
話題の舞台を生み出して来た主演・田中圭、演出・白井晃のタッグが再び始動。アイルランド生まれの劇作家エンダ・ウォルシュによる最新作『Medicine メディスン』、その日本初演がシアタートラムの濃密空間に立ち上がる。
白井さんと舞台を作るなら、分かりやすくない話がやりたい
――舞台出演は一昨年の『夏の砂の上』以来、また白井さんの演出作品は2016年の『夢の劇-ドリーム・プレイ-』以来、8年ぶりだそうですね。今回のオファーを受けた時の心境からお話いただけますか。
白井さんとひさびさに舞台をやることが決まって、いただいた戯曲を読んでみた最初の感想は、「まだよく分からないけど面白そう」でした(笑)。白井さんと舞台を作るなら、僕は難解で挑戦的な、分かりやすくない話がやりたいんです。これは楽しそうだな、本格的にお芝居が出来そうだなという感触でした。
――難解な作品に対して、怯むことなくぶつかっていくほうなんですね。
怯むってことはないかもしれないですね。そんなふうに考えたら全部そう思ってしまうので(笑)、考えないようにしています。
――あらためて、戯曲の印象をお願いします。
最初に読んだ時は、どういうこと!? 難しそうだけど面白そう、お芝居によってすごく変化するだろうな、くらいの感覚でした。

――作者のエンダ・ウォルシュ氏は自身の作品について「愛されなかったり、ちゃんと見守られなかった人たちを描いてきた」と語っていて、本作を「そういう見守られることが必要な人たちについての物語」とコメントされています。白井さんがウォルシュ作品を手がけるのは今回で3作目ですが、田中さんは、白井さんがその世界観に心惹かれる理由をどのように考えますか?
そうですね。僕からすると白井さんは、柔軟な考えを持っていて、とにかくいろんなことに興味を示して、ずっと探求している人というイメージがあります。「ここまでやったからいいや」にはならない方なので、今回のような分かりやすい答えを提示しない作品はすごく好きだと思いますし、僕もそうなんです。僕は、自分の役を通したうえで伝えたいこと、演出の意味といったものは一応把握して演じていますが、それがけっして正解とは限らない、というところが好きで。観てくださった方に「作品の持つ意味は何だったの?」と聞かれても、「分からない。正解はなくていいんですよ」と答えます。観た方それぞれの感想が僕に気づきをくれることも多々あるので。もちろん観ていて分かりやすくて大笑いする面白い作品も好きだけど、どちらかというと、やる人によってすごく変化する、観る人によって受け止め方がすごく変わる作品のほうが好きです。
舞台経験で得たものの実感は「ありすぎるくらい」
――世田谷パブリックシアターの舞台には数多く立っていらっしゃいますが、シアタートラムは『夜への長い旅路』(2015年上演)以来になりますね。劇場空間にはどんな印象を持っていますか?

世田谷パブリックシアターとシアタートラムは、観るにも演じるにもいい劇場だなと僕はつねに思っています。
――ところで世田谷区YouTubeチャンネルでの保坂(展人)区長との“新春対談”※に、世田谷パブリックシアター芸術監督の白井さんとともに出席され、『メディスン』のお話もされていましたね。とてもリラックスして素直な受け答えをされていたのが印象的でした。ああいう場には慣れていらっしゃるのかなと。
そうですね、やっぱり白井さんが一緒だと安心感がありました。白井さんをイジり過ぎるのはやめたほうがいいかな、とは思いましたが(笑)。また区長がとても楽しくお話ししてくださる方で、年上の方のお話を聞くのは好きなので、楽しかったです。


――対談で、白井さんが「元来シャイだけれど、演劇を通して自身を解放出来た」といったお話をされていました。田中さんは、演劇の舞台経験が自身にもたらした変化、また舞台経験によって得たもの、そうした実感はありますか?
実感は……あり過ぎるくらいです。俳優というのは不思議な仕事で、特殊な世界でずっと生きて来ていると思っているので、だいぶ影響はあるのではないかなと思っています。

――舞台『メディスン』に関するお話では、白井さんが「じっくりやる」とおっしゃった時に田中さんが「え~~」と渋いリアクションをされていて可笑しかったです。かねてより「長い」とおっしゃっている白井さんの稽古にあたって、田中さんなりの対策は?
対策は、実は8年越しでずっと取っているんです。僕、白井さんの稽古が長いのを「本当に嫌なの?」と聞かれたら、本当は嫌ではないんです。でも僕が「嫌じゃない」風に振る舞ってしまうと、おそらくとても長くなる気がするので(笑)ずっと嫌だ~嫌だ~と言い続けているんです。白井さんには言えないですが、とことんやりましょうよ!という感覚ももちろん持っているので。ただ、僕の“とことん”と白井さんの“とことん”の度合いがまったく違ったりするので。今回共演する奈緒さんや富山さんにとって、やっぱり稽古は楽しいほうがいいじゃないですか。白井さん、本当に悪気なく休憩を忘れて稽古しちゃうので、そこは僕が率先して「休憩挟みたいです!」とちゃんと言おうと思っています。

感情が動く時間、空間にしたい
――対談では30代最後に「やんちゃ頑張りをする」とおっしゃっていましたが、40代に向けて雰囲気を変えていこうと考えていらっしゃるとか……!?
すみません、何もないです(笑)。冷静でダンディーな大人の男性には憧れますし、そうなりたいなという願望はありますが、たぶん40代になっても今と変わらないだろうなという気がしています。以前からお付き合いのある周りの40代の方々が、皆さん尊敬出来る、憧れるところを持っている方々で、良い意味で全然変わってないんですよね。もちろん身体的に「健康診断行きなさい」とか「疲れやすいから休みなさい」と言われるようにはなると思いますが(笑)。僕としては、「なるほど、僕もこうなったか~」と感じるようになるのは50代かなと思っています。
――さらなる進化が楽しみですが、まずは舞台『メディスン』ですね。タイトルにも意味深いものを感じます。こんな効能を持つ作品になれば、といった理想をお聞かせください。
この『メディスン』に限らず舞台をやる時にいつも思うのは、楽しかったな~でも悲しかったな~でも何でもいいので、感情が動く時間、空間になればいいなと。観終わった後にその余韻でいろんなことを考え始める、そのきっかけとなるだけで十分だと思っています。『メディスン』ってタイトルだけど、薬のようで実際は毒じゃん! みたいな意味を持つ可能性もあるかもしれない、僕自身も演じながらそんな発見があることを楽しみにしています。

取材・文:上野紀子 撮影:石阪大輔
ヘアメイク:岩根あやの スタイリスト:Yoh U
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<公演情報>
『Medicine メディスン』
作:エンダ・ウォルシュ
翻訳:小宮山智津子
演出:白井晃
出演:
田中圭 奈緒 富山えり子
荒井康太(Drs)
【東京公演】
2024年5月6日(月・休)~6月9日(日)
会場:シアタートラム
【兵庫公演】
2024年6月14日(金)~6月16日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【愛知公演】
2024年6月22日(土)・23日(日)
会場:東海市芸術劇場 大ホール
【静岡公演】
2024年6月29日(土)・30日(日)
会場:静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ 中ホール・大地
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2448570(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2448570&afid=P66)
公式サイト:
https://setagaya-pt.jp/stage/14112/
※インタビュー内にある「2024年世田谷区長新春対談」動画は こちら(https://www.youtube.com/watch?v=Nr1KfP9bSTw) からご覧いただけます。