【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕
ミュージカル『イリュージョニスト』ゲネプロより

海宝直人らが出演するミュージカル『イリュージョニスト』が3月11日に東京・日生劇場で開幕。原作はスティーヴン・ミルハウザーによる短編小説『Eisenheim the Illusionist(幻影師、アイゼンハイム)』で、2006年には映画化もされた物語を、『タイタニック』『グランドホテル』『パジャマゲーム』等を手掛けた英国の俊才トム・サザーランドの演出で上演するもの。

初日に先立ち10日、ゲネプロ(最終舞台稽古)が報道陣に公開された。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

物語は19世紀末ウィーンが舞台。イリュージョニストのアイゼンハイムは興行主のジーガとともに世界巡業をしている中、幼い頃に恋心を寄せ合っていた公爵令嬢ソフィと再会する。しかしソフィはオーストリア皇太子レオポルドの婚約者になっていた。密かに恋心を再燃させるアイゼンハイムとソフィだったが、皇太子は二人の仲を疑い、警部ウールに二人の関係を調べさせる。どんどん疑念を膨らませていく皇太子の怒りが最高潮に達した時、アイゼンハイムの元にソフィの死の報せが届いて……。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

もともと2021年1月に上演を予定していた本作は、しかしながらその後、新型コロナウイルスの影響で演出プランを見直しコンサートバージョンでの上演に。さらにそのコンサートバージョンも日本国内の感染拡大を受け、わずか3日間5公演となってしまい、観たくても観られないファンが続出した。その“幻の作品”が、ついにフルバージョンでの上演を遂げる。2021年の上演も“コンサート”と銘打ちながら芝居面もしっかり構築され、俳優たちはダンスもし、動き、トム・サザーランドらしい小道具も登場し「これはコンサートと言わずミュージカル版と言ってもいいのでは」と思う見応えのあるものであったが、今回のバージョンは2021年に作り上げた世界観はそのままに、全方位より繊細に、よりゴージャスに作りこまれた形。特にダイナミックなステージングと、アイゼンハイムが繰り出すイリュージョンが鮮やかで、この二者から生まれる効果が溶け合い、世紀末ウィーンの退廃的かつ幻想的な世界を創出する。なるほどこれがフルバージョンかと納得だ。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

メインキャスト5名は全員2021年版からの続投だ。アイゼンハイム役の海宝は稀代の売れっ子イリュージョニストらしく自信に満ちた優雅な身のこなしでありながら、ある種幼い少年のような我儘さで、愛する女性にすべてを捧げる情熱の炎を全身から燃え上がらせる。この人らしい美しい歌声、特に気持ち良く伸びる高音の響きもアイゼンハイムの情熱を体現していて良い。公爵令嬢ソフィは愛希れいか。美しい立ち姿は説得力があり、道ならぬ恋に葛藤しながらも決して品は失わない。クラシカルな外見に反し、身分の高い横暴な婚約者にも凛と立ち向かう現代的なヒロインを理知的に演じている。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

二人の間に立ちはだかる皇太子レオポルド役は成河。癇癪持ちだが高貴さもあり、さらに傾きつつあるハプスブルク帝国の行く末を憂う先見の明、そして父である皇帝にとってかわりたい野心もある……という複雑な役どころを自然に成立させているのは、演技巧者のこの人らしい。その彼が婚約者の不義を疑い、いっそう頑なになっていく姿は悲哀もあり、見応えがある。クラシカルな発声での歌声も注目だ。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

栗原英雄の演じるウール警部は、現実と幻想のあわいを行き来するこの物語を観客目線で追っていく役どころ。栗原の淡々とした芝居が、謎めいた物語の指針となる。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

そしてジーガ役の濱田めぐみは、“見世物”を司る興行主という裏社会的な面もある役はお手のものといった雰囲気。ドレス姿に男装にと外見でも観客を翻弄する。一方でアイゼンハイムとの絆という、人間味あふれる面もしっかり描き出していた。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

幻想的で美しいトム・サザーランドの演出

そして何と言っても、トム・サザーランドの演出が幻想的で美しい。大きなセットが縦横無尽に動き、複雑なフォーメーションを取るキャストの動きとともに場面や空気感を優雅に生み出していくのはサザーランド・マジックとしか言いようがないし(キャストはさぞかし大変なことだろう!)、個人的には密かに演劇界随一の“紙吹雪遣い”ではないかと思っている紙吹雪は今作でも効果的かつ美しく登場。シックでダークなセットと、照明効果が生み出す光と影の演出もひたすら耽美だし、マイケル・ブルースによるクラシカルな音楽も、世界観に非常にマッチしている。すべての要素が計算し尽くされ、めくるめく『イリュージョニスト』の世界が生まれ、観客は2時間強のあいだ、どっぷり作品の世界に浸ることができるだろう。



【レポート】最後まで油断は禁物。海宝直人ら出演『イリュージョニスト』フルバージョンがついに開幕

ただし劇中「この世は嘘」「人生は嘘」「真実なんて無駄」「信じるものは自分で選べ」と再三忠告されるこの物語、最後まで油断は禁物。公式で「舞台で起こったことはネタバレ禁止!」と謳われているとおり、あっと驚く結末が待っている。そしてすべてが判明した後でも、その結末は、愛する者を手に入れた爽快なハッピーエンドと受け取るか、世紀末ウィーンを覆う死の香りが充満した現実の苦さを嗅ぎ取るか――観る人により解釈は異なりそう。筋立てはシンプルでロマンチックだが、ピリリと刺激的なメッセージも内包されたミュージカル。ぜひアイゼンハイムの、あるいはトム・サザーランドの幻術に絡めとられてほしい。



取材・文・撮影:平野祥恵



<公演情報>
ミュージカル『イリュージョニスト』



脚本:ピーター・ドゥシャン
作詞・作曲:マイケル・ブルース
原作:ヤーリ・フィルム・グループ制作映画『幻影師アイゼンハイム』/スティーヴン・ミルハウザー作『幻影師、アイゼンハイム』
演出:トム・サザーランド



出演:
海宝直人 成河 愛希れいか
栗原英雄 濱田めぐみ ほか



【東京公演】
日程:2025年3月11日(火)~3月29日(土)
会場:日生劇場



【大阪公演】
日程:2025年4月8日(火)~4月20日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール



チケット情報:
https://w.pia.jp/t/illusionist-musical/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2454103&afid=P66)



公式サイト:
http://illusionist-musical.jp/



編集部おすすめ