
コロナ禍を機に、飲食店をはじめ午前0時前にシャッターを降ろす店が増えた。そんな中、24時間営業にこだわっているのが東京都豊島区北大塚にある山下書店だ。
都内で唯一の24時間営業の書店!
かつて、東京では書店が午前零時を過ぎても営業している時代があった。たとえば、「青山ブックセンター 六本木店」を思い出す方も多いだろう。一般新刊書に加え、写真やアート、建築、デザイン、洋書とジャンルと品揃えが豊富で、午前5時まで営業していたこともあって、終電を逃した若者をはじめ、深夜に資料が必要になったビジネスマンや、編集者といったマスコミ関係者などが足を運んだ。(2018年に閉店)
実は、そんな時代を彷彿とさせる、なんと24時間営業の書店が唯一、都内に存在する。「山下書店・大塚店」だ。JR大塚駅から徒歩1分。店頭に雑誌がズラーっと並ぶ光景が圧巻だ。

オープンは2000年(平成12年)だが、もともと渋谷店(現在、閉店)で24時間営業が成功し、2匹目のどじょうならぬ、2店舗目の繁盛を狙い、大塚に出店したのだ。
大塚といえば、古くは花街として栄え、庶民的な飲み屋が連なる繁華街。そんな山下書店・大塚店を取り仕切るのは、出沖慶太(いずおき・けいた)店長だ。
大学卒業後、同店に入社。以後渋谷店を皮切りに、都内の数店舗で働き、2016年から大塚店へ。現在アルバイトを含め、15名でシフトを組んで24時間体制の店を切り盛りしている。

山下書店・大塚店の出沖慶太店長
売れ筋は趣味の本!
山下書店の客層は男性7割、女性3割。男性は中高年が多く、売れ筋はお酒やグルメ、散歩といった趣味の本。女性は20~30代が多く、漫画やファッション雑誌を買っていく。お客さんたちみな大塚への愛に溢れているのも特徴で、近所の行列のできる有名おにぎり店「おにぎり ぼんご」の女将さんの著書も売れているという。

人気ジャンルは特設コーナーに!
最近はコロナが落ち着いたこともあり、外国人観光客も多く訪れ、本以外では文具も売れ行き好調だ。「彼らは、自国にはない、デザイン性に優れ、機能的な日本の文房具を求めて来店します。中には1万円分も購入する文具ファンもいますね」(前出・出沖店長)。

「おにぎり ぼんご」コーナー
日本最速で欲しい本が手に入る!
では深夜にはどんなお客さんが来るのだろうか?
「深夜になると男性はパジャマ、女性はスウェットといった軽装で来店する地元の若いお客さんもいますね」(前出・出沖店長)。人数的には2桁台で、土日よりも平日が多いそうだ。
また店舗が入るビルの上階がホテルということもあって、そこの宿泊客が訪れることも多い。書店から出てくる若い男性に聞いてみると、出張中のサラリーマンで「ビジネス書を買いました。ホテルですることもないで…」とのこと。
実際、ビジネス書を求めてやって来るビジネスマンは多いそうで、深夜の書店には、真面目な人が集まるのだ。
「24時間営業なので、午前0時には新刊を店頭に並べることができます。
ネットで注文するよりも早く欲しい本が手に入るとあれば、ファンはどこからともなく駆けつける。

漫画コーナーも広い
日本一酔っぱらいがやってくる書店!?
少しクセのあるお客さんが現れるのも、24時間営業ならでは。
「1~2年に1回は警察のお世話になることがあります。繁華街で一杯ひっかけて来店してくださるお客さんもいるんですが、かなり酔っていて他のお客さんとトラブルに発展してしまうことがあるんです」(前出・出沖店長)。
その一方で、同じ酔っ払いでも、家族へのお土産なのか、ぬいぐるみを買っていく方も少なくない。

ぬいぐるみコーナーも
ところで、普通の書店の倍以上かかるという営業経費は、どういった工夫で乗り切っているのだろうか?
設備面では蛍光灯のLED化は当たり前で、それを通り越して、店内の蛍光灯を部分的に間引いているという。さらに人員面でも工夫がある。
「通常の書店なら閉店後にする作業を、昼間からどんどんすることで作業を夜中に持ち込ませないようにしています。
24時間営業を維持していくのは、小さな努力の積み重ねが欠かせないのだ。
若者の本離れが進み、ネットで本が購入できるこの時代、24時間営業にこだわる山下書店の試みは、本の価値を改めて確認させ、私たちに書店に行きたいと思わせる。

取材・文/集英社オンライン編集部
山下書店
株式会社スーパーブックスによる運営で、大塚、羽田、世田谷、半蔵門、南行徳の5店舗を展開。正月三が日は時間を短縮するが、基本24時間営業。世田谷店では午後7時から翌朝の10時まで無人営業の実証実験を行っている。