
投資ファンドのキャス・キャピタル(東京都千代田区)が、フォトウエディング事業を行うデコルテ・ホールディングス<7372>の株式売却が完了したと2023年3月31日に発表しました。キャス・キャピタルは2017年1月にデコルテの株式を取得し、2021年6月の新規上場を支援しました。
コロナ禍という逆風にも関わらず、ウエディング事業のデコルテを上場へと導き、MIXIのグループ化を支援したキャス・キャピタルとはどのような会社なのでしょうか?
この記事では以下の情報が得られます。
・キャス・キャピタルの概要
・投資中の会社一覧
・デコルテの買収から売却まで
ブルボンのバウムクーヘン事業展開も後押し
キャス・キャピタルは2003年3月設立の独立系投資ファンドです。中小企業への出資と成長支援を得意としています。企業価値は50億円から500億円を対象とし、投資期間は5年をめどとしています。社名のキャス(CAS)は小説「坂の上の雲(Cloud Above Slope)」に由来しています。
司馬遼太郎によるこの歴史小説は、明治維新を経て近代化の道を歩み始めた日本が、欧米の文化を取り入れて国家の体制を整える姿を描いたもので、日露戦争で勝利を収めるまでを扱っています。
創業者は川村治夫氏。1980年4月に三菱UFJ銀行の前身である東京銀行に入行し、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール経営大学院を修了。東京銀行の国際企業部副審査役を経て退行し、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの投資銀行部門を渡り歩きました。
川村氏は現在も代表取締役を務めていますが、2023年1月27日に山下健次郎氏と上原進氏を代表取締役に迎えました。川村氏は創業パートナーCEO、山下氏と上原氏はパートナーCo-COOとして経営の中核を担っています。
山下氏は旧大蔵省で国際交渉や官房業務などを務めた元官僚。その後、ボストン・コンサルティング・グループでマーケティングや事業戦略に携わりました。上原氏はモルガン・スタンレーで財務アドバイザリー業務などの経験を積んでいます。
2023年2月にブルボン<2208>が、バウムクーヘンの取扱量国内トップのマルキン(愛知県豊橋市)の株式を取得しました。これもキャス・キャピタルが仕掛けたもの。ブルボンが25%、キャス・キャピタルが75%出資する特別目的会社BCCA(東京都千代田区)を通して株式の取得が行われました。
■キャス・キャピタル業績推移

■投資中の会社一覧
社名 事業内容 出資時期 フードプラス・ホールディングス 和食レストランチェーン「庄屋」「百菜」等の外食事業と給食事業の2つの事業を主力に展開 2018年12月 シンコー 大手自動車メーカーを得意先とし、ヘミング (金属曲げ) 加工をはじめとする生産設備を、設計から製作・納入まで一貫して行う 2020年1月 ANCHORS 動物病院の運営をする事業者の株式を保有すると同時に、それらに経営管理機能を提供する持株会社 - 日本どうぶつ先進医療研究所 ANCHORSの出資先。犬と猫の循環器・腎泌尿器・消化器・腫瘍などに対する専門的治療を行う二次診療施設「JASMINEどうぶつ総合医療センター」の運営 2021年3月 ベトリード ANCHORSの出資先。関西地域において二次診療を中心とした動物医療を提供する「奈良動物医療センター」を中核とする動物病院グループの運営 2022年1月 高度医療CTセンター林宝どうぶつ病院 ANCHORSの出資先。埼玉県を中心に二次診療を中心とした動物医療を提供する総合病院「埼玉動物医療センター」の運営 2022年6月 マルキン バウムクーヘン、プチケーキ、ドーナツ等の菓子類の製造販売 2023年2月※公式ホームページより筆者作成
キャス・キャピタル出資後に徹底的なスリム化を図る
デコルテは現在の取締役会長・小林健一郎氏が2001年11月に設立した会社。もともとはエステティックサービスを提供していました。2004年2月にフォトウエディングを行う斎憲(東京都台東区)に出資。
2017年1月にキャス・キャピタルがデコルテを買収。現在のデコルテ・ホールディングスを設立しました。買収と同時に創業者の小林健一郎氏に対して280万株を1,000円(総額2億8,000万円)で割り当てています。小林健一郎氏は買収後も代表取締役として経営のかじ取りを行っており、上場前は557,200株(9.72%)を保有する大株主でした。
上場時、小林氏は277,200株を処分しました。公募価格は1,720円。4億7,700万円あまりで売却したことになります。デコルテはいわゆる2段階エグジットでした。
キャス・キャピタルが出資した後のデコルテは、同業他社を買収するロールアップではなく、不採算事業を排除するスリム化に邁進します。
2018年11月にリラクゼーション事業を行うDecollte Wellnessの全株式を「Re.Ra.Ku」を運営するメディロム(東京都港区)に売却。
2020年5月には婚礼プロデュースサービスのHAPPY VERY MUCHとBEARS TABLEを終了しました。その年の11月に神前式のプロデュースを行う和婚スタイルと、ドレスレンタルのTHE DRESS SHOPの全店舗を、ツカダ・グローバルホールディングス<2418>の連結子会社ベスト-アニバーサリー(東京都港区)に事業譲渡しました。
フォトウエディングに主力事業に集中したデコルテは、コロナ禍で結婚式を挙げられないカップルの需要をとらえることができました。2021年9月期の売上高は前期比25.1%増、2022年9月期は同15.9%増でした。
ウエディング業界最大手のテイクアンドギヴ・ニーズは、2021年3月期の売上高が前期比68.5%減、2022年3月期の売上高は前期と比較して2倍に増加したものの、最盛期の6割ほどに留まっています。
デコルテは営業利益率が高いことも特徴で、2022年9月期は25.9%でした。T&Gの5.3%(2022年3月期)と比較するとその高さが際立ちます。
デコルテを持分法適用会社化したMIXIはゲームに強みがありますが、家族写真の共有サービス「みてね」を展開しています。デコルテとのシナジーが高いと判断し、キャス・キャピタルの持株を取得しました。
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