米国を代表する2大投資ファンドが激突する構図となっている富士ソフトの買収合戦が新たな局面を迎えた。先行するKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)に対し、割って入った形のベインキャピタルは富士ソフト側の賛同を得たうえでTOB(株式公開買い付け)を開始するとしてきたが、こうした前提条件を放棄し、敵対的買収を辞さない姿勢に転じたからだ。
ただ、買収合戦が過熱する中、富士ソフトの株価は両陣営が提示する買付価格をはるかに上回る高値で推移し、TOB成立を見通せない状況が続いており、混迷も深まっている。
富士ソフト、ベインの再提案に反対
KKRは第1回TOBを通じて富士ソフト株の約34%(新株予約権を含む)をすでに取得している。現在2回目のTOBを実施中で、12月19日に期限を迎える。買付価格は第1回が1株8800円だったが、第2回はベインキャピタルが提示する9450円を1円上回る9451円に引き上げた。
一方、ベインは12月11日、富士ソフト株の買付価格を従来の9450円から9600円に引き上げ、KKRを上回る条件での買収を改めて提案した。KKRのTOB(第2回)が不成立か撤回された場合、2025年1月下旬から2月上旬をめどに買い付けを始める方針を示した。
ベインの再提案について、富士ソフトは17日に開いた取締役会で反対を決議した。ベイン傘下での企業価値の向上になお疑義が残ることや、TOBの完了時期がKKRより少なくとも3カ月程度遅れることを理由に挙げた。
これを受けてベインは18日、ベインは富士ソフトの賛同をTOB開始の前提条件から除外すると発表したのだ。富士ソフトの意向にかかわらず、TOBに踏み切る意向を示したもので、敵対的買収に発展する可能性がある。
富士ソフトの創業者の野澤宏氏はベインを支持しており、会社側と意見対立も生じている。野澤氏はKKRの買付価格がベインより低いことから、会社側にかねてKKRのTOBへの賛同と株主への応募推奨を取り下げるべきと主張している。
想定外、米ファンド2強の一騎打ちに
富士ソフトがKKRのTOBを受け入れて株式を非公開化すると発表したのは8月初め。筆頭株主で物言う株主として知られるシンガポール投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズとの2年に及ぶ対立に終止符を打ち、経営のフリーハンドを取り戻すことを狙いとした。
ところが、想定外の展開が起きた。ベインが参戦に名乗りを上げたことで、焦点はKKR・ベインの米ファンド2強による一騎打ちに移った。KKRはTOB開始後の9月中旬、急きょTOBを2段階方式に変更したのもベインが有利な条件での対抗TOBの予定を公表したためだ。KKRは買付予定数の下限を撤廃し、数にかかわらず、応募株式のすべてを取得したうえで、第2回を行うことにした経緯がある。
株価、買付価格を上回る高値圏で推移
ただ、足元は先行するKKRにしてもTOBの成立が難しいのが実情だ。17日の富士ソフト株の終値は前日比121円高の9771円。
KKRによる買付価格を300円以上、ベインのそれも170円以上も上回っており、TOBに応募するよりも、多くの株主にとっては市場で売却した方が得だ。
KKRとしてはTOB成立を期すために買付価格の引き上げが避けて通れない情勢にあるが、ひとまず19日までの買付期間を延長することが確実視される。かといって、買付価格の引き上げで双方が応酬する事態になれば、富士ソフト本来の企業価値との乖離(かいり)が広がり、本末転倒を言わざるを得ない。
KKRが取得した富士ソフト株の行方は
一方、ベインがKKRをかわしてTOBを制した(66%取得)場合、扱いが難しいのはKKRが保有する約34%の株式だ。
KKRは保有する富士ソフト株について、ベインのTOBに応募しない意向。となれば、経営の意思決定の一元化が望めず、取締役会の混乱も予想されるだけに、最終的な着地点をどう見いだすのか、難問が待ち受ける。
◎富士ソフトのTOBをめぐるKKRとベインキャピタルの動き

文:M&A Online
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