2022年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート

1.2022年第3四半期のTOB総評

今年第3四半期のTOB(株式公開買い付け)は件数、金額ともに第3四半期としては2年ぶりの増加となった。年間累計件数では前年通年の70件まであと22件だが、これまでのペースだと64件に留まり、4年ぶりに減少する見通し。一方、年間累計取引金額は第3四半期で追い上げて1兆544億円となったが、これまでのペースだと1兆4000億円止まりで2年連続の減少となる可能性がある。

TOBの不成立はなかった。現時点で今年の不成立は1件のみで、昨年の8件を大きく下回りそうだ。

◆TOB年間・四半期期間比較

2022年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート
TOB年間・四半期期間比較表(M&A Online)

2.TOBの推移

今年第3四半期のTOB件数は、前年同期比8件増の15件。第1四半期で前年同期割れとなったものの、第2四半期、第3四半期は前年同期を上回る追い上げを見せた。取引金額は第1四半期、第2四半期は前年同期を下回ったが、第3四半期は前年同期の3倍の6070億9500万円と好調だった。現時点では今年最高額の米投資ファンド・ベインキャピタルの日立金属<5486>に対するTOB(約3319億円)が総額を押し上げている。

敵対的TOBは第1四半期、第2四半期に続いて起こらず、今年に入ってから0件のままだ。このまま敵対的TOBが起こらなければ、2016年以来6年ぶりとなる。

MBO(経営陣による買収)は3件で、今年の累計は10件に。このままのペースだと13件程度となり、通年では前年を6~7件ほど下回りそうだ。

◆TOB件数・金額の推移(公開買付開始日届出ベース)

2022年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート
TOB件数・金額の推移グラフ(M&A Online)

3.2022年第3四半期の注目案件

8月29日に発表したオイシックス・ラ・大地<3182>のシダックス<4837>に対するTOB。シダックス創業家が同社筆頭株主のユニゾンファンドに対し、オイシックスを譲受人に指定した売却請求権を行使したのに伴い、オイシックスが同ファンドの所有する1479万2959 株(所有割合27.02%)の全てを取得した。

当初、シダックス経営陣は意見を保留し、コロワイド<7616>がシダックスの給食部門買収に意欲を見せるなど、創業家と経営陣の対立が表面化した。最終的にコロワイドが事業買収提案を見送り、オイシックスによるTOBが成立。

TOB後もシダックスの東証スタンダード市場への上場は維持されている。

2022年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート
2022年第3四半期の注目案件(M&A Online)

第3四半期で最も取引金額が高かったベインキャピタルによる日立金属に対するTOBは、発行済み株式の47%を約3319億円で買い付けた。その上で日本産業パートナーズ(東京都千代田区)など日本の投資ファンド2社と組んで親会社の日立製作所が保有する残る53%の株式を約3820億円で取得し、2023年3月に完全子会社化する。同TOBは2021年11月に実施する予定だったが、大幅に遅れていた。

一方、最もプレミアムが高かったのは総合コンサルティング会社アクセンチュア(東京都港区)が9月29日に発表した、データソリューション事業を手がけるALBERT<3906>を完全子会社するTOBで、買付価格は公表前日の終値4055円に126.39%のプレミアムを加えた9180円だった。アクセンチュアは成長戦略の加速に向け、AI(人工知能)やデータ分析に精通したデータサイエンティストと呼ばれる専門人材の獲得などを狙った。

4.TOBプレミアムの推移

第3四半期の総プレミアムは32.77%と2年連続で前年同期を下回った。半面、ポジティブプレミアム平均は2年ぶりの増加となった。足を引っ張ったのは米投資ファンドのEVO FUNDが8月19日に発表した、訪日観光客向けを中心に低価格ホテルを運営するレッド・プラネット・ジャパン<3350>を子会社化したTOB。

TOB公表前日の終値56円に対して80.36%のディスカウントとなる11円で買い付けた案件が、総プレミアムを引き下げた。レッド・プラネット・ジャパンはコロナ禍で訪日観光客やビジネス客の宿泊が減り、運転資金を確保できない経営危機に直面。2020年12月期、21年12月期は2年連続で14億円前後の営業赤字を計上していた。

◆買収プレミアムの推移(非上場および不成立案件を除く)

2022年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート
買収プレミアムの推移表(M&A Online)

5.TOBプレミアムの分布水準

2022年は第3四半期までの累計で50%超の高プレミアム案件比率が約32%と、2021年の約24%、2020年の約13%、2019年の約18%を上回り、この6年間で最も高い。

一方、ディスカウントプレミアム案件比率は約4%で、この6年間で最低となっている。通年でも総プレミアム、ポジティブプレミアムともに高い水準で終わりそうだ。

◆TOBプレミアムの分布(非上場および不成立案件を除く)

2022年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート
TOBプレミアムの分布グラフ(M&A Online)

【ご利用上の注意】

・2022年11月16日12時00分時点のデータである。
・2022年7月1日から2022年10月31日に公開買い付けが開始された案件を集計対象としている。ただし自社株TOBは対象外である。
・プレミアム算定に採用している株価は特に断りがない限り、公開日または基準日3カ月平均株価(終値)としている。
・プレミアム算定に非上場企業、不成立、公開買い付け中の案件は含まれない。

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データ・文:M&A Online編集部

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