
不動産大手の住友不動産<8830>は、2026年3月期から2028年3月期までの3カ年の中期経営計画の中で、新たな好球必打投資やM&Aなどに2600億円を投じる計画を打ち出した。
2008年以降の適時開示情報によると、同社がかかわったM&Aは2件しかなく、いずれも譲渡案件であり、M&Aとくに企業買収には距離を置いていることが分かる。
そのような同社が思い描く好球必打投資やM&Aとはどのようなものなのだろうか。
新築そっくりさん事業と注文住宅事業を統合
住友不動産がかかわったM&A(適時開示情報)は、住宅の施工、販売を手がける子会社のユニバーサルホームを売却した案件(2008年)と、中国でマンション開発・分譲を手がける子会社の大連青雲天下房地産開発有限公司の全出資持ち分(75%)を、合弁相手に譲渡した案件(2020年)の2件。
当時ユニバーサルホームは厳しい経営環境下にあり、MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化した上で経営改革を進めることにした。
大連青雲天下房地産開発有限公司は、合弁相手の大連億達管理諮詢有限公司からの申し出に沿って売却を決めた。
このほか経営権は異動していないが、企業価値の向上や事業の再編などを狙いにした案件もある。
70.38%の株式を保有する住友不動産販売をTOB(株式公開買い付け)で、完全子会社化した案件(2017年)と、新建替えシステム「新築そっくりさん」と注文住宅事業を統合した事業を担う新会社の住友不動産ハウジングの設立(2025年4月)がそれだ。
住友不動産販売の完全子会社化は、住友不動産グループの企業価値の最大化や、住友不動産販売の中長期的な企業価値の向上につながると判断した。
住友不動産ハウジングは、リフォーム事業である新築そっくりさん事業と、注文住宅事業を会社分割(吸収分割)によって承継した企業で、将来有望な事業部門をさらに強化し、飛躍的な成長を目指すのが狙いだ。
プライム資産の開拓に注力
では新たな好球必打投資やM&Aとは、どのような内容になるのだろうか。ビジネスの場面では好球必打とは、好機を逃さずチャンスを最大限に活かすことを意味する。
住友不動産の場合は、東京都心部での豊富は都市再開発の実績があり、こうした同社の強みに沿った投資を指すと理解してよさそうだ。
同社は好立地の希少性の高いビルをプライム資産としており、東京都新宿区の新宿住友ビルや、東京都港区の泉ガーデンタワー、東京都中央区の東京日本橋タワーなどをプライム資産として位置付けている。
中期経営計画では「希少性の高いプライム資産を大幅に積み上げる」との方針を掲げており、新宿住友ビルなどのようなプライム資産と並ぶ、条件の良い物件を取得するチャンスがあれば投資を積極的に行うとともに、高い収益が見込める案件であれば、企業や事業の買収も行うということになる。
また好球必打という言葉からは、価値のある案件に集中投資することや、好機だと判断したら、迅速に実行するなどの姿勢もうかがえる。
同社では好球必打投資やM&Aに要する資金を機動的資金枠として3年間で2600億円を見込んでおり、まさに好機に即座に動けるような体制を敷いているのだ。
ムンバイを東京と並ぶ⼀⼤事業拠点に
住友不動産は1949年に、財閥解体により住友本社の不動産部門を継承する会社(泉不動産)として設立され、1957年に現社名の住友不動産に変更した。
1964年に、神戸市で浜芦屋マンションを分譲し、分譲マンション事業に進出したほか、1972年にはハワイで現地法人・エカハヌイ・インクの経営権を取得し、ゴルフ場事業に進出した。
さらに1986年に住友不動産フィットネスを設立し、フィットネス事業に進出(現 住友不動産エスフォルタ)するなど業容を拡大し、2014年には分譲マンションで初の年間供給戸数日本一を達成した。
インド事業会社 Goisu Realty Pvt. Ltd.を設立した2019年以降は、インド・ムンバイでの事業拡大に力を注いでおり、2025年5月にムンバイで新たに2件の物件を取得し、すでに取得していた3件の物件と合わせた総事業費が1兆円規模に達した。
同社では、今後3年間(2026年3月期~2028年3月期)に、東京とムンバイで取得済み事業用地への追加投資として7000億円を投じる計画で、その後も投資を続け、10年後には投資総額が2兆5000億円に達するとの見通しを持つ。
同社が力を入れているムンバイでは、オフィスビルなどの開発、テナント誘致、管理までを行う、東京同様のオフィスビル事業を展開している。
すでに取得済みの3物件の開発は、鉄道駅などのインフラ整備が進む地区の中にあり、第一号の計画は2026年秋にも稼働する予定で、新たに取得した2物件では、オフィス⽤途に加え、⾼級ホテルなどを含む、複合⽤途開発を計画している。
同社では継続した投資で、持続的な成⻑を実現し、ムンバイを「東京と並ぶ⼀⼤事業拠点」にするとしている。
5期連続の増収営業増益に
住友不動産は、総売上高の40%強を占めるオフィスビルや高級賃貸マンションなどの開発、賃貸事業を行っている「不動産賃貸事業」、同30%ほどのマンション、戸建て住宅、宅地などの開発分譲事業を行う「不動産販売事業」、同20%ほどの新築そっくりさんと戸建て住宅などの建築工事請負事業を行う「完成工事事業」、同10%弱の不動産売買の仲介、住宅などの販売代理、賃貸仲介を行う「不動産流通事業」などで事業を構成している。
2025年3月期は、東京のオフィスビルを中心とする不動産賃貸事業が好調だったほか、分譲マンションの販売単価上昇により粗利率が改善したことなどから売上高は1兆142億3900万円(前年度比4.8%増)、営業利益は2715億1600万円(同6.6%増)と売り上げ、営業利益とも過去最高を更新した。
2026年3月期も堅調に推移し、1.6%の増収、6.8%の営業増益を見込んでおり、増収営業増益は2022年3月期以来5期連続となる。
日本の不動産業界は少子高齢化をはじめ、建設費や住宅ローン金利の上昇懸念などの影響で、市場の縮小が見込まれおり、海外展開を強化する不動産企業が少なくない。
一方、現時点では日本の不動産投資市場は堅調に推移しており、東京都内の不動産に対する国内外の富裕層、投資家による取引は活発で、今後もしばらくは高水準の投資が見込まれている。
住友不動産の新しい中期経営計画は、こうした情勢に沿った内容となっており、うまく波に乗っているといえそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一
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