『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結
左から吉田泰一郎《ブースター》、《サンダース》、《イーブイ》、《シャワーズ》

2023年3月、国立工芸館(石川県金沢市)よりスタートし、アメリカや日本各地を巡った『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』が、ついに愛知県に上陸。人間国宝から若手まで、20名の工芸作家が、陶芸、漆芸、木工、金工、染織などでポケモンを表現した。

新作を含めた約80点の中から、ピックアップしながら本展を紹介する。



会場に入ると、まず辿り着くのが「すがた – 迫る!」の展示ゾーン。彫金作家である吉田泰一郎は、イーブイと進化形の3匹を表現した。シャワーズには青銅、サンダースは金銀メッキ、ブースターには緋銅と、タイプによって施された伝統的な着色が美しい。七宝焼の瞳はじっと眺めていると吸い込まれそうな感覚になり、シャワーズのうろこのような質感も目を引いた。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

吉田泰一郎《シャワーズ》2022年 個人蔵 (C)吉田泰一郎
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

吉田泰一郎《サンダース》2022年 個人蔵 (C)吉田泰一郎

福田亨はベースとなる木を彫って、そこに別の木を嵌めていく伝統技法を立体彫刻に応用している。《雨あがり》では葉っぱの下で給水するアゲハント、《Floor》では畳の上にたたずむアリアドスが出現。どちらも愛らしく、「もしも暮らしの中にポケモンがいたら」と想像せずにいられない。福田が一番好きだったというホウオウは、飛翔の高さが螺旋形のタワーで表現され、その精密さに見惚れる。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

福田亨《雨あがり》2022年 個人蔵 (C)福田亨
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

福田亨《飛昇》2022年 個人蔵 (C)福田亨

陶芸家の今井完眞は、手びねりで成型したボディを削り、細部に土を足して、対象の「らしさ」を高めていくスタイル。どっしりとしたゼニガメは存在感抜群で、凹凸のある皮膚の質感は生きているようなリアルさだ。漁具の浮き玉に乗り、海で偶然出会ったようなキングラー、輝く甲羅を持つゼニガメなど、いろいろな角度からその姿を堪能したくなる、立体作品の魅力が満載だ。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

今井完眞《フシギバナ》2022年 個人蔵 (C)今井完眞
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

今井完眞《キングラー》2022年 個人蔵 (C)今井完眞

続く「ものがたり – 浸る!」の展示では、冒険の舞台への憧れや技のインパクトなどのポケモンの世界観に、作家たちが工芸の素材と技を携え挑戦した。



池田晃将は、貝殻の内側にある虹色の部分を薄く削り出し、漆で接着する螺鈿の技法を用いる。角度によって色味が変化する、電子基盤のような模様が近未来的。愛知会場から展示されている《光晶亀甲飾箱》もチェックしておこう。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

池田晃将《光晶亀甲飾箱》2025年 個人蔵 (C)池田晃将

新實広記はガラスを用い、こおりタイプのポケモンによる「つららおとし」の技をインスタレーションで表現。ダイヤモンドのような尖った形状はひんやりと冷たそうで、自ら発光しているようにも見える。ガラスの表面はマットな部分とクリアな部分があったり、気泡の美しさに気づいたりと、見れば見るほど発見がある作品だ。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

新實広記 《Vessel-TSURARA-》2022年 個人蔵 (C)新實広記

城間栄市は、沖縄の伝統的な染織技法である紅型(びんがた)でポケモンたちのいきいきした姿を描き出した。ポケモンの舞台の一つ「アローラ地方」をイメージに重ね、ピカチュウ、ライチュウ、モクロー、ニャビー、アシマリ、オドリドリたちが登場。鮮やかな色合いは、南国を旅している最中の心地よい風を想起させる。天然の藍ならではの風合いが魅力の藍型(えーがた)の作品と対で並べられている。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

城間栄市《琉球紅型着物「島ツナギ」》2022年 個人蔵 (C)城間栄市

テキスタイルデザイナーの須藤玲子は、そのかわいさに突き動かされてピカチュウをモチーフに決めたという。

およそ900本もの“ピカチュウレース”は、表情豊かなピカチュウに、ツル草やゼンマイ、キノコといったモチーフが連なっている。一本だけ色柄違いのレースがあるので、不思議の森に迷いこむ気持ちで探してみよう。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

須藤玲子《ピカチュウの森》2023年 個人蔵 (C)須藤玲子
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

須藤玲子《ピカチュウの森》2023年 個人蔵

展示を締めくくるのは、生活のさまざまなシーン息づく工芸品の機能や装飾の価値観に、ポケモンが挑戦する「くらし – 愛でる!」のゾーン。



「彫金」で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された桂盛仁は、金具の制作で高い評価を受けた人物。ブラッキーの金具は、そのつややかさ、フォルムが愛らしい。制作過程のスケッチや粘土モデルが展示されているのもうれしいポイントだ。愛知会場より登場した《ブローチ/ペンダント マギアナ》もお見逃しなく。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

桂盛仁《帯留 ブラッキー「威嚇」》2022年 個人蔵 (C)桂盛仁
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

桂盛仁《ブローチ/ペンダント マギアナ》2025年 個人蔵 (C)桂盛仁

桑田卓郎はピカチュウをモチーフにカップを制作。「現代の最高峰とも言える岐阜の量産技術を追求しながら制作するカップに配するには、ピカチュウ以外にありえない」と尊敬の念を込めた。最新技術による転写シートで仕上げられたピカチュウがずらりと並び、ポップかつアーティスティックな空間になっている。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

桑田卓郎《カップ(ピカチュウ)》2023-2024年 個人蔵 (C)桑田卓郎
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

桑田卓郎《タイル(ピカチュウ)》2024年 個人蔵 (C)桑田卓郎

陶芸家の桝本佳子は、「炎は焼きものと切り離せない」と、「ほのおタイプ」のポケモンをモチーフに選択した。器から飛び出してきたり、器を切り取ったりと、文字通り型破りの姿を見せるポケモンたち。

ユーモアかつエネルギッシュに表現された作品群は、鑑賞者にもパワーを与えてくれるようだ。



『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

桝本佳子《ロコン/信楽壷》2022年 個人蔵 (C)桝本佳子
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』展示レポート 20名の工芸作家がポケモンを表現した約80作品が集結

桝本佳子《ヒトカゲ/信楽壷》2022年 個人蔵 (C)桝本佳子

ポケモンと工芸という異色の組み合わせで、これまでにない形でそれぞれの魅力を伝える本展。ポケモンをよく知っている人もそうでない人も楽しめる内容だ。ぜひ松坂屋美術館に足を運んで、実際に体感してみてほしい。



取材、文:松永美穂(株式会社エディマート)



<開催情報>
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』



2025年4月26日(土)~6月15日(日)、松坂屋名古屋店 南館7階 松坂屋美術館にて開催



チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kogei-pokemon-a/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557284&afid=P66)



公式サイト:
https://www.matsuzakaya.co.jp/nagoya/museum/



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