マイクロソフトのAIラボ、神戸空港の国際化を活用「神戸市」のスタートアップ支援策の今後は

神戸市はスタートアップと行政が一体となって新しいビジネスを創出する「Urban Innovation KOBE」や、医療系スタートアップの海外進出を後押しする「KANSAI LIFE Science Accelerator Program (KLSAP)」などを通じて、スタートアップの支援を行ってきた。

そうした中、マイクロソフトが2023年10月に世界6拠点目、日本では初となる「Microsoft AI Co-Innovation Lab」を神戸市内に開設し活動を始めたほか、2025年4月18日には神戸空港の第2ターミナルビルが完成し、国際チャーター便の運航が可能になるなど、スタートアップを取り巻く環境に変化が生じてきた。

そこで、神戸市の経済観光局新産業創造課の橋本智央係長と、企画調整局医療産業都市部の奥町卓大係長に、これまでの神戸市のスタートアップ支援策の成果をはじめ、マイクロソフトのAIラボや神戸空港の国際空港化の影響、さらに今後の支援計画などについておうかがいした。

※文中敬称略

グローバル展開を目指す医療スタートアップを支援

―「Urban Innovation KOBE」や「KANSAI LIFE Science Accelerator Program (KLSAP)」など、これまで取り組んできたスタートアップ支援策の成果について教えて下さい。

橋本:Urban Innovation KOBEは、神戸市が抱える行政課題を、柔軟な発想や優れた技術力を持つスタートアップと、行政職員が一緒になって解決策を見つけ出すプログラムで、開発から試験導入、実証実験などを行います。

2017年から取り組んでおり、これまでの応募企業数は400社ほどで、課題解決率は90パーセントを超えています。こうした仕組みは神戸が初めて取り入れたもので、現在は全国に広がり22ほどの自治体が同様のプログラムを実施していると聞いています。

具体的な事例としては、神戸市内の遊休農地を把握するのに、衛星画像を利用する取り組みがあります。それまでは現地での調査が必要でしたが、衛星画像を解析し遊休農地を自動検出することで、現地での調査回数を大幅に減らすことができました。

2024年4月からは、行政課題だけではなく地域課題の解決にもこのプロジェクトの対象を拡げており、すでに2024年12月には、Bリーグ所属のプロバスケットボールクラブ神戸ストークスと神戸大学発スタートアップが連携し、ウォークスルーで危険物を検知できるセキュリティゲートの実証実験を行っています。

これは2025年4月4日に神戸市でオープンした新アリーナ「GLION ARENA KOBE」での、来場者の利便性の向上と運営の効率化に向けた取り組みの一つとなっています。

―KANSAI LIFE Science Accelerator Program (KLSAP)の方はどうですか。

奥町:ケイエルサップ(KLSAP)は、米国のボストンにあるライフサイエンスに特化したアクセラレーターの「BioLabs」と連携したプログラムで、グローバル展開を目指すスタートアップを支援するのが目的です。

医療の分野では、ある程度企業が大きくなると、海外への進出が欠かせません。というのも米国の基準が世界のスタンダードとなっており、これをクリアしないと、ビジネスとして市場に入れませんし、資金調達もうまくいかないからです。

ケイエルサップは神戸医療産業都市推進機構が主体となってスタートしており、2022年から2024年までに、全国で66チームの応募がありました。

応募チームにはまず神戸でピッチ(短いプレゼンテーション)に参加していただきます。ピッチで選ばれた数チームがBioLabsによるオンラインのアクセラレータープログラムに参加し、最終的にはボストンで米国の投資家や事業会社に向けたピッチに参加していただきます。

今年は20チームほどの応募があり、このうち10チームがピッチに進み、さらにピッチで選ばれた3チームが海外のオンラインのアクセラレータープログラムに参加し、3チームともボストンでのビッチに参加しています。

3年で97社のスタートアップが設立

―神戸市がライフサイエンス関連のスタートアップ支援に力を入れているのには、どのような背景があるのでしょうか。

奥町:神戸では阪神淡路大震災のあとの1998年に、復興プロジェクトとして神戸医療産業都市構想をスタートさせました。雇用の確保や神戸経済の活性化、先端医療の提供、市民福祉の向上、国際貢献などを目標に掲げ、すでに25年以上医療産業の育成に取り組んでいます。

これまでに理化学研究所を核にいろんな企業に進出していただいており、2025年2月末時点で進出企業は353社に達しています。このうち71社が創業10年以内のスタートアップで、さらにこのうち37社が資金調達をされており、その総額は400億円に達しています。

代表的な成果としては、スタートアップによるIPS細胞(人工多能性幹細胞)の移植手術や、手術支援ロボットの開発、再生医療への取り組みなどがあります。

やはり新しいモノを生み出すためにはスタートアップが必要です。今は大企業が自分たちだけで開発するという時代ではありません。医療産業都市を発展させるためにスタートアップは必要な存在だと思っています。

―神戸市ではスタートアップ支援の数値目標、例えば設立数などについては、どのような計画をお持ちですか。

橋本:2021年度から2025年度までの5年間で80社のスタートアップの設立を目標として掲げています。神戸市内で起業した企業に加え、他地域から神戸市内に拠点を構えたところも対象にしています。2021年4月から2024年3月末までのデータでは設立数は97社に達しており、すでに目標は達成しています。

さらに、スタートアップの支援企業数については、2021年度から2025年度までの5年間で1000社を目標にしています。こちらは2024年3月末までの3年間で797社に達しています。

高度なデジタル人材を育成し、民間のレンタルラボを誘致

―Microsoft AI Co-Innovation Labについては、どのような連携を考えていますか。

橋本:マイクロソフトのラボは、マイクロソフトと神戸大学、川崎重工業、神戸市が連携して開設した施設で、AI(人工知能)の開発をサポートするのが目的です。マイクロソフトのエンジニアが伴走支援することによって、開発時間を短縮できるのがメリットとなっています。日本では神戸にしかない施設ですので、神戸だけでなく他の地域からも多くの企業が利用しています。

AIは今後可能性が高まっていく分野だと理解しており、AIスタートアップの支援事業である「AIスタートアップ創出 SET SAIL!」に取り組んでいます。2025年4月以降は、プロダクト開発に力を入れる形でAIスタートアップ創出のプログラムを継続する予定です。

―神戸空港では2025年4月に、韓国のソウル、中国の南京、上海、台湾の台北、台中への運航が始まります。どのような対応を考えていますか。

奥町:日本での資金調達や市場開拓を目指す韓国や台湾のスタートアップが神戸医療産業都市を訪問し、アクセラレーションプログラム への参加や神戸の地元企業との交流を行っています。来年度は神戸空港が国際空港化するタイミングでアジアに目を向けて、一段と海外企業の神戸への誘致や海外進出支援に力を入れていく計画です。

―新たなスタートアップ支援策については、どのような取り組みを計画していますか。

橋本:高度デジタル人材の育成に取り組む予定です。この背景の一つにマイクロソフトのラボの存在があります。このラボを十分に活用できる人材がまだまだ少ないと感じています。世界で活躍するスタートアップを神戸から創出するためには、技術力を持った高度デジタル人材を育てなければなりません。マイクロソフトのラボはもちろん、他の民間企業とも連携しながら、来年度はデジタル人材の育成の仕組みを構築する事業に取り組む考えです。

―活動拠点として「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)」や「スタートアップ・クリエイティブラボ」などを整備されています。これまでの成果と今後の展開を教えてください。

橋本:アンカー神戸は、神戸市が開設し神戸新聞とトーマツが運営する会員制の施設で、スタートアップのほか企業や大学、研究者らが集まり、イノベーションを創発するコミュニティスペースとなっています。開設して4年ほどたっており、これまでに500回以上イベントを開催し、延べ2万人以上が参加しています。

その中で、協業の取り組みや、資金調達なども進んでいます。今後は神戸空港の国際空港化などもあり、海外と連携したようなグローバルに開かれたビジネス拠点を目指して、海外の支援機関などと一緒にイベントを実施することなどを考えています。

奥町:スタートアップ・クリエイティブラボは、ライフサイエンス分野に特化した研究開発型スタートアップのための施設 で、共用機器の整備や安価なラボの提供などを行い、スタートアップが利用しやすい施設になっています。

今後はこの施設の隣に民間のラボ2棟を公募して建設していただくことなっています。大和ハウス工業が2025年7月に、三菱商事都市開発が2026年7月に着工する予定です。行政だけでなく民間のレンタルラボが完成することで、幅広くニーズに対応できるようなるため、さらに多くのスタートアップを誘致できる環境が整うと思っています。

文:M&A Online記者 松本亮一

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