
山口祐一郎と城田優が主演するミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』が5月10日、東京建物 Brillia HALLにて開幕した。ロマン・ポランスキー監督映画『吸血鬼』をもとに、『エリザベート』『モーツァルト!』などの人気作を手がけるミヒャエル・クンツェが脚本を担当したウィーン発のヒットミュージカル。

クロロック伯爵=山口祐一郎

クロロック伯爵=城田優


物語の舞台はヴァンパイアの故郷として知られるトランシルヴァニア。オーケストラが派手に奏でる壮麗な序曲にゴシックホラーの開幕を期待すると……その予想は華麗に裏切られる。ヴァンパイアハンターのアブロンシウス教授と、その気弱な助手アルフレートが猛吹雪の中たどり着いた宿屋では、村人たちは「ガーリック、ガーリック」と歌い踊り、主人夫婦はなぜか挙動不審、女中は妙に色気ムンムン、宿屋の娘サラは異常にお風呂に執着し、そのサラにアルフレートは一目惚れ。そんな中、教授は彼らの様子から、ヴァンパイア・クロロック伯爵の居城が近いと確信するのだが……。吸血鬼に近付いていく緊張感と裏腹に、個性が立ちすぎているキャラクターたちは脱力感満載。ユニークな登場人物たちが大騒ぎ、劇場はカオスと化していく。

左から)アルフレート=太田基裕、アブロンシウス教授=石川禅

左から)アルフレート=寺西拓人、アブロンシウス教授=武田真治

左から)アルフレート=太田基裕、サラ=フランク莉奈

左から)アルフレート=寺西拓人、サラ=中村麗乃
一方で、“欲望”こそこの世の神と謳うヴァンパイアと、“理性”こそこの世の希望だと信じる教授の対決など、人間の本性にシニカルに切り込む知的さもあり、単なるオモシロ作品で終わらない奥深さも。とはいえ、全キャラクターをマスコットにしたいほど個性の強すぎるキャラクターたちの魅力があってこその作品で、俳優たちの力量やセンスも問われるが、新旧入り混じるキャスト陣はそれぞれが大奮闘!

左から)クロロック伯爵=山口祐一郎、アブロンシウス教授=石川禅

左から)クロロック伯爵=城田優、アブロンシウス教授=武田真治
エキセントリックなアブロンシウス教授は石川禅と武田真治。2009年の再演から同役を演じ4度目の教授役となる石川は、突き抜けた研究馬鹿で、研究以外のことは目に入っていないような奇人感が面白い。

アブロンシウス教授=石川禅(手前)

アブロンシウス教授=武田真治
その教授とともにヴァンパイアのテリトリーに踏み込んでいくアルフレートは太田基裕と寺西拓人。気弱でビビり、泣きべそをかきながらも必死に教授についていき、必死にサラを愛するチャーミングな青年だ。太田はヘタレ感満載、教授のことが大好きなのが伝わるピュアなアルフレートで、ニコニコと教授を見つめている笑顔が印象的。寺西は気弱な中にも教授に食って掛かる気の強さもある面白い役作り。半泣きになりながらも妙にカッコつけたかと思えば、ある種ハタ迷惑な教授を見守るかのような笑顔を見せていたりと、懸命さだけではない面白いアルフレートを作り上げている。アルフレートは、彼の視点で観客が物語を体験していくような重要な役どころだが、太田、寺西とも、応援したくなるチャーミングな役作りで好印象。

アルフレート=太田基裕

アルフレート=寺西拓人
クロロック伯爵に狙われる少女サラを演じるのはフランク莉奈と中村麗乃だ。過保護な両親のもと育てられた純粋さを持ちながら、外の世界や危険なことにも憧れる、危うさもあるヒロイン。

サラ:フランク莉奈

サラ:中村麗乃
ほか、妻を持ち娘を愛しながら、女中にもちょっかいをだしている宿屋の主人シャガール役の芋洗坂係長、その妻レベッカ役の明星真由美、伯爵の息子ヘルベルト役のジュリアン、女中マグダ役の青野紗穂ら全員が新キャスト。芋洗坂係長のシャガールはダメ親父ながら憎めない愛らしさだし、明星は夫の浮気にイライラしながらもしっかり家族への愛情があるレベッカを好演。作品の飛び道具的ポジションのヘルベルトを演じるジュリアンは振り切った演技で、美しいビジュアルすら笑えてくるような衝撃のヘルベルトを造形。マグダの青野も小悪魔的キャラを、色気のある歌声と芝居で作り上げている。

シャガール=芋洗坂係長

レベッカ=明星真由美(中央)

マグダ=青野紗穂(右)

ヘルベルト=ジュリアン
さらに伯爵の召使いクコールは初演から演じる駒田一に加え、伊藤今人が初参加。口数少なく謎めいた存在だが、両名とも確実に客席を笑わせていく。1幕と2幕の間の休憩時間、舞台上に降り積もった雪を掃除する名物“クコール劇場”もお見逃しなく。どのキャラクターも、台詞を話していないシーンこそ細かく遊びを入れていたりするので、ぜひ隅から隅まで注目し、味わってほしい。そうそう、『“ダンス”オブ ヴァンパイア』というタイトルが示すようにダンサーたちも大活躍。

クコール=駒田一

クコール=伊藤今人(中央)

ヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身:佐藤洋介(左)

ヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身:加賀谷一肇(左)

積み上げた歴史と新たな風。山口祐一郎と城田優、それぞれのクロロック伯爵
そして主役のクロロック伯爵は山口祐一郎と城田優。日本初演から20年、この役を務める山口は、劇場内に轟く美声と“ミュージカル界の帝王”と呼ばれる存在感がやはり、唯一無二。衰えない美しさや独特な深みのある声の響き、ゆったりとした動き、超越した者ならではの孤独、すべての面で、この人こそがヴァンパイアだと無条件で信じられる。またその中に散りばめられた山口ならではのお茶目さも、笑いとホラーがミックスされた本作そのものを体現しており、やはりこの人の存在が日本版『ダンス オブ ヴァンパイア』を作り上げたのだ、と思わざるを得ない。教授と初めて対面するシーンでは、石川演じる教授との細かなやりとりの妙が光り、ふたりが積み上げた年月の厚みにも唸らされた。



一方、初挑戦の城田は、ゴシックホラーの主役にふさわしい美しいビジュアル、吸血鬼と言われて即納得できる怜悧な美貌が冴えわたる、ヨーロッパの香り漂うクロロック伯爵像。笑いの要素は抑えめで、その分ホラー風味が増している。例えば教授が伯爵に十字架を向けるシーンで、山口は十字架に怯む姿すら笑いに変えるのだが、城田は怒りをむき出しにし客席を一瞬凍らせた。コメディの部分はほかのユニークなキャラクターに任せ、伯爵はあくまでも気高く冷たく孤独に……という城田の役作りもなるほど納得で、主役が変わるとこんなに作品の印象が変わるのかと思う新鮮さ。新キャストが加わることの意義を見せつけた。



ラストは人間優位社会にヴァンパイアが牙を剥き、これはハッピーエンドなのかと一瞬考えるも「楽しけりゃ、いっか!」となる爽快感! 底抜けのエネルギーが熱狂となり、ロックサウンドに乗せて怒涛のフィナーレへ。カーテンコールではヴァンパイアも人間も、舞台も客席も混然一体となり、ノリノリで踊るのも名物だ。真夏に行われた過去の公演では、このカーテンコールが盆踊りバージョンになったこともあるのだが、まさに本作は日本で独自の進化を遂げた“納涼夏祭り”のような作品。新キャストを得て、作品の持つ新たな魅力に光を当て日本版『ダンス オブ ヴァンパイア』第二章の幕開けを鮮やかに印象付けると同時に、山田和也らしく客席を巻き込む演出、笑いもふんだんにまぶされた噛めば噛むほど味が出る内容からくる熱狂は、20年の時間をかけて育て上げられた、日本バージョン独自のものだとも強く思った。非日常を味わう演劇体験としては最高のミュージカル。まだ観たことがない人も、一度観劇すれば、リピーターが多い理由がすぐにわかるだろう。

ラストの客席を巻き込んだダンスも本公演の大きな魅力
取材・文・撮影:平野祥恵
<公演情報>
ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽:ジム・スタインマン
ヴォーカル・ダンス編曲:マイケル・リード
演出:山田和也
出演:
山口祐一郎/城田優
フランク莉奈/中村麗乃 太田基裕/寺西拓人
芋洗坂係長 明星真由美 ジュリアン 青野紗穂
駒田一/伊藤今人 佐藤洋介/加賀谷一肇 石川禅/武田真治 他
【東京公演】
日程:2025年5月10日(土)~5月31日(土)
会場:東京建物 Brillia HALL
【愛知公演】
日程:2025年6月7日(土)~6月15日(日)
会場:御園座
【大阪公演】
日程:2025年7月4日(金)~7月12日(土)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
【福岡公演】
日程:2025年7月19日(土)~7月30日(水)
会場:博多座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/vampire/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557001&afid=P66)
公式サイト:
https://www.tohostage.com/vampire/