
近代日本画を中心として、日本美術の充実したコレクションを誇る東京・広尾の山種美術館で、毎春の恒例となっている桜をテーマとした企画展が、3月8日(土)から5月11日(日) まで開催される。名だたる日本画家たちによる桜の描写の競演が楽しみな展覧会だ。
らんまんと花を咲かせたときの美しさや、はらはらと散っていく儚さなど、様々な様相が日本人の心を魅了してきた桜は、多くの画家が取り上げてきたモティーフである。同展の見どころは、それぞれの画家の個性や美意識が反映された多種多様な表現が見られること。例えば、奥村土牛が京都・総本山醍醐寺三宝院の「太閤しだれ桜」に取材して描いた《醍醐》は、優しい雰囲気に包まれた淡い色彩のしだれ桜の繊細な表現が見事。やまと絵の伝統を受け継ぐ松岡映丘は桜を愛でる女性たちを色鮮やかに描き、小茂田青樹は散りゆく桜を抒情豊かに表し、川合玉堂は清らかな水が流れる渓谷に咲く山桜を味わい深く描写している。名だたる日本画家たちの見応えある館蔵品以外にも、奥田元宋の《奥入瀬(春)》のように、個人コレクションからの出品作もある。

川合玉堂《春風春水》1940(昭和15)年 絹本・彩色 山種美術館
今回のもうひとつの見どころは、夜桜の魅力に注目したテーマ展示だ。館のコレクションからは、速水御舟の《あけぼの・春の宵のうち「春の宵」》と《夜桜》など、淡い月明かりに照らされてしっとりと咲き誇る夜桜が並ぶ。明るい日ざしの下で輝く桜とはまた異なる雰囲気をたたえた花の表情を堪能できるのが楽しみだ。
同館では、奥村土牛が描いた《醍醐》のモデルとなった桜を組織培養した「太閤千代しだれ」を、2021年に館の玄関横に植樹しており、今回も会期中にその桜の花が開花を迎えるだろう。また、館のカフェでは、展示作品にちなんだ美味な和菓子も味わえる。多彩な絵画の桜と生きた桜、そして和菓子の桜と、さまざまなかたちを通じて、この美術館ならではの「お花見」を楽しみたい。

奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年 紙本・彩色 山種美術館
<開催概要>
『【特別展】桜 さくら SAKURA 2025 ―美術館でお花見!―』
会期:2025年3月8日(土)~5月11日(日)
会場:山種美術館
時間:10:00~17:00 (入館は16:30まで)
休館日:月曜(5月5日は開館)
料金:一般1,400円、大高500円(春の学割)
公式サイト:
https://www.yamatane-museum.jp/