四国で世界初の営業運転を始めたDMVが「残念すぎる」理由

「鉄道とバスのいいとこ取り」は実現できるのか?2021年12月25日、DMV(デュアル モード ビークル)が世界初の営業運転を始めた。運行されるのは阿佐海岸鉄道(徳島県海陽町)の阿佐東線(あさとうせん)。

阿波海南信号場(徳島県海陽町)~甲浦信号場(高知県東洋町)を結ぶ10kmのローカル路線だ。

DMVで運行路線は延長されたが…

もともとは室戸岬を回り、牟岐駅(徳島県牟岐町)と後免駅(高知県南国市)の約113kmを結ぶ国鉄阿佐線として建設が進められていた。しかし、1973年10月に牟岐駅~海部駅間の10.1km(JR四国牟岐線に編入)が開通したが、国鉄改革で工事は凍結。

その後は第三セクターに工事が引き継がれ、徳島県側の阿佐東線は阿佐海岸鉄道が、高知県側の阿佐西線(あささいせん)は土佐くろしお鉄道(高知県四万十市)が後免駅(同南国市)~奈半利駅(同奈半利町)間の42.7kmを結んでいる。甲浦駅~奈半利駅間は着工されなかった。

DMVは鉄道敷設区間は「鉄道モード」でレール上を、未敷設区間は「バスモード」で道路を走行する。そのため、阿佐線のような鉄道未着工区間や廃止区間でも鉄道とのシームレスな運行ができる。阿佐東線の場合、鉄道が敷設されていない阿波海南文化村バス停留所~阿波海南信号場(阿波海南駅)、甲浦信号場(甲浦駅)~道の駅宍喰温泉間(土・日と休日は海の駅とろむまで)で運行路線が延長された。

四国で世界初の営業運転を始めたDMVが「残念すぎる」理由
阿佐海岸鉄道(阿佐東線)路線図(同社ホームページより)

だが、その実態は「鉄道とバスのハイブリッド」よりも、「レールの上を走行できるバス」に近い。DMVは車両重量が軽すぎるために一般鉄道の安全設備が利用できず、DMV専用軌道しか走行できない。DMV運行前は阿波海南駅から牟岐線に相互乗り入れができていた。

アトラクション鉄道として生き残れるか

しかし、阿佐海岸鉄道区間の列車集中制御装置(CTC)がDMV運転保安システムへ切り替えられた結果、牟岐駅までの相互乗り入れが不可能に。かつてはJR四国の徳島駅(徳島市)や阿波池田駅(徳島県三好市)まで直通運転していたが、こうしたJR四国との鉄道ネットワークからは完全に切り離された。

阿波海南駅で牟岐銭と直結していたレールは、DMV移行工事により分断。旧甲浦駅の鉄道ホームは供用を廃止し、駅舎前のバス停留所で乗降する形式になった。つまりレールは残したものの、鉄道を廃止してバスに転換したというのが現実だ。

四国で世界初の営業運転を始めたDMVが「残念すぎる」理由
かつてはJR四国とつながっていたレールも、DMV導入により阿波海南駅で分断された(Photo by Nekoshinshi)

つまり、運用上は鉄道路線跡をバス専用道とするBRT(バス・ラピッド・トランジット)と変わらない。鹿島鉄道線跡を利用した「かしてつバス」や、JR東日本の「気仙沼線・大船渡線BRT」など、国内でも導入が進んでいるシステムだ。

DMVは鉄道に比べれば維持費を抑えられるが、BRTであれば高価なDMV車両を導入する必要もなく、さらにコストを抑えられる。鉄道時代は280円だった海部駅~甲浦駅間の運賃は、DMVへの移行で500円に跳ね上がった。住民の足の確保よりも、「世界初のDMV」による観光需要を見込んだ観光鉄道(アトラクション)化が狙いの移行のようだ。

モードチェンジの映像をDMV車内で上映する計画もあり、アトラクション化が進む。DMV目当ての観光客が増えなければ、BRTへの転換の方が良かったということになる。今後のDMV普及の試金石になるだけに、世界初のDMVはアトラクションとしての「集客力」が問われそうだ。

文:M&A Online編集部

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