近年のM&Aは、中小企業、とりわけ小規模事業者による「スモールM&A」と呼ばれるものが多くなっています。
その最大の理由は、中小企業経営者の高齢化とそれに伴う後継者難、そしてM&Aに対する中小企業経営者の意識変化などによります。
また、中小企業を取り巻く経営環境の変化、特に、昨年来の新型コロナによる影響も大きな要因になっています。
中小企業経営者の高齢化と後継者不足
働く体力と気力があれば中小企業の経営者は、定年を決めずに何歳になっても社長を続けることができます。
実際に、70代、80代でも現役の経営者として活躍している方も数多くいますが、いずれ引退する日はやってきます。その際に考えることは、廃業か事業承継です。
廃業は、中小企業の経営者がやむなく取る最終手段です。しかし、廃業すると会社は消滅し、長年培ってきた技術・技能やノウハウなどの経営資源は途絶えてしまいます。
加えて、自身や家族、従業員、取引先への影響も計り知れません。
中小企業の事業承継の三つのパターン
事業承継には大きく三つのパターンがあります。「親族への承継」「従業員への承継」そして「M&Aによる第三者への承継」です。
親族への承継
経営者が長年苦労してつくりあげた会社ですから、その経営理念なども含めて、自身の子供や孫など親族に引き継いでもらいたいと思うのも自然なことです。
半面、自分が背負ってきた苦労はさせたくないという気持ちもあります。経営に不向きな子供に無理に引き継がせて会社を潰してしまうかもしれません。そもそも少子化で引き継がせる子や孫がいないかもしれません。
また、中小企業は、一般的に「所有と経営が一致」しているので、誰がどれくらい株を持つかによって経営が大きく変わります。
そのほか、株価対策、負債や経営者保証など親族への負担が増すこともあります。これらのことから、親族に承継させるよりも、他の手段を選択する中小企業経営者が増えているのです。
従業員への承継
会社を継がせる親族がいない場合、従業員への承継もあります。経営手腕に長け、会社の財務に精通し、長年経営者の片腕として歩んできた取締役等の従業員に引き継いでもらうのです。経営者の理念や企業風土、経営の実情など十分に理解しているわけですから、安心して任せられます。
ただし、あくまでも従業員なので、株を取得するための資金力に限界があること、仮に取得できても経営権を持てるだけの株式数を確保できるかという問題があります。
M&A による︎第三者への承継
経営を引き継ぐ親族がいない、従業員への引き継ぎにもいろいろ問題があるなどの理由から、いっそのこと会社を売却してしまおうといった中小企業経営者もいます。
その上、今ではM&Aに対する様々な情報が手に入るようになったため、中小企業にとっても、M&Aは事業承継その他の有効な手段であるとの認識が広まってきました。このような事情を背景にして、中小企業経営者がM&Aを積極的に活用するようになったわけです。
中小企業が多くを占める我が国において、廃業による経済的損失は計り知れないものがあります。そこで、国や地方自治体なども、補助金・助成金などで中小企業の事業承継を後押ししています。
今回の新型コロナ禍のように、中小企業を取り巻く経営環境は、時々刻々と変化しています。
文:特定行政書士 萩原 洋