
物流業界最大手の日本通運の持ち株会社であるNIPPON EXPRESSホールディングス<9147>が、中期経営計画の目標として掲げる「非連続な成長」の実現に向け一歩踏み出した。
同社は2023年11月から2024年5月までの間に、オーストリアの物流大手カーゴ・パートナーを子会社化する(2023年5月に発表)。
さらに子会社化後のカーゴ・パートナーの業績に応じて最大約832億5000万円を売り主に追加で支払うことなっており、これを加えると買収金額は2.5倍近くになる。
カーゴ・パートナーは63社で構成される企業グループで、グループ全体の売上高は約3100億円。これはNIPPON EXPRESSの年商の12%ほどに当たる金額であり、これが加われば非連続な成長につながることなる。NIPPON EXPRESSはどのような未来を描いているのだろうか。
中東欧地域の物流基盤を強化
NIPPON EXPRESSは1937年に「日本通運株式会社法」に基づく国策会社として誕生。母体は鉄道輸送の発着両端の輸送を行う小運送業者間を取りまとめる国際通運で、これに同業者6社が加わってスタートした。
1950年に株式を上場し、民間企業として再出発。1964年の東京オリンピックや1970年の日本万国博覧会、1972年の札幌冬季オリンピックなどで物流にかかわったほか、名画「モナ・リザ」や鉄道車両などさまざまなモノの輸送を担ってきた。
近年のM&Aとしては2013年に、パナソニック傘下の倉庫・物流業のパナソニックロジスティクスを、2015年にはワンビシアーカイブズを子会社化した。
さらに2018年にイタリアのアパレル物流会社トラコンフを、2020年に米物流会社のMD Logisticsと、MD Expressをそれぞれ子会社化。そして今回のカーゴ・パートナーの買収へとつながった。
カーゴ・パートナーはウィーンを本拠地とし、中東欧地域に物流基盤を持ち、自動車、電機、電子、医薬品産業の海運、航空フォワーディング事業を中心に欧州、アジア、北米で国際物流を展開している。
NIPPON EXPRESSは同グループの買収を機に、欧州域内の生産拠点として今後成長が見込まれる中東欧地域の物流基盤を強化し、グローバル市場での競争力向上を目指すという。

海外売上高比率を2倍に引き上げ
NIPPON EXPRESSホールディングスは、2022年1月に日本通運の持ち株会社として発足。その際に2019年2月に策定した中期経営計画の名称を「NXグループ経営計画2023-非連続な成長“Dynamic Growth”-」に変更するとともに、翌2月に内容の見直しを行った。
この見直しでは大きな計画変更はせず、長期ビジョンの達成を目指すとする中で、改めて非連続な成長を強調し「海外におけるM&Aの強化」を目標に定めた。その具体的な取り組みの一つがカーゴ・パートナーの買収だった。
計画は創立100周年に当たる2037年に目指す姿を盛り込んでおり、この時点の数字目標として売上高3兆5000億円-4兆円(2023年は2兆4500億円)。営業利益率5%超(同4%)、海外売上高比率50%(同25%)を掲げた。
これら目標を達成するのにポイントとなるのが、海外M&Aだ。経営計画の中にもM&A推進チームの強化やM&A推進チームと事業部門の連携強化の必要性を上げているほか、買収資金についても資産売却や流動化を推進するとしている。2037年までにはまだ15年ほどある。M&Aはこれからが本番となる。
中期経営計画最終年は減収減益に
一方、足元の業績ははかばかしくない。
同社の2023年12月期第1四半期決算によると、航空輸送、海上輸送の需給逼迫状況の緩和などの影響を受け、国際貨物輸送の取扱いが日本、東アジア、南アジア、オセアニアを中心に減少したことなどから、10.0%の減収、10.7%の営業減益を余儀なくされた。
国際物流は、自動車や電子機器などの減産の影響を受けて低調に推移しており、航空輸送や海上輸送の需要逼迫状況も大幅に緩和されている。また、国内物流は、円安の影響や世界経済の減速と連動して製造業で生産が落ち込んでおり、荷動きは力強さに欠ける状況が続いている。
こうした状況が急速に改善する兆しはなく、第2四半期以降も厳しい経営が続きそうだ。2023年12月期は2019年にスタートした5カ年の中期経営計画の最終年だが、減収減益は避けらそうにない。
同社では2024年から2028年までの次の中期経営計画の目標数字として、2028年12月期に売上高3兆円、営業利益1500億円、海外売上高比率40%を上げている。この5年間で売上高を5500億円ほど引き上げる計画で、この増収分はすべて海外売上高を増やすことで実現する考えだ。
「グローバル市場で存在感を持つメガフォワーダー(運送事業者)を目指す」とする同社の計画を達成するうえで、M&Aは無くてはならない存在と言えそうだ。

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文:M&A Online