鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート
鈴木実貴子ズ

Text:松木美歩

鈴木実貴子(vo/g)が静かにアコギを響かせるとオーディエンスから大きな拍手が巻き起こる。ウォーミングアップをBGMに、ズ(ds)の挨拶がてらのMCから始まるいつものスタイル。

「初めて観に来てくれた人もいると思うので伝えておきますが、ワンマン前に言うことじゃないですが、我々仲が悪くて……」そんな自己紹介に笑いが起こる。これもまたいつもの鈴木実貴子ズのスタイルで『あばら』ツアーのファイナルが幕を開けた。



鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

挨拶が終わると間髪入れずに「今年に入ってダメなライブ何本目~」と歌い始める。ワンマンライブの一曲目に選曲されたのは「音楽辞めたい」だ。笑いに包まれた和やかな空気感から一変。1フレーズで会場を凛とした張り詰めた空気に変えていく。「止めなくていい音楽を探している 勝ち負けのない音楽を探している 悔しくもならない音楽を探している でもそんなの音楽じゃないと思ってる」――”音楽”を自分に当てはめて聴いてみたりして、自分ごとのように御託を並べてみたり、一曲目から鈴木実貴子ズの世界観に前のめりに聴き入っていき高まる緊張感の中で「うるさいな」という歌詞に一喝されて現実に目が覚める。この魂の叫びに毎回ハッとさせられては私的応援歌となったこの曲に励まされている。そんな一曲目から始まったワンマンライブ。



鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

『あばら』ツアーファイナル下北沢シェルター公演は発売と同時にチケットはソールドアウトした。今年1月発売のアルバム『あばら』以降、メディアへの露出も少しずつ増えていき、今夏はフジロックを含めたフェスやイベントへの出演も続々と決定し、オーディエンスで膨れ上がった下北沢シェルターは熱気に包まれている。「とっとと終わらせて帰りますからね。

みんな窮屈で大変でしょ? 次で最後の曲にする?」(鈴木実貴子)、「僕ワンマン嫌いというか苦手で、ワンマンだとこの人がなにしてもいいっていう脳になるのがね」(ズ)と緊張の糸を笑いがその都度切っていき、また緊張の場面に切り替える。そんな繰り返しなのが鈴木実貴子ズのライブ。これがとても心地いい。



鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

「夕やけ」で感情を高めていき、「暁」ではリズミカルに響かせる。ギターとドラムというシンプルな構成だからこそ、芯に突き刺さっていき、一曲一曲をドラマチックに演出していく。一曲終わるごとに送られる拍手の音も曲を追うごとにどんどん大きくなっていく。アコギに持ち替えて「かかってこいよバッドエンド」。アルバム『あばら』に収録されたこの曲。「正面衝突やったろか」と叫ぶ姿は衝撃であり痛快でもあった。



「ありきたりなMCだけど……」と前置きし、「日常はきついと思って、ひとりで篭って、潜って、書いて、向き合って、泣いて、間違って、反省して、でも出来なくて。でも絞り出して、続けて、辞めずに日々をやって、小さな部屋でぽつぽつと繰り返す作業。感情と向き合う、なんでやらなきゃいけない? やりたいことじゃない。

うるせえよ。いろんな想いを持った曲が知らない人たちの前で歌う。それが誰かのためになる。なに、その夢のような話。大事な曲です」──まるで日記のように言葉を紡ぎ、紹介された曲「違和感と窮屈」。メジャーデビュー曲となったこの曲は本当に大切なものはなにかを問いかけられているようで歌いながら抗う姿が生々しくて、本当にかっこいい。それでいて歌い終わったあとの「ありがとう!」のひと言がかわいくて、充実したステージを感じさせる。



鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

この日のライブは9月に発売されるDVDの撮影に加え、彼らの本拠地・名古屋の番組で放送されるドキュメンタリー番組の撮影も入っていたようで、多くのカメラに囲まれる中、「はいはいここはカットね」と使えなさそうなMCを楽しそうに話す鈴木実貴子と冷静に交わすズとの絶妙なトークを合間に挟みながら、次は「チャイム」を披露。「気付かなかったな 夕焼けが綺麗な事」──そんな美しい歌詞に、感情をむき出しに歌唱する姿がまた感情をえぐっていく。



「今回のツアーで来てくれるお客さんが増えました。変なDMも来るようになりました。「この曲で救われました」「夜を越えることができました」という連絡をもらうようになりました。

そんなメッセージを貰うことを想像もしていなかった。自分が夜を越えるために作った曲で誰かの夜を越える手助けができるんだ。そんな出来事がうれしいんだけどゾッとした。こえー、でけー、すげー。人の時間を貰ってこうやってライブやって、価値を与えてくれてる。自分のために作ったけど、人のために歌おうと思えた曲です」──アルバム発売以降、目には見えない場所でも彼らの曲が誰かの気持ちを動かしている確かな現実を話し、「壊してしまいたい」を披露した。



鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

ステージ上のエアコンを切ってライブをしていたようでその理由をフジロックでの暑さを想定しその練習をしているためだとうれしそうに明かした。そして、「部外者ほどうるさくて好き勝手言う。遠いやつほど「なにそれ?」って。それだけの曲です」という紹介から新曲「ががが」へ。



ライブは終盤に向かい、「アンダーグラウンドでまってる」「正々堂々、死亡」へと続く。「みなさんが窮屈そうなのでもっと快適にライブを観てもらうために今年の最後に東京でもう一回やります。

信じられないほど広いところでやります」という前振りから12月13日(土)東京・鶯谷 ダンスホール新世紀でのワンマンライブを発表。「ゆっくり買っていいよ。でも箱代高いからチケット代5万円にしようかな」と冗談を振り撒きながら、「すべてを出し切りたい、そんな想いがワンマンの完売に繋がったり、アルバムを出すことに繋がったり、事務所やレーベルがついてくれたり、そんなことに繋がるとは思っていませんでした。出し尽くして帰りたいと思います、名古屋から来た鈴木実貴子ズでした」と話し、本編ラストナンバー「ファッキンミュージック」へ。



そして「そのままアンコールやりましょう」とはけることなくアンコールへ。9月に発売となるセルフカバー・アルバム『瞬間的備忘録』に収録される「坂」を披露することが説明されると、この歌詞に出てくる駐車場が下北沢にあることを明かし、今日ここで披露できることの喜びを語り、この日のライブは終了した。ふたりがステージから去ったあともアンコールの手拍子が続いたが、ステージに戻ってきた鈴木実貴子が「もうなにも残ってないです。ありがとうございました!」という言葉を残し、この日のすべてを出し切ってステージをあとにした。



鈴木実貴子ズ、全国ツアー『あばら』完走! 自分のためから誰かの夜を越えるための音楽へ、チケット即完で迎えた下北沢シェルター公演をレポート

3月からスタートした『あばら』ツアーは振替公演を含めすべて終了したが、鈴木実貴子ズの夏は始まったばかりで、『FUJI ROCK FESTIVAL '25』を始め、『New Acoustic Camp 2025』、スピッツ主催『Spitz × VINTAGE ROCK std. presents 豊洲サンセット 2025』などに出演することが決定。さらに、9月24日(水)にはセルフカバーと『あばら』ツアーファイナル公演の映像作品を収録したミニ・アルバム『瞬間的備忘録』を発売。そして、12月13日(土)にはワンマンライブ『危機一発』を東京・鶯谷 ダンスホール新世紀で開催する。



◼︎鈴木実貴子ズ インタビューは こちら(https://lp.p.pia.jp/article/news/416246/index.html)



<公演概要>
鈴木実貴子ズ『あばら』ツアー
6月28日 東京・下北沢SHELTER

プレイリスト
https://lnk.to/abaratour



【Set List】

01. 音楽やめたい
02. 生きてしぬ
03. 夕やけ
04. 暁
05. かかってこいよバッドエンド
06. 違和感と窮屈
07. チャイム
08. 都心環状線
09. 壊してしまいたい
10. ベイベー
11. ががが
12. アンダーグラウンドでまってる
13. 正々堂々、死亡
14. ファッキンミュージック
アンコール
15. 坂



<リリース情報>
ミニ・アルバム
『瞬間的備忘録』

9月24日(水) 発売
5,000円(税込)

【CD収録内容】
1. 坂
2. 都心環状線
3. 夕やけ
4. 正々堂々、死亡
5. あきらめていこうぜ

【DVD収録内容】
・2025年6月28日『あばら』ツアー ファイナル@下北沢SHELTERライブ映像
・ライブ当日の鈴木実貴子ズを追ったドキュメント映像

<ライブ情報>
ワンマンライブ『危機一発』

12月13日(土) 東京・鶯谷 ダンスホール新世紀

※チケット詳細は近日発表

鈴木実貴子ズ オフィシャルサイト
https://mikikotomikikotomikiko.jimdofree.com

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