アマゾンは、なぜ「ルンバ」に手を出したのか?

お掃除ロボットを自社開発へ。米アマゾンが8月5日(米現地時間)に、米家庭用ロボット掃除機最大手iRobotを買収すると発表した。

買収総額は約17億ドル(約2290億円)で、コリン・アングル経営最高責任者(CEO)は残留する。アマゾンがロボット掃除機を傘下に入れた狙いは何か?

iRobot買収の狙いはBtoBビジネス狙いか

iRobotは円盤型の自走式ロボット掃除機を普及させたメーカーで、アマゾンの「買収の思惑」についてはすでに多くの推察がメディアを騒がせている。その中でも有力なのが「ホームマップの取得」だ。

「ルンバ」は家庭で自動清掃をするプロセスで、全体の間取りを把握しているという。そうした「家庭内地図」をロボットが作成し、データをメーカーのサーバに蓄積する。そのホームマップを元に、デジタル家電の制御や新たな機器の導入が提案できるというのだ。

ただ、アマゾンの狙いは、そうしたBtoC(企業・個人間)ビジネスだけではない。大口で、より長期的に安定した取引が期待できるBtoB(企業間)ビジネスにも視野に入れているだろう。同社の典型的なBtoBビジネスの成功例が、アマゾン ウェブ サービス(AWS)。AWSはアマゾンをクラウドサービスの「勝ち組」にした。

調査会社の米ガートナーによると、2021年にAWSは世界シェア38.9%と、同21.1%の米マイクロソフト、同9.5%中国Alibaba、同7.1%の米Googleなどを大きく引き離している。そしてクラウドに代わるビジネスとして注目されているのが、無人搬送車(AGV)だ。

アマゾンとAGVと言ってもピンとこないかもしれない。

かつてアマゾンはAGVを「買う」立場だったが、2012年に米Kivaシステムズを買収してからは自社開発に力を入れ、今や「売る気満々」なのである。

iRobotの買収で低価格AGV開発が進む

物流業界では人材不足対策と配送処理の迅速化から、物流の自動化に取り組むのがトレンドだ。次世代物流構想の「ロジスティクス 4.0」でもAGVは重要な役割を果たす。この流れに乗って、アマゾンがAGV市場の本格参入するのも時間の問題だろう。

この市場の競争は激しく、アマゾンのKivaシステムズ以外にも、中国のギークプラスやインドのグレイオレンジ、ノルウェーのJakob Hatteland Computerなどが世界市場を狙ってしのぎを削っている。

そんなアマゾンがiRobotを狙ったのは、AGVの量産化と値下げのためと見られる。iRobotは家庭用ロボット掃除機では高級ロボットが主力で価格は高いが、AGVの世界では格安だ。iRobotの量産技術で低価格帯のAGVを投入していけば、中小物流業者にも導入が進むだろう。

市場調査会社のグローバルインフォメーションによると、自律型移動ロボット(AMR)を含むAGV市場は2021年の30億ドル(約4050億円)から2027年には180億ドル(約2兆4300億円)を超えると予測されている。

AGVの作業効率を向上し、人間などとの接触事故などを防止するためには人工知能(AI)の精度向上がカギを握るため、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)には有利だ。AGVがAWSと並ぶアマゾンのBtoBビジネスに成長する可能性もありそうだ。

文:M&A Online編集部

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