
ゼンショー<7550>は2023年11月、公募増資等により約500億円の資金調達を実施すると発表した。2024年1月5日までに約408億円を調達。
M&A資金として500億円の増資を発表
資金の行き先を推測するためにこれまでのM&A案件を振り返ってみよう。すき家事業を核として成長してきたゼンショーは2000年にファミレスチェーン「ココス」を買収して以降、M&Aにより経営の多角化を進めてきた。主な買収案件は以下の通りである。
年 ゼンショーの主なM&A 2000 ココスジャパンを買収 2002 ダイエーよりビッグボーイジャパンを買収 2005 なか卯を子会社化 2008 華屋与兵衛を子会社化 2013 小売事業強化のため、食品スーパーを展開するマルヤを子会社化 2018 米・テイクアウト寿司「アドバンスド・フレッシュ・コンセプツ」買収 2023/4 ロッテHDよりロッテリアを買収 2023/5 独・テイクアウト寿司「スシ・サークル・ガストロノミー」を買収 2023/9 英・テイクアウト寿司「スノーフォックス・トップコ」を買収2000年代はココスや華屋与兵衛といったファミリーレストラン関連のM&Aが目立つ。2010年代に入るとマルヤのほかマルエイも2013年に子会社化しており、小売事業の強化を進めた。
ゼンショーは牛丼事業で成長した創業から2000年までの期間を第1ステージとし、国内でM&Aを進めた15年までを第2ステージとして位置付けてきた。現在の第3ステージ(2030年まで)ではグローバルでのマルチブランド戦略をM&Aで推進する方針をとっており、「世界中の人々に安全でおいしい食を手軽な価格で提供する」という経営理念のもとに、マルチブランドで展開し、原材料の調達、製造・加工、物流の基盤強化を図り、多様なM&Aを実施。近年では、特に海外での寿司チェーン買収が目立ち、M&Aの軸足を海外に置いていることが分かる。
牛丼のイメージが強いゼンショーだが、M&Aを繰り返してきた結果、牛丼以外の存在も大きくなっている。2023年3月期は全社売上高7800億円に対して牛丼カテゴリーの売上は2622億円程度(33.6%)、M&Aで取得したブランドを数多く擁するレストランカテゴリーは1172億円と15%を占める。買収した海外寿司チェーン事業である「その他」カテゴリーは1060億円と14%で、小売事業の売上高は全体の約10%を占めている。
海外では持ち帰り寿司で勝負か
さて、獲得した400億円超のM&A待機資金はどこへ向かうのか。第3ステージ(2030年まで)は「グローバル」に注力しており、ここ数年の海外M&Aを振り返っておきたい。2018年に288億円で買収したアドバンスド・フレッシュ・コンセプツ(AFC)は米国を中心にカナダ、オーストラリアを含め、テイクアウト専門の寿司店を4000店舗以上展開する。FC主体で、17年6月期当時の売上高は2億2600万ドル(当時のレートで約251億円)だ。
2023年5月にはドイツのスシ・サークル・ガストロノミーを買収した(買収額は非公開)。22年末時点でテイクアウト寿司店221店舗、回転寿司店を7店舗展開し、ドイツ国内で2位の規模を誇る。
そして同年9月には英・スノーフォックス・トップコを買収した。買収額は874億円で、ゼンショーがこれまでにてがけたM&Aの中で最高額である。同社はイギリス・北米で約3,000店舗のテイクアウト寿司店を展開し、食品スーパーへの卸売も行う。FC店主体で22年11月期の売上高は522億円、期末時点で349億円の債務超過に陥っていたがゼンショーによる買収により解消した。AFCと同じく北米にも展開しているため、ゼンショーは物流面でのシナジーを期待したとみられる。
M&A待機資金の行方
M&A待機資金は投資分野も公開されていないが、上記で見た通り、海外での買収を立て続けに行っており、それは同社の戦略とも合致している。そのことから今後も海外M&Aを継続する路線が濃厚ではないだろうか。
獲得済みの400億円のM&A資金について、「海外外食」に目を向ければ、既に7000店舗以上展開する寿司店とのシナジーを期待し、欧米で再度寿司チェーンを買収する可能性も否定できない。また、製造から物流、店舗販売までを自社で一貫して管理する「マス・マーチャンダイジング・システム(MMD)」にも力を入れるとしており、飲食・小売チェーンだけでなく、製造工場や物流施設の買収を行う可能性もあるだろう。今後、ゼンショーはどのような企業を買収するか注目しておきたい。
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