ドラゴンクエスト(ドラクエ)などのゲームソフトを手がけるスクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>が2期連続の減収を余儀なくされている。
新作ゲームコンテンツの開発と収益機会の多様化を進めているが、十分な成果が見込めないと判断した。
同社では業容の拡大や安定化につながるインオーガニック(外部の資源を活用して成長を目指す戦略)投資を実施するとしており、M&Aが増収に転じるカギになる可能性もありそうだ。
急速な変化が世界的規模で進行
スクウェア・エニックスは2025年5月14日の決算発表で、2025年3月期の売上高が前年度より8.9%少ない3245億600万円にとどまり、さらに2026年3月期には同13.7%少ない2800億円に減少するとの見通しを明らかにした。
ゲームソフト業界は顧客のコンテンツやサービスに対する需要が多様化、高度化しており、同社では「コンテンツ、サービスの提供形態やビジネスモデルが多様化するなど、急速な変化が世界的規模で進行している」と分析。
そのうえで、このような環境変化に対応し、強固な収益基盤を確立する取り組みを進めているものの、2026年3月期は10%を超える減収は避けられないと判断した。
高い主力IPへの依存度
同社は、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストなどの人気のRPG(ロールプレイングゲーム=プレイヤーがゲーム内のキャラクターを操作して、冒険や探索、戦闘などを行うゲーム)を保有しており、日本をはじめ欧米やアジアでもファンが多い。
さらに、これらIP(知的財産)をグッズやアニメ、音楽など多方面に展開しているのが強みとなっている半面、これら主力IPへの依存度が高く、新規のIPが振るわないことや、新規IPの開発体制のあり方などに課題を抱える。
2025年3月期決算は「ファイナルファンタジーピクセルリマスター」「ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅」などを発売した2024年3月期と比べ新作が減り、ゲームソフトなどから成るデジタルエンタテインメント事業の売り上げが17%近い減少となったことからも依存度の高さが分かる。
数十億円から数百億円の予算をかけて、数百人の人員が数年の期間を要して開発する大作ゲームは、ヒットすれば大きな利益につながるが、失敗すれば開発企業にとって致命傷となるリスクもある。
スクウェア・エニックスでも2024年3月期に、コンテンツの開発中止に伴ってコンテンツ等廃棄損約220億円を特別損失として計上した事例がある。
こうした情勢を踏まえ、2025年3月期に社内開発体制を刷新し、事業部制組織モデルであるBU制を廃止し、開発機能に重心を置いた一体運営型の組織体制を導入するなど、開発投資効率の向上に着手している。
AIなどで戦略投資を実施
同社は2024年5月に2025年3月期から2027年3月期までの中期経営計画を策定。この中で新しいIP創出につながる自社事業の知見を活用したM&Aや、企業価値向上のための投資を実施するとの方針を打ち出し、株主還元を含めて3年間で最大1000億円の成長投資枠を設けていた。
2025年3月期の決算でもこの方針は変更しておらず、決算説明資料として公表した中期経営計画の改定版では、すでにAI(人工知能)やデータマーケティング領域などで戦略投資を実施したとしており、今後2年間(2026年3月期~2027年3月期)で、さらに複数のM&Aに踏み切ることが予想される。
また同社は2025年5月14日に、TBSテレビ(東京都港区)との間で完全新規のオリジナルIPによるゲーム開発に関する業務提携を結んだ。
同社は中期経営計画最終年度の2027年3月期に目指す売上高は公表しておらず、数値目標として営業利益率15%(2025年3月期は12.5%)を掲げる。
新しい体制下での新規IPの開発や、ゲーム事業などの知見を活かしたM&Aがどのように進展するのか。最終年度の目標達成はこれら取り組み次第となりそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一
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