【2025年IT・ソフトウエア】旺盛なDX需要でM&A盛んに、AIにも注目


2024年のIT・ソフトウエア企業を対象にしたM&Aは、昨年を8件上回る192件(12月24日時点)と活発に動いた。IT・ソフトウエア業界では旺盛なDX(デジタルトランスフォーメーション)需要により、人材需給がタイトになっている。

「2025年の崖」問題でIT人材の獲得急務

その背景にあるのが、経産省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題。多くの企業で運用されているシステムは、長期間の改修による複雑化、担当者の退職に伴うブラックボックス化も生じており、これが企業のDXを阻害する大きな要因となっている。この問題に適切な対処ができない場合、企業の競争力低下を招くだけでなく、2025年以降、日本経済全体で年間最大12兆円という甚大な経済損失が予測されており、早急な対応が求められている。そのため企業はシステムの刷新に動いており、IT人材の獲得が急務となっている。

これを踏まえて、2024年のIT・ソフトウエア業界のM&Aは、人材獲得とDX化を中心に活況を呈した。

人材目的では、SIer(システムインテグレーター)大手のNTTデータグループによるソフトウエア開発のジャステックのTOB(株式公開買い付け)による子会社化、住友商事系SIerのSCSKによるネットワンシステムズの子会社化、NECによるNECネッツエスアイの経営統合など枚挙にいとまがない。いずれも事業の強化に加えて人材獲得を経営課題とし、M&Aを活用している。

金額トップとなったルネサスエレクトロニクスによる米アルティウムの買収(約8800億円)にも人材獲得の側面がある。アルティウムのプリント基板設計ソフトウエアを取り込み他の半導体メーカーとの差別化を図る戦略だが、同社の柴田英利社長が指摘するように、M&Aを通じた優秀な人材の確保は、今後もIT・ソフトウエア業界全体の重要な戦略として位置づけられるだろう。

DX需要への対応も引き続き見られた。TOKAIホールディングスによるシステム開発のユー・アイ・エスの子会社化や、ハイブリッドテクノロジーズによる総合デジタルマーケティングを手がけるドコドアの買収など、新しい営業機会の創出や、独自サービスの提供だけでなく、顧客のデジタル化対応を目指す動きだ。

AI関連のM&A増加、KDDIの案件に注目

AI(人工知能)関連のM&A増加も2024年のトピックだ。AIが広く注目を集め始めた2023年はAI関連のM&Aは目立たなかったが、1年で状況は大きく変わった。

特にKDDIによるサイバーセキュリティーとシステム構築・運用を主力とするラックの子会社化は、AIが今後のIT・ソフトウエア業界におけるM&Aの目的を変えうる案件として注目される。

KDDIによると、生成AIやIoTなどの新テクノロジーの登場でサイバーセキュリティーを取り巻く環境が大きく変化しており、今後のサイバー攻撃は「人vs人」から「AI vs AI」に移行すると見ている。

AIはデータの多寡がLLM(大規模言語モデル)の精度や回答・知識の深さを決める役割を果たす。LLMの性能と品質は、学習に使用されるデータ量に大きく依存し、豊富なデータで訓練されたモデルほど、より正確で深い知識を持ち、より的確な回答を提供できる。KDDIはラックの持つ膨大な脅威データを活用することで、セキュリティーソリューション事業の強化を図ろうとしている。

2025年もIT・ソフトウエア企業を対象にしたM&Aは活発に行われそうだ。経産省の試算では、DX需要が拡大する一方で少子高齢化が進展し、IT人材の需給ギャップは年々拡大、2030年に最大で約70万人のIT人材が不足すると予測している。人材不足解消のためのM&Aは長らく続きそうだ。

このほかKDDIのラック買収のように、AI技術を持つ企業がデータを持つIT企業を取り込む動きは注目されるほか、AIはデータセンター、電力、半導体などの多様な産業と密接に関わっており、さまざまな業界でM&Aを生み出す原動力にともなりそうだ。

◎2024年IT・ソフトウエア業界のM&A取引総額トップ10

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