2023年のIT・ソフトウェア企業を対象にしたM&Aは、近年のトレンドワードとなっているAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を対象として事業連携や強化を目的にした案件が多数を占めた。
M&Aは活発も取引金額は低迷
M&A件数は2014年からの過去10年で最多の181件(2023年12月27日現在)で、コロナ禍で同業界のM&Aが活発になった2021年の163件を抜いた。ただし、2023年に金額トップとなったセガサミーホールディングス<6460>の案件でも1049億円。
もうひとつの特徴として、海外企業がかかわるクロスボーダー案件が低調だったこと。2023年は17件と前年並だが、クロスボーダーの比率でみると9.4%、直近10年で最低だった。2021年の大型案件、日立製作所<6501>の米ITグローバルロジック(約1兆円)、パナソニックホールディングス<6752>の米ブルーヨンダ―の買収(7830億円)のようにクロスボーダーは時として大きな金額になるが、2023年は目立った案件がなく、金額面にも影響を及ぼしたといえそうだ。その要因として、各国での金利引き上げなど、資金調達をめぐる環境の変化が考えられる。
金額トップ3は投資枠にまだ余裕か
金額トップからみると、セガサミーはフィンランドのモバイルゲーム会社「ロビオ」に英国子会社を通じてTOB(株式公開買い付け)を実施し買収した。ロビオは2009年発売のモバイルゲームで50億ダウンロードを記録した「アングリーバード」で知られている。セガは同社の高度なモバイルゲームの開発力や運営力のほか、アニメ、キャラクターグッズへの展開されているアングリーバードの強力なグローバルIP獲得も目的とした。
セガサミーは2026年3月期までに総計2500億円の投資枠を用意。ロビオ買収などで1200億円強を投じたが、まだ残り半分の枠が残っており、2024年の動きも注目される。
金額2位はオムロン<6645>が医療データサービスのJMDCを最大約850億円のTOB(株式公開買い付け)で株式を追加取得して子会社化した案件。
金額3位はNTT<9432>が傘下のNTTドコモを通じて、市場調査最大手のインテージホールディングスをTOBで子会社化した案件。買付代金は最大470億円。インテージホールディングスが培ってきたデータ集計・分析・可視化などのスキルやノウハウを取り込み、ドコモが持つdポイントクラブ会員約9600万人の顧客基盤から得られる豊富な行動データの利活用を促進する。
NTTグループも出資への意欲が旺盛。2023~2027年度にかけ約8兆円の投資・出資を実施する予定。光技術を活用して豊かな社会を作る構想「IOWN」ほか「デジタル・データセンター」「電力・エネルギー」「スマートライフ」「不動産」「AI・ロボット」などを成長対象として投資していくという。
◆2023年IT・ソフトウェア業界のM&A取引総額トップ10
順位 公表日 案件内容 取引総額 1 4月17日 セガサミーホールディングス、フィンランドのモバイルゲーム会社「ロビオ」を子会社化 1049億円 2 9月8日 オムロン、医療データサービスのJMDCをTOBで子会社化 855億円 3 9月6日 NTT、傘下のドコモを通じて市場調査最大手のインテージホールディングスをTOBで子会社化 470億円 4 12月26日 グローリー、小売業向けソフト開発の英国Flooid Topcoを子会社化 274億円 5 3月7日 TIS、税理士事務所向け会計・財務システム提供の日本ICSを子会社化 227億円 6 9月27日 システム情報、米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBOで株式を非公開化 181億円 7 8月9日 キヤノンマーケティングジャパン、東京日産コンピュータシステムをTOBで子会社化 109奥苑 8 7月11日 ノーリツ鋼機、オーディオソフト開発のニュージーランドSeratoを子会社化 101億円 9 8月9日 フリークアウト・ホールディングス、ユーチューバー事務所大手のUUUMをTOBで子会社化 97億円 10 1月31日 日本成長投資アライアンス、WOW WORLD GROUPをTOBで子会社化 65億円文:M&A Online
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