Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」
Dios×礼賛 Photo:Yukitaka Amemiya

Text:森朋之 Photo:Yukitaka Amemiya



たなか(ex.ぼくのりりっくのぼうよみ)、Ichika Nito、ササノマリイによるバンド・Diosが新作『脱構築 EP』を引っ提げた対バンツアー『脱構築 β with』のファイナル公演を東京・Zepp DiverCityで開催した。対バンアーティストは、“CLR”ことサーヤ(vo)、“晩餐”こと川谷絵音(g/indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro)を擁する礼賛。

圧倒的なオリジナリティと特異なポップネスを備えた両バンドの共演は、音楽的なケミストリーと享楽が響き合う、今回の対バンツアーの本質そのものだった。



Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

礼賛

最初に登場した礼賛は、「スケベなだけで金がない」でライブをスタートさせた。エッジの立ったアレンジと超キャッチーなサビのフレーズのバランスが心地よく、フロアを埋め尽くした観客の体をしっかりと揺らす。〈スケベなだけで金がない〉のコール&レスポンスも楽しい。さらに“週刊誌に直撃されたときのことを書いた曲”(CLR)という新曲「ウラメシヤ」、「旧友が大変なことになってまして。でも、戻ってくる場所は作っておきたいし、今も“GOLDEN BUDDY”なんで。」(CLR)というMCからはじまった「GOLDEN BUDDY feat.くるま」などを披露。“簸”こと木下哲(g)、“春日山”こと休日課長(b/ゲスの極み乙女、DADARAY、ichikoro)、“foot vinegar”ことGOTO(ds/DALLJUB STEP CLUB、あらかじめ決められた恋人たちへ)による前衛とポップを融合したアンサンブル、CLRによる面白さとシリアスさを行き来するようなリリックは、完全に唯一無二。このバランスは礼賛にしか体現できない。(個人的には、木下のオルタナティブなギターフレーズに魅了されまくりました)



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続いて「traveling」(宇多田ヒカル)のカバーからーーCLRのハスキー&グルーヴィーなボーカルが素晴らしいーーライブは後半へ。代表曲のひとつ「TRUMAN」ではド派手なミラーボールの光が全体を照らし出し、ジャズ、ファンク、ロックが混ざり合うダンス・サウンドとともに会場をダンスフロアへと変貌させた。『トゥルーマン・ショー』をモチーフにしたであろう、リアルとフェイクの境目がぼやけるようなリリックも強く心に残った。



Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

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この日、2曲目のカバーは「熱帯夜」。

抑制を効かせたバンドグルーヴとメンバー全員による歌唱/ラップによって、原曲の新たな魅力を引き出していく。さらに新曲「SLUMP」を初披露した後、「take it easy」。礼賛的シティポップと称すべき音楽性と〈take it easy ここまでの日々/否定されるような筋合いはない〉というフレーズが響き合う中、ライブはエンディングを迎えた。この日演奏された「SLUMP」「ウラメシヤ」などを含むニューアルバム『SOME BUDDY』(2月26日(水) リリース)もぜひチェックしてほしい。



Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

そしてDiosのステージへ。オープニングナンバーに選ばれたのは、新作『脱構築 EP』の収録曲「呆然」。トライバルな匂いを振りまくビート、ササノマリイの美しい鍵盤のフレーズ、Ichikaの軽快にして鋭利なギターフレーズが絡み合い、〈次の自分も 飽きたら/脱構築の旅へ〉というラインにたどり着くこの曲は『脱構築EP』のコンセプトを象徴していると同時に、ライブアンセムとしてもしっかりと機能していた。快楽的なサウンドに身を任せながら、たなかが放つフロウと歌詞によって思考を刺激される。この体験こそがDiosの魅力なのだと、冒頭から改めて実感させられた。



すさまじいテクニックとフレーズとしての美しさを共存させたIchikaのギターリフに導かれたのは「天国」。ミラーボールの光とともに、音楽を介したエンタテインメントが立ち上がる。さらに楽曲が始まった瞬間に大きな歓声が上がった「ラブレス」へ。

〈聞かせてよ/“あなたに会いたい”〉というコール&レスポンスによって、観客との距離を近づける。緻密性と解放感を併せ持った演奏も最高。メンバー3人の音と言葉、サポートメンバー(オオツカマナミ(b)、山本晃紀(ds))による強靭にしてしなやかなビートが織りなすDiosのライブパフォーマンスは、今回の対バンツアーを経てさらなる進化を遂げていた。



Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

Dios
Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

「礼賛、めちゃくちゃよかったね。大人の余裕があった。」(たなか)という言葉から、最初のMCへ。特に感慨深そうだったのは、やはりIchika。大阪にいた頃に川谷からDMを受け取り、東京で初めて会い、ichikoroとして活動がはじまり……と川谷、休日課長との関わりを紹介し、「今日は特別な日」と話した彼にとって、礼賛との対バンは大きな意味を持っていたはずだ。



この後も『脱構築EP』の楽曲を軸に展開。“有機的なエレクトロ”と称すべきサウンドが響き渡る「芝居の終焉」では、〈クラウドに蓄えたおれの過去は/おれなのか?〉というラインによって、現代人が抱えるアイデンティティの危うさ、脆さを表現。「劇場」を挟んで披露された「波打」は静寂な雰囲気で始まり、少しずつエモーショナルの度合いを高めていく。まるで波打ち際のグラデーションのような“あなた”との関係、〈もう一度やり直そうよ/前とちがう景色でも〉という切実な思いが会場全体にゆったりと広がり、切なくて豊かな感動へと結びついた。



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「最初の頃に作った曲。

俺たちはずっとここにいるから、好き勝手に踊って。」(たなか)という言葉から始まった「逃避行」、そして、『脱構築EP』収録曲「黄昏」でライブは最初のピークへ。抗えない欲望、昼と夜が交わる瞬間を描いた楽曲が生々しいバンドサウンドとともに広がるシーンは、この日のライブの大きなハイライトだったと思う。



「このツアーでいちばん緊張するところです(笑)。」(たなか)というのは、対バン相手の楽曲をカバーするコーナー。この日セレクトされたのは、「TRUMAN」。言わずと知れた礼賛の代表曲だが、換骨奪胎と称すべきリアレンジによってDiosの世界観をしっかり混ぜ合わせていたのは流石の一言。ひとつひとつのフレーズを丁寧に紡ぎ出していたたなかからは、礼賛に対するリスペクトがはっきりと伝わってきた。



Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

ここからライブはクライマックスへと向かう。ギターと歌で静かにはじまり、サビのパートではEDMの進化型と呼ぶべきダンストラックへと変貌。汚さや馬鹿馬鹿しさを含めて、生そのものを肯定しようとするメッセージとともに観客の心と体を揺さぶりまくった。さらにDios流のエレクトロ・スウィング「Loopback」、憂いを帯びたライブアンセム「Virtual Castle」を放ち、フロアの熱気は最高潮に達した。



鳴り止まない手拍子と歓声に応え、Diosの3人が再びステージへ。礼賛のメンバーも呼び込まれ、全員でワチャワチャと記念撮影。

礼賛を見送った後、「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」と感慨深そうに語るIchikaの姿も心に残った。アンコールは2曲。“楽しさをガソリンにして生きろ”というテーゼを突き刺す「My Gasoline」、〈まだ知らない 明日のため/生きていくの 前向きでしょ?〉というフレーズに胸を打たれる「また来世」でライブは終了した。



Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

Dios×礼賛、『脱構築 β with』対バンツアー最終公演レポート「今日は本当にやりきった。Diosやっててよかった!」

和ぬか(仙台公演)、なとり(名古屋公演)、PEDRO(大阪公演)、Reol(福岡公演)、そして礼賛(東京公演)をゲストに迎え、EP『脱構築β』の世界を表現すると同時に、自らの音楽性を“脱構築”するようなステージを繰り広げたDios。3月31日(月) には、東京・Veats Shibuyaで5周年突入記念イベント『回想』を開催するなど、彼らは既に次に向かって走り出している。知性と野生がせめぎ合うDiosの音楽はここから、さらに大きな役割を担うことになるだろう。



<公演情報>
Dios 対バンツアー『脱構築 β with』



2025年2月18日(火) 東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
出演:Dios / 礼賛



セットリスト

■礼賛
1. スケベなだけで金がない
2. むちっ
3. ウラメシヤ
4. GOLDEN BUDDY
5. traveling
6. Chaos
7. TRUMAN
8. オーバーキル
9. 熱帯夜
10. SLUMP
11. take it easy



■Dios
1. 呆然
2. 天国
3. ラブレス
4. 芝居の終焉
5. 劇場
6. 波打
7. 逃避行
8. 黄昏
9. TRUMAN(カバー曲)
10. Dirty&Dirty
11. Loopback
12. Virtual Castle
En
13. My Gasoline
14. また来世



Dios 公式サイト:
https://dios-web.com/



礼賛 公式サイト:
https://ooooooooooxxxxxxxxxx.wixsite.com/raisan



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