TAKISAWA<6121>は中堅工作機械メーカー。主力のNC(数値制御)旋盤に複合加工機などを手がける。
主な用途は自動車部品加工で、全体の5割を超える。2022年8月に創業100周年を迎えた老舗企業だ。そこにニデック<6594>が買収の手を伸ばした。現時点でTAKISAWAは本TOBへの意見を表明していない。
敵対的買収も辞さぬニデックに、どう対応する?
ニデックは「工作機械事業の拡大に力を入れており、手つかずの旋盤事業が必要だ」と主張する。TOB価格は1株当たり2600円で、発表前日の終値に対して約80%もの高プレミアムをつけた。ニデックの永守重信会長は「買付価格はTAKISAWAの株主にメリットがある。経営陣が拒否したら異常だ」と、敵対的TOBも辞さぬ構えだ
ニデックは経済産業省が2023年6月に示した「企業買収における行動指針」(案)で、「企業が買収提案を受けた場合の行動として、速やかに取締役会に付議して企業価値向上の観点から十分に検討し、定量的にも比較検討することが望ましい」としていることを強調。永守会長も「わが社と一緒になれば、双方がハッピーになる。経済産業省もM&Aを積極的に推進している」と発言、TAKISAWAの取締役会も無碍には拒否できないとみている。
だが、事はそう簡単に運ばない可能性がある。それというのもTAKISAWAの大株主は産業用ロボット大手のファナックや地元地銀の中国銀行など10団体・個人が、発行済み株式数の37.92%を押さえている。これらの大株主は同社と関係が深く、敵対的TOBとなった場合は応募しない可能性が高い。
新株予約権の付与でTOBを阻止する道も
しかも、同社は既存株主に新株予約権を無償で割り当てる買収防衛策の「ポイズンピル」を導入しており、一筋縄ではいかない可能性があるからだ。
ポイズンピルとは既存株主に買収者のみが行使できないオプションを付与しておき、敵対的買収の際に買収者以外の株主がオプションを行使して相手の持ち株比率を低下させたり、必要な買収コストを増加させることで買収を困難にする手法だ。日本では「事前警告型防衛策」で想定している新株予約権を活用した対抗措置となる。
日本で最初のポイズンピルは、2007年にブルドックソースが当時の筆頭株主だった米投資ファンドのスティール・パートナーズによる敵対的買収への対抗として実施した。スティール・パートナーズは新株予約権の発行差止めを裁判所に申し立てたが却下され、ブルドックソースは買収防衛に成功した。
一方、2005年にライブドアグループがニッポン放送の筆頭株主になったのを受けて、ニッポン放送が発行済株式数の1.44倍にあたる新株予約権をフジテレビに与えると発表。これに対してライブドアが新株予約権の発行の差止めを求める仮処分を東京地裁に申請して認められた。東京高裁もこの決定を支持し、ニッポン放送のポイズンピルは実施できなかった。
最近では2021年に輪転機最大手の東京機械製作所の買収に対するポイズンピルについて、買い手のアジア開発キャピタルが申し立てていた差し止めの仮処分を東京地裁と最高裁が却下。買収防衛に成功している。TAKISAWAが企業防衛策を実施した場合、ニデックによるTOBの先行きは予断を許さない。
TAKISAWAに依存する自動車業界の意向も
さらに気になるのは、TAKISAWAの主要顧客である自動車業界の意向だ。2016年に車載半導体大手ルネサスエレクトロニクスの買収に乗り出そうとした日本電産(現ニデック)を、大株主の産業革新機構と自動車メーカーがタッグを組んで阻止したのだ。
ルネサスの新社長に旧日本電産から事実上解任された同社元副社長の呉文精氏を招き入れるなど、徹底的に距離を置いた。
ワンマン経営者で意思決定が予測不能な永守会長が、自動車生産のカギを握るルネサスを経営支配することに、トヨタ自動車や日産自動車をはじめとする国産車メーカーが難色を示し、経産省もそれに追随したのだ。
2021年には、ニデックが2015年2月に買収した自動車エンジン用ウォーターポンプ大手の独GPM社が、英ジャガー・ランドローバーなどから品質問題で損害賠償を求められている。ニデックはこれに対応して「構造改革費用として600億円以上を計上する」と、2023年1月に発表している。
永守イズムの徹底したコストダウンが品質問題を引き起こした可能性も否定できない。自動車メーカーにとっても品質問題は致命傷になりかねないだけに、生産の品質と精度を左右する工作機械が『安かろう悪かろう』となることを非常に警戒している。
TOBを逃れてもPBR引き上げという難題が…
これまで数多くのM&Aを成功させてきた永守会長だが、TAKISAWAのTOBが成功するかどうかは、まだ未知数だ。もっともTAKISAWAがポイズンピルで二デックのTOBから逃れられたとしても、PBR(1株当たり純資産)1倍割れの解消という課題が突きつけられる。
TOBが不成立もしくはニデックの断念で失敗に終われば、TAKISAWA株の暴落は必至。持ち株比率で6割を占める個人株主から、激しい反発を受けるはずだ。TAKISAWAの独立は守られても、株主総会で経営陣の総退陣を求められる可能性もある。
自社株買いで株式数を減らし、1株当たりの純資産を増やすといった即効性があるPBR引き上げ策を打つなど、早急な対策が必要になるだろう。ニデックのTOBが失敗しても、TAKISAWAを待ち受ける苦境は長期化することだけは間違いない。
TAKISAWAの沿革 1922年8月 滝澤脩作、滝澤七三郎兄弟が、ボール盤、旋盤等の各種工作機械の製造販売を目的として、大阪市に個人経営で瀧澤鐵工所を創立。 1933年3月 創業者兄弟の郷里、岡山県玉島町(現倉敷市玉島)に玉島工場を新設。 1935年4月 大阪府布施市(現東大阪市)に布施工場を新設し、本社を移転すると同時に合名会社に改組。 1938年3月 大阪府若江村(現東大阪市)に若江工場を新設。 1944年10月 玉島工場に設備集中、本社を移転し、株式会社に改組。 1946年4月 平和産業転換工場として、各種食品機器、産業機器等の製造販売及び工作機械の修理加工を開始。 1950年6月 工作機械の製造を再開。 1962年9月 大阪証券取引所市場第二部に上場。 1963年2月 精密旋盤の本格的対米輸出を開始。 1963年5月 東京証券取引所市場第二部に上場。 1964年4月 岡山県吉備町(現岡山市北区撫川)に岡山工場を新設。 1966年10月 本社を岡山工場に移転。
1968年8月 数値制御装置付旋盤の生産を開始。 1971年9月 台湾に普通旋盤の製造販売を目的として、台湾滝澤機械股扮有限公司(現台灣瀧澤科技股扮有限公司(連結子会社))を設立。 1971年11月 工作機械の部品販売・サービス業務を目的として、滝沢鉄工テクノサービス株式会社を設立。 1979年8月 米国に販売・サービスを目的とするTAKISAWA MACHINE TOOL USA,CORP.(TAKISAWA U.S.A.,INC.)を設立。 1981年10月 立型マシニングセンターの本格的生産販売を開始。 1983年4月 本社工場敷地内に本社社屋及びFMS工場を新設。 1989年1月 英国の工作機械販売商社ROCKWELL MACHINE TOOLS LTD.(TAKISAWA U.K. LTD.)を買収。 1991年5月 オランダに販売・サービスを目的とするTAKISAWA BENELUX B.V.を設立。 1991年12月 英国にテクニカルセンターを新設。 1994年3月 玉島工場を本社工場へ集約後、閉鎖し売却。 1996年2月 TAKISAWA BENELUX B.V.を会社清算。 1997年3月 滝沢鉄工テクノサービス株式会社へ第三工場及び附属建物を譲渡し、生産の一部を移管。
2000年9月 タイに販売支援・サービスを目的とするTAKISAWA(THAILAND)CO.,LTD.を設立。 2002年11月 中国に台灣瀧澤科技股扮有限公司より瀧澤科技投資股扮有限公司(連結子会社)を通じ、製造を目的とする上海瀧澤機電有限公司(現上海欣瀧澤機電有限公司(連結子会社))を設立。 2003年2月 滝沢鉄工テクノサービス株式会社を吸収合併。 2003年2月 滝沢鉄工テクノサービス株式会社を新設分割。 2003年3月 米国に販売・サービスを目的とするTAKISAWA,INC.(連結子会社)を設立。 2003年3月 TAKISAWA U.S.A.,INC.を会社清算。 2005年4月 株式会社カスケードの株式を190株取得。 2005年12月 上海瀧澤機電有限公司の出資持分を株式会社ミヤノに譲渡、社名を上海瀧澤宮野機電有限公司と変更し、合弁会社化。 2008年8月 本社工場敷地内に研究開発棟(R&Dセンター)を新設。 2009年3月 本社工場敷地内にパーツセンター棟を新設。 2009年4月 中国に販売・サービスを目的とする滝澤商貿(上海)有限公司(連結子会社)を設立。 2009年7月 株式会社カスケードを吸収合併。
2010年1月 株式会社ミヤノが保有する上海瀧澤宮野機電有限公司の出資持分をすべて譲受することにより合弁を解消し、社名を上海欣瀧澤機電有限公司に変更。 2011年2月 インドネシアに販売支援・サービスを目的とするPT.TAKISAWA INDONESIAを設立。 2011年9月 TAKISAWA U.K. LTD.(2011年7月22日付でROCKWELL MACHINE TOOLS LTD.に社名を変更)の株式全部を売却。 2011年12月 台灣瀧澤科技股扮有限公司 台湾桃園縣楊梅市(現桃園市楊梅区)に第2工場を新設。 2012年1月 本社工場敷地内に第4工場を新設。 2012年4月 滝沢鉄工テクノサービス株式会社を吸収合併。 2012年12月 中国に販売・サービスを目的とする滝澤机床(上海)有限公司(連結子会社)を設立。 2013年1月 米国に台灣瀧澤科技股扮有限公司を通じ、販売・サービスを目的とするTakisawa Tech Corp.(連結子会社)を設立。 2013年3月 東京証券取引所市場第一部指定。 2013年6月 中国にテクニカルセンターを新設。 2015年3月 米国にテクニカルセンターを新設。 2017年1月 タイに台灣瀧澤科技股扮有限公司を通じ、販売・サービス支援を目的とするTAKISAWA Tech AsiaCo.,Ltd(連結子会社)を設立。 2018/3/1 瀧澤機電(浙江)有限公司(連結子会社)を設立。 2022年4月 東京証券取引所の市場区分の見直しにより市場第一部からスタンダード市場へ移行。 2022年10月 「株式会社滝澤鉄工所」から「株式会社TAKISAWA」へ社名(商号)変更。
(同社有価証券報告書より)
この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。
文:M&A Online