キヤノンマーケティングジャパン(MJ)は二つの顔を持つ。カメラやプリンター、事務機器などキヤノン製品の国内販売を一手に担う。
東京日産コンピュータを買収
キヤノンMJは9月26日、東京日産コンピュータシステム(東証スタンダードに上場)に対するTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。TOBには93%余りの株式の応募があり、残る株式については今後買い取りの手続きを進め、完全子会社化する。買収金額は約110億円となる見込み。
東京日産コンピュータシステムは1982年に東京日産自動車販売(現日産東京販売ホールディングス)のコンピューター部門が分社・独立して発足した。自動車をはじめ、重工、石油・化学、建設・建材など幅広い業界に顧客を持つ。2023年3月期業績は売上高81億円、営業利益6億円。
今回の買収は成長戦略の柱と位置付けるITソリューション事業の業容拡大を狙いとしている。この分野では過去、数度の買収実績を持つものの、前回は2011年にさかのぼる。
数えて4社目となるTOB
キヤノンMJは医療関連用品メーカーのエルクコーポレーション(現キヤノンライフケアソリューションズ)、商務用高速プリンターメーカーの昭和情報機器(現キヤノンプロダクションプリンティングシステム)の上場2社をいずれもTOBで子会社化した。前者は医療関連事業、後者はデジタル商業印刷・帳票印刷事業の強化を目的とした。
さらに、その4年前の2007年には独立系SI会社のアルゴ21(現キヤノンITソリューションズ)を同じくTOBで傘下に収めた。
TOBは上場企業を買収する際の代表的な手法。キヤノンMJにとってTOBは今回の東京日産コンピュータシステムで4社目で、12年ぶりに“伝家の宝刀”を抜いた形だ。
この間、一連のTOBで子会社化した企業を中心にグループ再編を活発に進めてきた。同時に、2014年にガソリンスタンド向けシステム開発子会社のガーデンネットワークを、2020年には人材教育子会社のエディフィストラーニングを売却するなど、事業の入れ替えにも取り組んできた。ただ、買収に限れば、消極的だったと言わざるを得ない。
キヤノンMJは現行の中期経営計画(2022年~25年の4カ年)で、M&A・出資、情報システム、人材で合計2000億円超の投資を想定している。投資規模は前中計の倍以上にあたる。
M&A枠など具体的な配分は明らかにしていないが、DX(デジタルトランスフォーメーション)や映像、ドキュメントサービス、データセンター、セキュリティーなどのITソリューション領域の成長加速を主眼とする。
旧住金のシステム会社を傘下に
キヤノンマーケティングジャパンは1968(昭和43)に、キヤノンの事務機営業部門を母体にキヤノン事務機販売として設立した。1971年にキヤノンカメラ販売、キヤノン事務機サービスを吸収合併し、キヤノン販売に社名を変更。2006年に現社名となった。一貫して国内でのキヤノン製品の提供を任務としてきた。
もう一方の柱であるITソリューション事業は複合機など事務機器の販売を起点に、関連するドキュメント(文書)や映像のソリューション提供から始まった。事業基盤の拡充に向けて弾みをつけた他ならぬM&Aだった。
そのゴングが鳴ったのはキヤノン販売時代の2003年。住友金属工業(現日本製鉄)子会社の住友金属システムソリューションズを買収したのだ。2008年には、その前年に傘下入りしていたアルゴ21と合併し、現在のキヤノンITソリューションズが発足し、ITソリューション事業の中核を担うまでに成長した。
キヤノンMJの2022年3月期業績は6.5%増の5881億円、営業利益25.8%増の499億円、最終利益20.8%増の355億円。営業利益と最終利益が過去最高となった。売上高はコロナ禍による落ち込みで2020年12月期から5000億円台で推移しているが、2023年12月期予想は4期ぶりに6000億円台(6240億円を予想)に戻す見込みだ。
◎キヤノンMJの業績の推移(単位は億円)
2021/12期 22/12期 23/12期予想 売上高 5521 5881 6240 営業利益 397 499 500 最終利益 294 355 356キヤノン製品事業との逆転も視野に
ITソリューション事業の売上構成比率は41%。現社名に変更前の2005年当時は17%だったが、倍以上に拡大した。祖業であるキヤノン製品事業との逆転も視野に入る。
現中計では最終年度の2025年12月期に売上高6500億円を掲げるが、このうちITソリューション事業で3000億円(2022年12月期2414億円)を計画している。
キヤノン製品事業をめぐってはデジタルカメラの普及、ペーパーレス化、テレワークの広がりなどに伴い、継続的な市場縮小が想定されている。これに対し、DX進展を追い風に、ITソリューション事業は引き続き旺盛な需要が見込まれる。
次期中計、さらに2030年を見据え、大きな経営テーマとなるのが新たな事業領域の開拓だ。持続的成長に向け、ITソリューション事業を中核とした事業ポートフォリオ(構成)に転換を着実に進めつつ、第3の柱となる新事業の探索と創出が求められる。
キヤノンMJはアフターコロナが到来した今年、本格的なM&Aを12年ぶりに再起動した。次の布石づくりとして大型買収を繰り出すことになるのか、要ウオッチといえる。
◎キヤノンMJの沿革
年 主な出来事 1968年 キヤノンの事務機営業部門が母体となり、キヤノン事務機販売として設立 1971年 キヤノンカメラ販売など2社を吸収合併し、キヤノン販売に社名を変更 1981年 東証2部上場 1983年 東証1部上場 1989年 日本リニアック(現キヤノテック)を子会社化 2003年 住友金属システムソリューションズ(現キヤノンITソリューションズ)を子会社化 2006年 キヤノンマーケティングジャパンに社名変更 2007年 アルゴ21(現キヤノンITソリューションズ)をTOBで子会社化 2011年 エルクコーポレーション(現キヤノンライフケアソリューションズ)をTOBで子会社化 〃 昭和情報機器(現キヤノンプロダクションプリンティングシステム)をTOBで子会社化 2022年 東証プライム上場に移行 2023年 8月、東京日産コンピュータシステムをTOBで子会社化すると発表文:M&A Online