
世界一のお嬢様を目指し、全寮制のお嬢様学校で執事とともに修行に励む本郷メイを主人公に描いた人気漫画『メイちゃんの執事』。その続編として2014年から連載されていた『メイちゃんの執事DX』も、6月5日発売の「マーガレット」13号にてフィナーレを迎えた。
『何者でもない女の子に「Sランク執事」という
禍々しいものをぶつけてみたかった』
––––6月23日に『メイちゃんの執事DX』コミックス20巻が発売され、「メイちゃんの執事」シリーズが完結します。現時点(4月中旬)で最終話の原稿はもう描き終えていらっしゃいますか?
実はこれから打ち合わせをしてネームを描くので、まだ完結するという実感が湧いていないんですよ(笑)。
––––17年の連載は長かったですか? それともあっという間でしたか?
もう17年経ったんだな、早いなという感覚ですね。連載を始めたのが30代の半ばぐらいだったので、自分の子どもぐらいの年齢の読者に向けて描く感じでした。
小学校高学年とか、中学1年生くらいのときから読んでいる方も、もう社会人ですもんね。その方たちはすごく長く感じたと思います(笑)。
『メイちゃんの執事』より。普通の女の子・メイが、Sランク執事の理人(左)や弟の剣人(右)、聖ルチア学園のお嬢様たちと時間を共にしながら「世界一のお嬢様」を目指し、成長していく
––––連載開始時、主人公のメイは中学2年生でしたね。
『メイちゃんの執事』までは高校生が主人公の漫画を描いていたんですが、もうちょっとピュアな……ピュアってなんでしょうという感じですが(笑)、まだ何者にもなっていない女の子を主人公にしよう、と。
そこに「Sランク執事」という禍々しいものをぶつけたらどうなるだろう?という気持ちがありました。
––––Aランクより上のSランク執事を、「禍々しい」と表現されるのが面白いですね。
執事にランクをつけることにしたときに、十分優秀なAランクの執事とSランクの執事は何が違うのか考えたんです。
そこで、ただ優秀なのではなくて、強すぎる武器のような人というか…使い方を誤ったらひどいことにもなるよ?という禍々しさのある人にしようと思いました。かつ、ちょっと変態にしようと(笑)。
Sランク執事は、仕えるご主人様がただハイクラスな人、有能な人では面白くないと思っているんですよ。自分が「これだ!」と思った人に仕える。主人のためなら家族すらも切り捨てちゃうぐらいの、人としてはどうなの!?みたいな変な人がSランク執事と言われるのかな、と思っています。
––––主人の側にも度量が問われますよね。最初は中2の女の子らしく頼りなかったメイが、成長していくにつれて、まず「自分がこうしたい」という意思ありきで、執事の理人にそれを実現させるために助けてもらう、という関係性になっていきました。
そうですね。最初は「理人さんを喜ばせたい」という気持ちでいたメイに、無意識のうちに「自分が関わっている人たちを助けたい」とか、「もっといい未来を掴みたい」とか、そういう思いが出てきた。で、「理人さん、それを手伝ってください」という状態まで行った。
ものすごく理人を信頼しているから、そう言えるようになったんですよね。
長いこと描かせていただけたので、そこまでメイが成長していく流れを描くことができてよかったなと思います。

『メイちゃんの執事』20巻より。ある国で、平和な「革命」を起こすという壮大な「夢物語」の実現を掲げ、理人に「ついてきてください」と告げるメイ
話の構造としては、理人という絶対に手が届かないであろう憧れの人……ちなみに理人はドイツ語で「光」という意味なんですが、この理人という光に、メイと剣人(理人の弟)が頑張って追いつこうとする、というふうになっているんですよ。
這い上がって、這い上がって、気がついたら光を超えている……その段階にいくまでを描きたいと思いました。理人も、いつの間にか追い抜かれていたことに驚くんだけど、それが彼にとっても最高の喜びなんですよね。
「メイたちお嬢様ならどうする?」と考えた
——先ほどおっしゃったように、メイが目を向けるものもどんどん広く、大きくなっていきますね。
そうでないと、(かつて理人が仕えていた)詩織ちゃんと同じことになっちゃうんですよ。彼女はずっと理人のことを思って、理人のためなら何でもすると考えている。ある意味、純粋に理人を愛してはいたんだけれど、彼女に見える世界はそこまで、なんです。
だから理人は、こんなふうに自分のことを愛するだけのお嬢様はいらない、と思ってしまった。それを超えたところに何か目指すものがあるお嬢様なら、喜んでついていく、ということですね。
——『メイちゃんの執事DX』最終回の1つ前の回では、メイたちが聖ルチア学園を卒業したあとに、世界規模の「災い」か「争い」があったことが示唆され、メイが地元に作り上げた「“完全自給自足型”の町」が機能していることが友人・みるくの口から語られます。
17年間続いてきた少女漫画『メイちゃんの執事』で今、現実の困難とリンクする描写がされたことにぐっときました。

「まさか日本が 世界が こんなことになっちゃうなんて…」と落ち込むアカリ(メイの友人の1人)に、みるくが力強く語りかける
東日本大震災のときに、めちゃくちゃへこんだんです。人間が生きていくうえでは、漫画家である私は何の役にも立てていないんだ、無力なんだ、と。
そう思いながら、被災地への「応援色紙」を描いていたんですが、「執事というものを従えたメイたちお嬢様なら、こんなときどうするかな?」と思ったんですよ。そこからいろいろなことをずっと考えてきて……話していると涙が出てしまいますね。それでこうして、物語の最後にちょっとだけ入れさせてもらいました。
——みるくが、まさにその「どうするか」を「こういう時こそ矢面に立ち 知恵と勇気と『ごきげんよう』で華麗に乗り切る それが真のお嬢様力」だと端的に言い表していましたね。この回を読めてよかった、と思いました。
そう言っていただけて、よかったです。
ずっと手伝ってくれていた友だちは、この回のネームを見て「読者はこの作品にこういうものは求めていないと思う」と言っていましたね(笑)。私も当初は、メイの高校の卒業式を描いたら、ちょっとエピソードを付け足して終わろうと思っていたんですけれど。
——でも今までのメイたちを見ていると、この回で描かれていることがとても腑に落ちます。端々に希望も感じられて、きっと多くの読者に響いたと思います。
最終回に向けて入れるには、余分なものなんですよね。だけど、入れておきたかった。担当さんが「そんなのダメですよ」と言わずにネームを通してくれたおかげですね。
——(担当編集)でも、最初のネームは直していただいたんですよね(笑)。
——どんなふうに直したんですか?
——(担当編集)事前打ち合わせで、しっかり振り切って描くバージョンと、ちょっと表現を柔らかくしたバージョンを考えている、と宮城先生がおっしゃっていて。「柔らかくしたほうには、こういう旨味がある」という話を聞いて、そちらで描いていただいたんですよ。でも読んでみたらあまり伝わってこなかったので、やっぱり振り切ったほうで描きましょう、ということになりました。
振り切りましたね(笑)。
——17年間の連載中、読者の方からはどういった声が届いていましたか?
「メイちゃんと理人がラブラブなところが見たい」と言ってくださる方が圧倒的でした。なので、連載中はもっとそちらに寄せた描写を増やそうかな?と思ったこともありましたね。
ラストも、17年間付き合ってくれた読者さんが望むストーリーを描き上げるという道、読者さんにこの作品を差し上げるという道もあったと思うのですが…コロナで1年間ぐらい悶々と考える中で、結局自分が思ったとおりに描いて終わる道を選びました。
——(担当編集)なぜそちらの道を選んだんですか?
死ぬときに「やっぱり思った通り描いておけばよかったなー」って後悔するなと思ったんですよ(笑)。もうこんなに長い連載をやることもないと思うので。
『メイちゃんの執事DX』第1話を読む

文・インタビュー/門倉紫麻
『メイちゃんの執事DX』(集英社)
宮城 理子

2015年1月23日発売
440円(税込)
新書判/192ページ
978-4-08-845330-9
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「メイちゃんの執事」の続編がスタート!!
最高学年になった途端に、婿選び決闘やら逃避行やなんやらで、世界中を駆け回ってたメイが、やっと学園に帰ってきました!! やっといつもの生活に戻ったと思いきや、謎の新入生が登場したり、18歳になったメイに、理人さんが××××を××××したりと、前作以上にデラックスな学園生活が始まります!!