総務省幹部への接待問題に揺れる東北新社。接待には同社に勤務する菅義偉首相の長男が加わっていたことが明らかになっている。
エンドロールの“常連”
東北新社の中島信也社長、同様の接待問題が発覚したNTTの澤田純社長は15日に参院、16日に衆院の予算委員会に参考人として呼ばれ、釈明に追われた。中島社長は2月末に引責辞任した前社長の後を受けて就任したばかりだが、批判の矢面に立つことに。
東北新社といえば、映画やテレビ番組の終わりに表示されるエンドロール(出演者や制作者などの名前を列挙した字幕)の“常連”としておなじみだ。同社は外国映画の日本語版制作を祖業とする。CM制作でも国内トップクラスで今回、副社長から社長に緊急登板した中島氏はCM畑の出身。
東北新社は1961(昭和36)年4月に設立し、テレビ映画の日本語版制作に乗り出した。当時は日本のテレビ黎明期。民放テレビの第1号として日本テレビが1953年に開局後、雨後の筍のように開局ラッシュの様相を呈していた。しかし、テレビ各社はまだ自前での制作能力がなく、外国からの輸入番組に頼った。
外国映画・番組の日本語版制作の草分け
そこで新ビジネスとして急浮上したのが日本語の吹き替え。何といっても、創業者・植村伴次郎氏(故人)の慧眼が光る。「奥様は魔女」「ララミー牧場」など茶の間の人気番組の吹き替えを手がけるともに、テレビ局への外国映画・ドラマの配給も開始した。
1964年に新日本映画製作所を買収し、CM制作事業に進出。1966年には人形特撮テレビシリーズ「サンダーバード」をNHKに配給した。東北新社は50年以上にわたり「サンダーバード」の国内ライセンス窓口として、様々な版権ビジネスを展開中だ。
「スター・チャンネル」を設立し衛星放送事業を始めたのは1986年。現在、スター・チャンネルのほか、ファミリー劇場(テレビドラマ、アニメなど)、ザ・シネマ(洋画専門)、囲碁・将棋チャンネルなどのBS・CSチャンネルを運営する。
接待問題の渦中の一人、菅首相の長男・正剛氏は東北新社本体でメディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長を務めるかたわら、子会社の囲碁将棋チャンネル(東京都千代田区)の取締役を兼務していた。
計り知れない経営への影響
足元の業績はどうか。2021年3月期業績予想は売上高12%減の522億円、営業利益70%減の8億6800万円、最終利益63%減の6億5300万円。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、売上高の約4割を占める広告制作部門が2割以上落ち込む見通しだ。
接待問題は企業の社会的信頼を大きく揺るがせ、経営への影響は計り知れない。同社は2002年に株式上場(ジャスダック)以来、赤字転落は1度きり(2019年3月期約16億円の最終赤字)で、財務基盤に定評があるが、今回の事態を深刻に受け止めざるを得ない。
出直しを託された新社長の中島氏は創業家出身に代わり、4代目にして初の生え抜き。
文:M&A Online編集部