【きらぼし銀行】大手の間隙に放つ輝き|ご当地銀行の合従連衡史

日本各地の「地銀」のルーツをたどってみよう。そのM&A=合従連衡の歴史をひも解けば、銀行や金融経済の成り立ちはもちろん、日本の伝統産業、商業の集積の移り変わり、各都道府県内にある市町村の歴史の“格”の変遷なども見えてくる。


“ご当地銀行”の合従連衡史の27回目は、きらぼし銀行<7173>。「きらぼし銀行? どこ、それ」となるかもしれないが、日本の首都・東京を代表する地銀だ。2018年5月設立と新しく誕生した地銀なので、東京では特に大手行に隠れてちょっと影が薄い存在かもしれない。確かに、他の金融機関も含めて東京の地銀は大手行に気圧されている感があるが、実はそこに新たな活路を見出してもいる。

きらぼし銀行の前身は八千代銀行、東京都民銀行、新銀行東京の3行。その経緯は発足当時の「きらぼし銀行 合併3行の意外な過去」という当サイト記事にも記されている。

八千代銀行を存続会社として3行が合併して誕生した新興地銀。まず、その3行のM&Aの歴史を簡潔に振り返っておきたい。

2社の信組が起源の八千代銀行

存続会社の八千代銀行は2社の信用組合がその起源だ。1つは1924年12月に創立した有限責任住宅土地信用購買組合の調節社。おそらく地域の組合員の不動産購入資金を用立てる信用組合だったのだろう。のちの代々木信用金庫である。もう1つは41年10月に創立した保証責任町田町信用組合。

51年7月に恩友信用組合と合併し、東神信用組合となり、のちの東神信用金庫となった。

1951年は信用金庫法の制定された年。それ以前に全国につくられた信用組合が、信金となるか信組のままでいくか、経営の選択を迫られた。信組が信金に改組されれば、これまでの預貸業務の扱いが変わる。その時期に八千代銀行の前身である2つの信組は信金に改組し、調節社は代々木信用金庫になり、東神信用組合は東神信用金庫になった。

そして1954年1月に代々木信用金庫と東神信用金庫とが合併し、八千代信用金庫が誕生した。八千代信用金庫は順調に業績を伸ばし、70年1月に日の出信用組合と合併し、91年4月には八千代銀行となった。信金から銀行への改組で、いわゆる第2地銀という区分になる。

八千代銀行は2000年8月に国民銀行の営業を譲り受け、01年5月には東京都民銀行とのATM相互無料開放を開始。一方、損保・生保の窓販など多角化を進め、04年1月に「東京都債券市場構想」の一環として東京都CBO(社債担保証券)に参加している。05年12月に証券仲介業に参入し、06年3月には住友信託銀行と業務・資本提携契約を締結した。東証1部に上場したのは07年4月。

この間、東京の第2地銀として大手行の“隙間”を狙いつつ、地場で基盤固めを進めていった。

東京都民銀行との経営統合に動き出したのは2013年のことである。10月に基本合意を行い、翌14年5月には株式移転による経営統合契約を結び、10月には株式会社東京TYフィナンシャルグループ(現東京きらぼしフィナンシャルグループ)という共同持ち株会社を設立した。

他の金融機関との提携を強化してきた東京都民銀行

次に、東京きらぼしフィナンシャルグループという経営統合の相手方である東京都民銀行の歴史を見ていこう。目立ったM&Aはないものの、他の金融機関との提携は早い段階から進めてきた。

東京都民銀行の設立は1951年12月。文字どおり都民と都内中小企業の金融・産業振興に注力する一方、61年7月には外国為替公認銀行となり、83年4月には証券業務を始めた。また、都市銀行との連携も強化し、1990年2月にはCDオンライン提携「MICS」(全国キャッシュサービス)に加盟した。

隣県や周辺地銀との提携が活発化したのは2007年頃からだ。07年10月に東日本、八千代、千葉、横浜、イオン、08年8月に常陽、筑波、武蔵野の各行とATMに関して業務提携をスタートした。12年4月に千葉興業、山梨中央、13年6月に東邦銀行とも業務提携した。

また、東京都民銀行はその名とは裏腹に、海外、特に東南アジアの銀行との業務提携にも積極的だった。2003年5月に北京市・大連市商業銀行と業務提携し、9月には寧波市・無錫市商業銀行と業務提携した。

2012年9月にインドネシア共和国バンク・ネガラ・インドネシア、13年2月にインドステイト銀行、同年7月にはフィリピンのメトロポリタン銀行、12月にベトナム投資開発銀行と業務提携している。

都市部の金融事情を反映した新銀行東京

合併した3行の一つ、新銀行東京は、東京都がフランスのBNPパリバ信託銀行日本法人の全株式を取得して2004年4月に設立した。東京都によるこのM&AはBNPパリバ側の日本事業の見直しに伴うものだった。

新銀行東京は設立した年の5月に東京都信用金庫協会と包括提携。本店がオープンしたのは設立の1年後、2005年4月である。都内各地に出店するとともに、AIU保険、青色申告会と提携した。

さらに、2007年6月に「NPO法人向け融資に対する保証制度」を、9月に「東京都ベンチャー技術大賞」受賞事業者への融資優遇制度を開始するなど、都市部ならではのユニークな制度も手がけた。だが、結局は金融再編の荒波を乗り越えられず経営は傾き、2008年2月に再建計画を発表した。拡大した拠点を統廃合するなかで先の2行に遅れて2015年6月に東京TYフィナンシャルグループと経営統合の検討に関して基本合意。2016年4月に経営統合を果たした。

「前給サービス」などのユニークな取り組みも

きらぼし銀行は2018年5月にスタートした。同時に東京TYフィナンシャルグループは東京きらぼしフィナンシャルグループと改称する。

日本インパクト投資2号投資事業有限責任組合などのファンドへの出資、ESG投資(環境=Environment・社会=Social、ガバナンス=Governanceの要素も考慮した投資)、ユニークな「前給サービス」の展開などに取り組んでいる。

前給サービスとは、パート・アルバイトなど会社の従業員が給料日前に給料が受け取れる有料のサービス。最近では愛媛銀行と提携を結んだ。下図のように、提携する企業の従業員はきらぼし銀行に口座がなくても、勤務先がきらぼし銀行と契約していれば、従業員からの申込みによって、最短で翌営業日に給与振込口座に資金が振り込まれる(同社ニュースリリースより)。

【きらぼし銀行】大手の間隙に放つ輝き|ご当地銀行の合従連衡史

中小企業の人材確保と定着率向上をめざすニーズを反映し、きらぼし銀行側としても認知度の向上や新規法人顧客の獲得をねらったサービスといえる。2005年に前身の東京都民銀行がビジネスモデル特許を取得し、現在は他行の類似サービスも生まれている。きらぼし銀行としては他地域の地銀や会社にも拡大させつつある。

文:M&A Online編集部

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