世界の映画祭を席巻。映画『石門』監督が語る

中国湖南省出身のホアン・ジーと、東京出身の大塚竜治が監督した映画『石門(せきもん)』が2月28日(金)から公開になる。ふたりは私生活では夫婦で、長い時間をかけ、通常の劇映画とは違う手法で新作を手がけている。



なぜ、ふたりの作品は国際的に高い評価を受けるのか? なぜふたりの映画は他の作品にはない魅力を感じられるのか? それはふたりの“映画の作り方”に秘密があるようだ。



彼らの作品はすべて詳細な台本がなく、職業俳優ではない人間がキャストに起用されるという。



ーあらかじめ脚本がないということは、映画をつくる過程で物語がつくられていったということでしょうか?



大塚監督 我々はドキュメンタリー出身ということもあり、脚本は “あらすじ”しかないんです。そのあらすじを書く工程も取材から始まります。まず主人公の年齢が決まると、舞台となる場所で暮らす主人公と同じ年齢の子を取材するんです。『石門』だと女子大学生が主人公ですから、同年齢の大学生100人ぐらいに共通の質問をしていきます。例えばですけど、どうやってお金を稼いでいますか? とか、稼いだお金を何に使っていますか? とか。面白いエピソードもあったりするんですけど、そうではなくて、答えてくれた人に“共通する部分”を拾い上げて登場人物を作ります。



この映画では主人公が妊娠をして、産むのか堕ろすのか悩むんですけど、同じ状況になれば多くの人が悩むところですよね。そこに“産んだ子を親の賠償金の代わりにする”というフィクションを入れた。始まりのアイデアはそれだけなんです。その上で、10か月間撮影をすると決めて、そこで主人公が精神的、生理的にどう変化していくのかを観察しながら、切り取っていく。

僕は男性なので妊娠したことがないわけですけど、10か月という同じだけの時間をかけて思考しながら、主人公の気持ちに近づきたい、その期間に起こったことを物語に組み込みたいと思いました。



ホアン監督 私たちの映画作りにはいくつかの段階があります。第一段階は私たちがアイデアを話し合い、最初の脚本を書くプロセスです。私たちは夫婦で一緒に暮らしていますから、どんな映画にするのか、まず家で議論をします。第二段階は俳優を探すプロセスです。俳優を探しながら同時に調査をしますし、撮影する場所も見ます。というのも、私たちはプロの俳優ではなく、アマチュアの人に出てもらいますから、キャスティングをするためにはフィールドワークをして、その人たちに取材をする必要があるのです。



取材をすることでわかるのは、この映画に出ている人それぞれに、彼ら自身の生活があり、彼ら自身の物語がある、ということです。そこには脚本の書かれている物語とは異なる物語が存在しているわけです。ですから、この映画は、“私たちの撮る物語”と、私たちが取材した人たち“それぞれの物語”が組み合わさったものだとも言えます。



ー長い時間をかけて、出演者と、その背後にある社会が変化していくプロセスを撮影していく手法は、“妊娠”を扱う『石門』を描く上で非常に適切なものだと感じます。



大塚監督 我々のつくる映画では可能な限り脚本に書かれているような“文字情報”を取り除きたいと思っています。

そのための手段のひとつは、シーンごとに登場人物に何かしらの変化があることだと思います。文字は不要でビジュアルでわかるものだからです。本作の場合は“妊娠”という身体の変化がありますから、そこは成功したと思いますけど、妊娠を扱わない作品であっても考えは同じです。



ホアン監督 私たちの映画は本当に最後の最後、すべての編集が終わるまで、成功なのか、失敗なのか、わからないんです(笑)。すべての過程が終わるまで、その映画が成功するのか、ずっと心配しているんです。



ふたりは目の前の俳優や社会の変化をすべて受け止め、観察し、作品の中に取り込んでいく。映画『石門』では、10か月をかけて、望まない妊娠をした女性の身体の変化と痛み、彼女を取り巻く世界を丁寧に描き出していく。他の映画監督では描けない唯一無二の世界は、日本の観客も魅了することになるだろう。



『石門』
2月28日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
https://stonewalling.jp
©YGP-FILM



撮影:杉映貴子

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