【フジ・メディア・ホールディングス】成功した不動産事業の買収が「物言う株主」の標的に

フジ・メディア・ホールディングス<4676>が、元タレントを巡る性加害騒動で厳しい非難にさらされている。それに乗じてアクティビスト(物言う株主)による圧力が日に日に高まっている。

彼らの狙いはフジの稼ぎ頭である不動産事業の売却だ。その行方は?

ライブドア事件で危うく買収される危機に

フジのM&Aで最も知られているのは、2005年に起きた「ニッポン放送ライブドア事件」だろう。堀江貴文氏率いるライブドアが、フジテレビの経営権を取得するために、当時同社の筆頭株主だったラジオ局のニッポン放送に買収を仕かけた。規模の小さい親会社を買収することで大きな子会社の経営を支配する「ベタ」な手法だったが、いわば歪(いびつ)な親子関係を維持したままのフジが狙われた格好だ。

最終的にはライブドアとフジテレビが和解して経営権を取得されることはなかったが、ライブドアが取得していたニッポン放送株の買い戻しとライブドアの第三者割当増資の引き受けなどで、フジは総額1400億円もの負担を強いられた。

同社は事件収束後、直ちにニッポン放送株式1株につき6300円の現金交付の簡易株式交換により、約241億円で同社を完全子会社化して「親子関係」を企業価値に準じる形で正常化。2006年にはニッポン放送を吸収合併することで、「つけ入られる隙」を完全に封じた。

地デジ化で系列ローカル局の株を追加取得

ちょうどこの頃、民放テレビ業界では大きな「地殻変動」が起こっていた。一つは2003年から導入が始まった地上デジタル放送だ。2011年(東日本大震災の被災地は2012年)に従来のアナログ放送が終了し、デジタル放送へ完全移行している。

デジタル放送ではアナログ放送よりも高い周波数帯を利用するため、山間部などでは電波が届きにくい。山間部を多く抱えるローカル局ではデジタル化に伴う設備更新に加えて、従来よりも多数の基地局が必要になるため経営を圧迫した。

フジは2012年に秋田テレビ、岩手めんこいテレビ、岡山放送、沖縄テレビ放送、仙台放送、テレビ新広島、新潟総合テレビ、福島テレビ、北海道文化放送、関西テレビ放送などの株式を追加取得、持分法適用会社とした。これは地上デジタル放送への移行で負担が重くなったローカル局の経営支援が目的だ。

ネット配信による「テレビ離れ」に対応した不動産事業の取り込み

もう一つは2007年頃から米国で始まった、インターネットによる動画配信サービスの台頭だ。日本では2011年にHulu、2015年にNetflix、アマゾンプライムビデオといった米国勢が国内向けサービスを開始。いずれも映画やテレビ番組の再配信から始まったが、後にオリジナル制作番組でヒットを飛ばし、地上波テレビから視聴時間を奪う「テレビ離れ」を招く大きな脅威になった。

フジはNetflixの日本上陸と同時に、同社と「テラスハウス」や「アンダーウェア」といった日本オリジナル作品を共同制作するなど、ネット動画配信サービスにも目を向けている。

その一方でフジは地上波放送の「成長の限界」と米ネット動画配信サービスの「黒船襲来」を受けて、放送事業だけでの生き残りは厳しいと判断したようだ。フジのM&Aも放送事業に代わる事業の獲得を目指すようになる。

その最たるものが、2013年にサンケイビルを492億7200万円のTOBで子会社化した案件だろう。不動産事業という安定収入を取り組むことで、放送事業の収益減を補填しようとした。

現在、フジの売上高はメディア・コンテンツ部門が2053億円で全体の74.5%と大きいが、営業利益では不動産事業を手がける都市開発・観光部門が98億円と全体の65.6%を占める「稼ぎ頭」だ。都市開発・観光による収益の大半は、サンケイビルと同社子会社の資産運用会社サンケイビル・アセットマネジメントが稼いでいる。

物言う株主から「不動産事業」売却の要求

これにかみついたのがアクティビスト(物言う株主)ファンドの米ダルトン・インベストメンツだ。ダルトンは不動産事業を抱えるフジのグループ体制を「非効率なコングロマリット企業構造」と批判した。同社に資産売却などのリストラに取り組めば企業価値の向上が見込めると主張。2024年5月にサンケイビルなどが持つ不動産の証券化や持ち合い株の売却で資金調達し、MBO(経営陣が参加する買収)を実施するよう要求した。

この提案はフジが拒否している。

これはフジが不動産事業を買収したことが招いた事態とも言える。同社に不動産事業がなければ、ダルトンが手を出す可能性は極めて低かっただろう。

この要求をフジが受け入れる可能性はほとんどない。ところが2025年に入ってフジは「激震」に見舞われた。元タレントの性加害騒動で、フジは世論からの激しい批判を浴びたのだ。

ダルトンはこの機を逃さず、3度にわたって文書を送付、その内容を公開した。独立した第三者委員会事件による真相解明や再発防止策の策定、経営陣の責任追及、オープンな記者会見の開催、日枝久取締役相談役の辞任要求などを次々と突きつけて、フジを揺さぶった。その延長線上にあるのが不動産事業売却の再提案だ。

性加害事件で苦境のフジが不動産事業を売却する可能性は低いが…

株式市場ではダルトンの圧力でフジが不動産事業を売却するのではないかとの期待から、事件に伴う広告出稿停止で収益の急降下が確実な状況にもかかわらずフジの株価は上昇した。

とはいえ、収益が悪化すればするほどフジにとっては不動産事業を手放せなくなる。ダルトンの主張に他の株主が追従するかどうかがカギになるが、同社をはじめとするアクティビストファンドが選んだ取締役が過半数を占めない限り、不動産事業の売却は考えにくい。

一方、フジとしても一部とはいえ大株主から不動産事業に厳しい目が向けられた以上、新たな収益事業を探さざるを得ないだろう。その手法としては、やはりM&Aになるはずだ。同社はこれまでも多くのM&Aを実施しており、これからも不動産事業に代わらないまでも「補助エンジン」となりうる新規事業の買収に乗り出す可能性が高い。

フジ・メディア・ホールディングスの主なM&A(2005年以降)

公表年月内 容 2005年3月 不動産事業を手がけるのサンケイビルの第三者割当増資にて93億3400万円にて引き受け、持株比率を11%から26%へ引き上げ 2005年5月 ニッポン放送の議決権32.5%を保有するライブドアパートナーズの全株式を取得 2005年9月 産業活力再生特別措置法に基づき、ニッポン放送株式1株につきフジテレビ株式ではなく、6,300円の現金交付の簡易株式交換(約241億円)により完全子会社化 2006年4月 ニッポン放送ホールディングスを吸収合併 2007年3月 ポニーキャニオンと扶桑社を完全子会社化、ビーエスフジの株式を追加取得して持株比率を39.5%から44.5%へ引き上げ 2007年11月 ディノスの株式を追加取得し完全子会社化 2008年2月 富士パシフィック音楽出版の株式を追加取得し完全子会社化 2008年5月 サンケイリビング新聞社の全株式を48億1400万円にて取得し、完全子会社化 2011年4月 ビーエスフジを株式交換により完全子会社化。取得価額は83億800万円 2012年3月 秋田テレビ、岩手めんこいテレビ、岡山放送、沖縄テレビ放送、仙台放送、テレビ新広島、新潟総合テレビ、福島テレビ、北海道文化放送を追加取得し持分法適用会社へ 2012年4月 持分法適用関連会社だった番組制作会社のNEXTEP株式を追加取得し完全子会社化 2012年6月 関西テレビ放送の株式を追加取得して持分法関連会社化 2013年3月 持分法適用関連会社であったサンケイビルをTOBにより持株比率を31%から97.1%に引き上げて子会社化。取得価額は492億7200万円 2014年1月 スタジオアルタを売却し、持分法関連会社から除外 2014年4月 エグジットチェーンの株式を追加取得し完全子会社化 2014年9月 健康食品等の製造・販売を行うアルマードの株式を売却 2015年4月 ホテル運営等を行うグランビスタホテル&リゾート株式99.6%を取得して子会社化 2015年9月 子会社で婚礼プロデュースを手がけるストーリアの全株式をエスクリへ譲渡 2016年2月 子会社のディノス・セシールを通じて、イードの保険相談サービス事業を取得 2016年11月 持ち分法適用関連会社だった仙台放送の持株比率を33.3%から72.3%に引き上げて子会社化 2018年3月 完全子会社でタウン紙発行のサンケイリビング新聞社をRIZAPグループに譲渡 2020年11月 子会社の通販大手ディノス・セシールの「セシール」事業をノジマに譲渡

文:糸永正行編集委員

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