【4月M&Aサマリー】95件、7カ月連続で前年上回る|小野薬品工業が過去最大の案件発表

2024年4月のM&A件数(適時開示ベース)は前年比22件増の95件となり、7カ月連続で上回った。取引金額は約3760億円の大型案件、100億円超1000億円未満の案件が8件発表されたことで前年同月の約2倍となる6829億円(前年同月は3499億円)に。

1~4月の累計は410件で前年同期比56件増となり、16年ぶりに年間1000件を突破した前年を上回るハイペースでM&Aが活発に行われている。

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

【4月M&Aサマリー】95件、7カ月連続で前年上回る|小野薬品工業が過去最大の案件発表

例年4月はM&A件数が落ち込むが…

新年度を迎える企業が多い4月はM&A件数が落ち込みやすい月だが、2008年以降の集計で最多の95件となった。

このうち、海外企業が関わるクロスオーバーM&Aは18件で前年を3件上回った。1~4月の累計は77件で前年同期で8件(69件)の増加。国内・海外ともに堅調だが、件数や伸び率からみても、国内がけん引しており、M&Aが盛んに行われていることが分かる。

トップは大型のM&Aを生む医薬品業界

対して、取引金額は海外が主導。トップは、小野薬品工業が買収目的会社を通じて、がん領域で研究・開発・販売を行う米デシフェラ・ファーマシューティカルズをTOB(株式公開買い付け)で子会社化する案件。

2024年度第2四半期に買収を完了させる予定で、取引金額は約3760億円。同社にとっては過去最大のM&Aとなる。

デシフェラはマサチューセッツ州ウォルサムの本社を構え、2003年に設立された創薬ベンチャー。胃や腸の消化器にできた腫瘍に効果を発揮する「キノロック(QINOLOK)」含め、がん領域で5つのパイプラインを持つ。キノロックには効能追加により販売拡大が見込まれおり、承認間近の新薬と合わせて、2つで年間約1500億円の市場規模が見込まれるという。さらにキノロックは北米、欧州での販売ルートを持ち、欧米での地盤を固めたい小野薬品に魅力的に映った。

買収にあたっては、小野薬品の事情も絡む。同社は業績を急拡大させたがん免疫治療薬「オプジーボ」を持つが、この特許が2031年で完全に切れてしまう。オプジーボは2014年から販売され、2023年度で同社収益の約3分の1強、1500億円の収益を稼ぎ出した主力製品。近い将来を見越して補完するパイプラインを望んでいた。

小野薬品工業のように、医療機関向け医薬品業界ではM&Aが活発だ。新薬開発までには少なくとも10年、開発費用も数百億円から数千億円かかるとされ、開発にかかるコストや時間を買うための巨額のM&Aが毎年発生している。

シンボリックな案件では、2018年に武田薬品工業がアイルランドの製薬企業、シャイアーを6兆2000億円で買収すると発表、日本企業で過去最大の案件となったことも記憶に新しい。

健康食品ブームがM&Aを創出

2位はロート製薬がシンガポールの漢方薬大手、ユーヤンサンを三井物産と共同で買収するとした案件で、取引金額は880億円。漢方、サプリメント、食品と幅広い生薬由来の商品を手がけるユーヤンサンを取り込み、アジア地域での成長加速につなげるのが狙い。ロート製薬といえば、目薬で有名だが、今や主力はスキンケア商品であり、今後はフィジカル、メンタルほか社会的にも健康的な状態で人生を過ごす「well-being」をテーマに事業を展開。そのために、食品事業を第三の事業の柱に据えるべく、健康食品、サプリメントに力を入れていく。

この領域はコロナ禍により、健康意識の高まりから全世界的に市場が拡大しており、昨年4月にキリンホールディングスが豪州で健康食品事業を展開するブラックモアズを約1700億円買収を発表し、その後子会社化している。この領域をターゲットに医薬品、食品業界が入り乱れてM&Aを活発化させそうだ。

需給変動と技術開発への対応が求められる半導体業界

3位は信越化学工業が半導体シリコンウエハーの鏡面研磨加工を手がける三益半導体工業をTOBで子会社化するとした案件。取引金額は680.43億円。三益半導体は長年、信越化学のシリコンウエハー加工を受託し、2005年には業容拡大を目的に持ち分法適用関連会社化した。

シリコンウエハーの製造において、信越化学は世界ナンバーワンのシェアを持つが、それでもなお、移り変わりの激しい需給環境や技術開発の高度化が求められる同業界において、人材や経営資源の有効活用を進め、強固な経営基盤を築く必要があると判断した。

IT人材獲得が目的の案件も注目

注目案件は、NTTデータグループによるソフトウエア開発のジャステックの子会社化。TOBによる子会社化で買付代金は最大で342.4億円。現在、全世界的にIT人材が不足しており、同グループではかねてより国内外の人材の獲得を経営課題としてきた。

今回の子会社化もエンジニアリソースの獲得が業界ポジションの維持・基盤の強化に欠かせない状態になっており、人材獲得がひとつの目的となっている。

IT人材の不足は政府も課題視しており、経済産業省が公表した「IT人材需給に関する調査」によると、2030年のIT供給人材は113万人とするが、79万人の人材が不足する事態も予測されている。

こうした状況を先読みして、国内でもIT人材に関するM&Aが毎月のように発生している。4月だけを見ても、Orchestra HoldingsがITエンジニアの獲得を目的にエー・アンド・ビー・コンピュータ(東京都港区)からSES(システムエンジニアリングサービス)などの事業取得を発表(5月2日に中止を発表)。No.1がITエンジニア派遣やシステム開発を手がけるOZ MODE(東京都渋谷区)の子会社化を決めている。IT人材をキーワードにしたM&Aは金額面で目立たないものの、注目すべき分野だ。

◎4月M&A:金額上位

1 小野薬品工業 米デシフェラ・ファーマシューティカルズをTOBで子会社化 3760億円 2 ロート製薬 シンガポールの漢方薬大手ユーヤンサンを子会社化 880億円 3 信越化学工業 シリコンウエハー研磨加工の三益半導体工業を子会社化 680.4億円 4 電源開発 オーストラリアの再エネ企業、ジェネックス・パワーを子会社化 346.7億円 5 NTTデータグループ ソフト開発のジャステックをTOBで子会社化 342.4億円 6 イオン北海道 西友から北海道のスーパー事業を取得 170億円 7 ヒューリック 受験塾運営のリソー教育を子会社化 160.2億円 8 ホシザキ フードサービス機器輸入販売のフィリピン最大手TLXなど2社を子会社化 113.8億円 9 東洋エンジニアリング ブラジルのエンジニアリング企業TSPI株を追加取得で子会社化 100億円 10 電通総研 Webサイト構築・運用のミツエ―リンクスを子会社化 84.1億円 11 ノーリツ鋼機 子会社のプリメディカをメディパルホールディングスに譲渡 38億円 12 タスキホールディングス 資産コンサルティングベンチャーのオーラを子会社化 23.4億円 13 TBSホールディングス 米コンテンツ販売代理店、ベロン・エンターテインメントを子会社化 16.2億円 14 ジーニー デジタルPR事業のソーシャルワイヤーを子会社化 13.2億円 15 トゥエンティーフォーセブン 英会話事業「NOVA」を傘下に持ついなよしキャピタルパートナーズによるTOBを受け入れ 12.9億円

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