2025年の海外M&A、上期として2年連続100件と突破|対米買収は増勢を保つ

上場企業がかかわる海外M&Aが最多圏で推移中だ。2025年上期(1~6月)の件数は前年比2件増の121件(適時開示ベース)と微増ながらも、水準そのものは高く、上期として2年連続で100件を突破した。

米国相手が38件と最も多いが、件数は前年(36件)とさほど変わらず、今のところ、「トランプ関税」の影響は特段見られない。

3年連続で最多更新のペース

上場企業に義務付けられた適時開示情報をもとにM&A Onlineが集計したところ、国内、海外を合わせた上期のM&A総件数は前年比53件増の660件だった。

内訳は日本企業同士の国内M&Aが539件(前年488件)、外国企業を取引相手とする海外M&Aが121件(同119件)。

このうち、海外M&Aは上期として初めて100件台に乗せた前年に続き、今年も100件を大きく上回った。このペースでいけば、年間件数も200件を優に超え、3年連続で最多を更新する見通しだ。

コロナ禍の影響の広がりを受け、日本企業の海外M&Aは2020年~2022年に年間150~160件台に落ち込んだが、2023年から回復に転じ、今日に至る。

2025年の海外M&A、上期として2年連続100件と突破|対米買収は増勢を保つ
上場企業 海外M&Aの件数推移

インバウンド比率が上昇に転じる

海外M&Aは日本企業が買い手となるアウトバウンド案件と、外国企業が買い手のインバウンド案件に分けられる。

2025年上期の全121件のうち、アウトバウンドは71件(前年78件)、インバウンドが50件(同41件)。前年より日本企業による買収が1割ほど減る一方、外国企業による買収が2割増えた。

この結果、上期を終えた時点でのインバウンド比率は41%と、年間32%だった2024年と比べ9ポイント上昇した。

インバウンド比率はコロナ禍の影響が広がった2020年を境に跳ね上がった経緯がある。20%台前半が通例だったが、20年に32%に上昇。21年、22年はさらに41%まで高まった。

日本企業が海外事業を中心にビジネスの取捨選択を急ピッチで進めたほか、日本企業の本体も株式の非公開化を目的に海外投資ファンドと連携するTOB(株式公開買い付け)がMBO(経営陣による買収)案件を含めて増えたのが主因だ。

インバウンド比率は2023年、24年は各32%に低下した。それでも、なお高止まりが否めなかったが、足元の25年上期は再び上昇局面に転じた形となる。

ほとんどは海外子会社・事業が対象

上期に50件を数えたインバウント案件のうち、8割近い38件は日本企業の海外における子会社・事業が買収対象。買い手は米国、中国、ドイツ、英国、インド、カザフスタン、台湾など16カ国・地域に及んだ。

残る12件は日本企業(上場企業本体、もしくはその国内子会社・事業)を直接、買収ターゲットする案件。

航空機内装品メーカーのジャムコ、測量機大手のトプコン、国際物流大手の日新などが米投資ファンドによるTOBを受け入れて株式を非公開化することになったほか、セブン&アイ・ホールディングスはスーパーなどの非中核事業、三菱ケミカルグループは傘下の田辺三菱製薬を同じく米投資ファンドに売却を決めた。

投資ファンドではなく、海外の事業会社が買い手となったのは芝浦電子、東京コスモス電機のケース。前者は台湾電子部品大手のヤゲオが同意なきTOBを実施中、後者は米電子部品大手のボーンズが7月中旬までにTOBを始める予定だ。

日本企業の対米買収、増勢を保つ

上期における全121件の海外M&Aを国・地域別にみると、米国38件をトップに、中国14件、ドイツ、ベトナム各8件、英国7件、オーストラリア6件、台湾5件などが続く。ベトナム、オーストラリアはいずれも日本企業が買い手のアウトバウンド案件で占める。

米国38件の内訳はアウトバウンド25件(前年21件)、インバウンド13件(同16件)。総件数は前年とほぼ同数ながら、内容的には日本企業による買収が増勢となっている。

「米国ファースト」を掲げるトランプ政権の高関税政策の影響を最小限に抑えるため、現地製造拠点の確保・拡充に向けて対米M&Aが加速することになるのか、それともグローバル経済の混乱を見据えて様子見ムードが広がるのか、予断を許さない状況が続きそうだ。

中国については日本企業が買い手の案件は4件にとどまる。残る10件がインバウンド案件だが、いずれも日本企業が現地子会社・事業を売却する内容で、対中ビジネスの戦線を縮小する動きが止まっていない。

◎2025年上期の海外M&A:金額上位 (HDはホールディングスの略)

1 ソフトバンクグループ 半導体設計の米アンペア・コンピューティングを子会社化 9730億円 2 セブン&アイ・HD スーパー事業などを米投資ファンドのベインキャピタルに譲渡 8147億円 3 三菱ケミカルグループ 子会社の田辺三菱製薬(大阪市)を米投資ファンドのベインキャピタルに譲渡 5100億円 4 トライアルHD 米投資ファンドKKR傘下の総合スーパーの西友を子会社化 3826億円 5 トプコン 米投資ファンドのKKRと組んでMBOで株式を非公開化 3481億円 6 牧野フライス製作所 アジア系投資ファンドのMBKパートナーズによるTOBを受け入れ、株式を非公開化 2748億円 7 商船三井 化学品タンクターミナル大手のオランダLBCを子会社化 2605億円 8 野村HD オーストラリアの大手資産運用会社マッコリーの米国子会社を買収 2584億円 9 SGホールディングス 台湾物流大手モリソン・エクスプレス・ワールドワイドを子会社化 1368億円 10 豊田通商 金属リサイクル大手の米国ラディウス・リサイクリングを子会社化 1344億円 11 日新 米投資ファンドのベインキャピタルと組んで株式を非公開化 1121億円 12 オリックス オリックス、グローバル金融サービスの米国Hilco Tradingを子会社化 1120億円 13 芝浦電子 同社に対して台湾の電子部品メーカー、ヤゲオがTOBを実施 945億円 14 住友ゴム工業 米グッドイヤーから欧米・オセアニアでの「ダンロップ」ブランドを取得 903億円 15 SBIホールディングス 韓国子会社のSBI貯蓄銀行を現地の教保生命保険に譲渡 900億円 16 トライト 米投資ファンドのカーライル・グループによるTOBなどで株式を非公開化 874億円 17 日産自動車 インド合弁会社「ルノー日産オートモーティブインディア」を仏ルノーに譲渡 617億円 18 大塚HD 大鵬薬品工業を通じ、スイス創薬ベンチャー「アラリス・バイオテック」を子会社化 594億円 19 日鉄ソリューションズ 米ブラックストーン傘下でSI事業展開のインフォコムを子会社化 550億円 20 ホシザキ 食品陳列用ショーケース製造の米国ストラクチュラル・コンセプトを子会社化 540億円 21 ミスミグループ本社 機械部品オンライン調達サービスの米国Fictivを子会社化 512億円 22 カオナビ 米投資ファンドのカーライル・グループによるTOBで株式を非公開化 497億円 23 ジャムコ 米ベインキャピタルによるTOBなどで株式を非公開化 451億円 24 日本ガイシ 熱交換器・膜装置製造のドイツBorsigの持ち株会社を子会社化 423億円 25 MIXI オーストラリアのオンラインベッティング(投票)大手PointsBetを子会社化 398億円

文:M&A Online

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