろうか。

文:M&A Online記者 松本亮一
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