
シンガーソングライターのルイが、バンド形態では3度目となるワンマンライブを1月26日(日)東京・渋谷WWW Xで開催した。ジャンルにとらわれない音楽性がバンド形態、弾き語り、アコースティック編成などを盛り込んだ多様なスタイルと、20曲以上に及ぶ見応え満点のセットリストで、ユニークなキャラクターと共に存分に表現された。
エントランスには、自作の絵が飾られているのだが、怪獣やさまざまな生き物がキメラの如く描かれた作風はポップかつカオス。幼少期から表現のアウトプットとして絵を描いてきた彼の内面が窺えて興味深い。
フロアに入るとジャズやソウルテイストの開場BGMが流れ、着席スタイルながらルイの登場を待つオーディエンスは湧き立っている。暗転と同時にBGMがボリュームアップし、サポートメンバーの杉村謙心(g)、キタムラユウタ(b)、坂本暁良(ds)が登場する。
インストセッションで温めるバンドメンバーがフロアに立ち上がるよう促し、続々オーディエンスが立ち上がったところにルイが現れ、「運命の蜜」を歌い始める。ミュージカル調の曲をハンドマイクで軽やかにパフォーマンスする様子はポップスターの佇まい。エンディングだけピアノを弾く意外性も軽やかだ。

続いては未発表曲の「深夜枠」。ベースが効いたダークなフレーバーのAメロからサビでメジャーキーに抜ける構成が楽しく、甘さとストイックさ、少年と少女、子供と大人といった裏腹な要素を持つルイの声が際立つ。さらにアコギを構えた「イマジナリーフレンド」はグッと音数を絞り、楽曲ごとの情景が見事なぐらい変わる。1曲入魂で世界観を立ち上げられるのはそもそも歌詞や歌唱にリアルな感情があるからだろう。

続く「ひとめ惚れ」ではピアノは同期に委ね、スタンドマイクにタンバリンとしなやかなアクションを伴って歌う。

一気に異なる色合いの5曲を演奏したあと、高いテンションとは裏腹に落ち着いた様子で「昔のことを思い出して苦しくなったり、切なくなったりするのは嫌な気持ちになることがあるけど素敵だなって。(自身と)向き合って書いた曲を時間が経ってもいいねって言ってもらえるのはうれしくて──作ってよかったと思う」と、「タイムマシン」と題された楽曲を歌い始めた。会っている時間だけが真実であるような、決してSNSで探ったりしない恋。切ないという言葉では足りない何かが残り、ポップスターばりのパフォーマンスもこうした正解のない世界観に基づいているからこそ、よりユニークなものになるのだと感じた。

メンバーが袖にはけ、弾き語りが始まる予感とともに「ぜひ座ってください」と促すのだが、些細なワードセンスでルイというアーティストの解像度が上がっていく。それもワンマンライブの醍醐味だ。弾き語りのセクションではまずエレピでストーリー仕立ての「傷だらけのドクター」を披露し、ソウルクラシックな「ハートの7」と続ける。

続いては19歳のころに自分が自分に向けた内容の歌詞なのだが、今聴くと非常に上から目線な内容だと言う「楽園」。笑える曲振りの想像を超えて、未来に絶望している自分にもうひとりの自分がもしかしたらめちゃくちゃモテるかもしれないし、めちゃくちゃ人を好きになるかもしれないよ? と鼓舞する。
バンドが戻ると、ウッドベースをはじめアコースティック且つジャジーなアレンジのセクションへ。ラップに近いトーキングボーカルで表現力の幅を見せる「ポルターガイスト」や「いちごの墓」といったSFや空想小説めいた楽曲が続く。さらに曲に合わせ、操り人形のようなアクションを見せ、その振る舞いにセンシュアルな側面を見せた「今夜はマリオネット」。ダークなライティングと抑えたアレンジだけでもグッとエンターテイメント性が前に出るあたりにパフォーマーとしてのポテンシャルの高さを垣間見た思いだ。

このセクションの最後は「一張羅」。季節ごとにファッションが変わることは素敵だけれど、守りたい自分の軸があれば強くなれるという意図を話してくれた。日本的な趣のある柔らかいメロディ、言葉を抱きしめるような歌唱も相まって「替えの利かないこの命こそが一張羅だと思える日の為」というフレーズが心に迫った。

「ご覧のとおりラブソングまみれです。が、そんなポイポイ恋をする人間ではありません」と、若干言い訳めいたMCを唐突に放つのもこの人の個性。が、このひと言は彼の人生観を語ってもいる。生きている実感を表すもののひとつが“恋”なのだろう。
そして、微妙にフラットするメロディラインがクセになる「青のLIFE」では伸びやかなボーカルがグルーヴに乗って飛翔していく。さらに「燕」の高速ピアノリフがつむじ風のような体感を生み出し、燕(ツバメ)のように飛び立ちたい気持ちを鼓舞。曲中にメンバー紹介も交え、演奏の熱も高まっていくのがわかった。ハンドマイクでステージ前方ギリギリまで出てパフォーマンスする「チョコレートボーイ」ではステージが楽しくなっている自分を面白がるようなそぶりも見せ、さらにソウル/ファンク色の濃い「ブルーアワー」で、フロアも各々自由に体を動かしてこの日一番のバイブスが醸成されていった。

「一番新しい曲を聴いてください」と、歌始まりの「白とエスケープ」が披露される。削ぎ落とした音像の上を声の表現で突き通していく表現力が冴えるこの曲。ライブでも冬の空気に包まれるような醍醐味はルイの音楽が言葉の意味だけでなく、体験的な新鮮さを内包していることを実感させてくれた。

さまざまなアウトプットと濃厚なセットリストで展開してきた本編ラストは「愛の囚人たち」だ。自分自身を愛せないのに人を愛せないということと、愛される喜びを知らずに自分を愛せないというメビウスリングのような内容を持つこの曲。ここまでのエンタテナーの側面とは打って変わって、ストレートな佇まいで歌い、エンディングのロングトーンに感情を乗せる姿が強く印象に残った。

熱いアンコールに応え、程なくひとりで再登場したルイはライブタイトル『キリンのハート』に触れ、関わる人が増えていくことでさまざまな影響を受けることを認めたうえで、ひとりでできることと、ひとりではできないことを受け止め、軸はブレずにいたいのだという。

メンバーを呼び込んで正真正銘のラストナンバーは「泡になる」。ライブアレンジではワルツのリズムがここから進んでいくパレードのように響き、どこまでもイノセントなロングトーンには先のMCに通じる意志が込められているようだった。パフォーマンスによって彼自身はもちろん、観る人も自由になれる不思議なエネルギーを持つルイのライブは音源だけでは到底窺い知ることのできない、この若きアーティストの本領発揮の場と言えるだろう。ぜひライブを目撃してほしい。
Text:石角友香 Photo:清水舞
<公演情報>
ルイ One man live 『キリンのハート』
2025年1月26日(日) 東京・渋谷WWW X
【セットリスト】
01. into~運命の蜜
02. 深夜枠
03. イマジナリーフレンド
04. ひとめ惚れ
05. 五月のひらめき
06. タイムマシン
07. 傷だらけのドクター
08. ハートの7
09. 楽園
10. ポルターガイスト
11. いちごの墓
12. 今夜はマリオネット
13. 一張羅
14. 灰色の虹
15. 青のLIFE
16. 燕
17. チョコレートボーイ
18. ブルーアワー
19. 白とエスケープ
20. 愛の囚人たち
En01. タネを蒔く
En02. 泡になる
◾️メモカぴあ申込受付
One man live『キリンのハート』ライブベストショットをフォトカードにしてお届けします。
※メモカぴあとはライブシーンに公演日・会場名、演奏曲目などが入るメモリアルフォトカードです。
※メモカぴあで使用する写真はライブレポートの写真とは異なります。
受付期間:2025年2月26日(水)まで
詳細はこちら: https://memorial.pia.jp/shop/pages/2025rui_kirinnoheart.aspx
ルイ オフィシャルサイト
https://www.office-augusta.com/rui/