経営が悪化した会社を狙う投資ファンド・ローンスターとは?

ローンスターはアメリカのテキサス州に本社を置く投資ファンドです。バブル崩壊後の1997年に日本に進出しました。

不良債権などに投資をするディストレスト投資を得意としており、日本では東京相和銀行(現:東京スター銀行)や、チサンホテル・チェーンを統括するユニゾンホテルアンドリゾーツ(現:ソラーレホテルズアンドリゾーツ)の再建を手がけました。

最近では、倒産したユニゾホールディングス(東京都港区)のEBO(従業員による企業買収)支援や、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ(東京都中央区)の買収を手掛けています。ローンスターとはどのような会社なのでしょうか?

この記事では以下の情報が得られます。

・ローンスター設立の経緯と概要
・日本での主な投資実績

カナダでの成功を機に世界展開を加速

ローンスターは1995年の設立以来、22のファンドを組成し、累計860億ドル(およそ11兆1,800億円)の資産を運用してきました。創設者はジョン・グレイケン会長。ペンシルバニア大学を卒業した後、ハーバードビジネススクールでMBAを取得し、モルガンスタンレーでビジネス経験を積んだエリートです。

ローンスターの起源は1993年に設立されたブラゾス・パートナーズ。この会社は、連邦預金保険公社(FDIC)と投資家グループが立ち上げたジョイントベンチャーで、1990年代初頭にアメリカの貯蓄金融機関で発生した1,300にも上る不良債権を処理することが目的でした。

グレイケン氏は不良債権の大半を処理した後の1995年に次なる投資機会を得るため、ブラゾス・ファンドを2億4,600万ドルで組成します。このファンドは主に北米圏の債券や不動産を投資対象としていました。このファンドの運用はブラゾス・パートナーズが担いました。さらに翌年にはローンスター・オポチュニティ・ファンドを3億9,600万ドルで組成しています。

1995年から1996年にかけて、グレイケン氏はカナダでの投資で成功を収めます。

1990年代に入ると、カナダはアメリカの景気後退の影響を受けて輸出が低迷。1991年にGDP成長率がマイナス1.9%となるなど、景気後退が深刻化していました。グレイケン氏はカナダ・ナショナル銀行から大量の不良債権を買い取りました。

アメリカ以外での成功を受け、世界展開を進めました。1997年には日本に上陸しています。

日本でその名を世間に広めたのが、東京相和銀行の経営破綻。ローンスターは再建スポンサーとなりました。ローンスターは東京相和銀行の受け皿となる新会社・東京スター銀行(東京都港区)を2001年に設立し、営業権を譲受しました。設立当初の東京スター銀行のトップには、元野村證券の副社長で経済企画庁長官なども務めた、当時のローンスタージャパンの会長・寺澤芳男氏が就任しています。

金融庁が公開している「金融担当大臣談話」によると、新銀行(東京スター銀行)への出資額は400億円以上。東京相和銀行には必須承継与信資産が7,744億5,900万円あり、その譲渡価格が5,909億200万円。選択承継与信資産が3,118億6,100万円で、譲渡価格が588億4,900万円。

預貯金が1兆60億4,900万円ありました。

東京相和銀行が保有していた不動産や有価証券などの資産は、712億4,000万円で譲渡されています。

東京スター銀行は設立から4年後の2005年に上場します。しかし、2007年に国内の投資ファンド・アドバンテッジパートナーズ(東京都港区)がTOB(株式公開買い付け)を実施。ローンスターがこれに応じて東京スター銀行は上場廃止となりました。

アドバンテッジはこの買収におよそ2,500億円を投じています。ローンスターは当時68%程度の株式を保有していました。単純計算で1,700億円あまりで売却したことになります。

なお、ローンスターは東京相和銀行の破綻処理を巡り、東京国税局から2度にわたる申告漏れを指摘されています。一度目は債権の会計処理に関する190億円の申告漏れで、これは利子を含む追徴課税額80億円が返還されています。

二度目は不良債権処理で生じた利益140億円の申告漏れで、ローンスターは日本では課税できないアイルランドの会社を経由してバミューダ諸島のファンドで利益を得ていました。ローンスター側は指摘を受けているファンドは日本でビジネスを行っていないと、課税処分に異議を申し立てています。

日本で初めてのEBOを支援するも批判の的に

ローンスターの活躍がよく知られているのは、バブル崩壊後のゴルフ場の再生。ローンスターは、不動産会社で2002年に経営破綻した地産の再建スポンサーとなり、2003年にパシフィックゴルフグループ(現:PGMホールディングス)を設立。19カ所を運営していたゴルフ場「チサンカントリークラブ」を承継しました。その後、全国のゴルフ場を買い集めて企業価値を高めました。

PGMは2005年に上場。2011年にパチンコ台などを手がける平和<6412>がTOBを仕掛け、ローンスターが保有していた約6割の株式を売却しました。

目黒の有名な結婚式場、目黒雅叙園の経営破綻でもローンスターが活躍しました。雅叙園を運営していた雅秀エンタープライズが2002年に民事再生手続きを申請。883億円の負債を抱えて倒産しました。

ローンスターは銀行が保有していた債権を買い取りました。施設の運営権は結婚式場運営などを行うワタベウェディング(京都市)に譲渡。不動産は2014年に森トラスト(東京都港区)に1,300億円で売却しています。

コロナ禍の2022年2月には大江戸温泉物語を運営する大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツを買収しました。大江戸温泉は2015年2月に投資ファンド大手のベインキャピタルが500億円で全株を取得していました。

ベインキャピタルは、大江戸温泉が運用する資産(ホテル)を保有する大江戸温泉リート投資法人<3472>を2016年3月に上場させていました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で大江戸温泉が運営していた地方のリゾートホテルは大打撃を受けました。大江戸温泉は2021年2月期に107億3,100万円の純損失を計上しています。

強引な投資手法に批判が集まったのが、2023年4月に民事再生法の適用を申請したユニゾホールディングス(東京都港区)のEBO。エイチ・アイ・エス<9603>の敵対的TOBが発火点となり、ユニゾは株価がつり上がるTOB合戦に巻き込まれます。

最終的にローンスターの支援により、2,050億円でEBOによる非上場化で決着しました。しかし、非上場化したのは緊急事態宣言の第1回目が解除されたばかりの2020年6月。ビジネスホテルの運営を主力事業としていたユニゾは大打撃を受けます。本業が立ち行かない不透明なビジネス環境の中、ローンスターは資金の回収を急ぎました。ユニゾは保有する不動産を次々と売却します。

本業での稼ぎを失ったユニゾは1,262億円もの負債を抱えて倒産しました。債権者の多くは地銀だと言われています。債権者を置き去りにして資金の回収を急いだローンスターに批判が集まりました。

グレイケン氏は日本経済新聞のインタビューに答えており、ユニゾの一件は2年半前のことでそれ以降の動向については承知していないと一蹴しました。

日本での投資機会を拡大するため、人員を増やすことを考えているとしています。

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