3位イクラ、2位いか、1位は? 止まらない生鮮魚介の価格高騰。背景には環境問題も

物価高がいわれて久しいが、スーパーに行けば、入口付近でまず最初に目に飛び込んでくるのが、生鮮食品の値上がりだ。生鮮食品は過去10年間では約31%の価格上昇、コロナ禍前の3年前と比較しても約11%上昇している。

なぜこんなことになっているのか? 元日銀で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の『インフレ課税と闘う!』より一部を抜粋、編集してお届けする。

生鮮食品は10年で約31%の価格高騰

生活者が「財布のひも」に最も敏感になるのは、暮らしに直結した食料品価格が上がるときである。物価安定は、「空気と水」、そして「平和」と同じように、それが存在するのが当たり前で普段は特に気に留めていなくても、一旦、それがなくなると極めて大きな苦痛を感じる。生活必需品は、節約できない消費支出であり、その価格高騰は逃げるに逃げられないからだ。

隠れた値上がり品目に、生鮮食品がある。スーパーに行けば、その入口でまず最初に目に飛び込んでくるのが、生鮮食品である。生鮮食品の価格高騰は、過去10年間では約31%の価格上昇、コロナ前の3年前と比較しても約11%上昇している。


3位イクラ、2位いか、1位は? 止まらない生鮮魚介の価格高騰。背景には環境問題も

ところが、経済の専門家と呼ばれる人たちは、この生鮮食品を除外して考えることが多い。日銀の物価目標も、「消費者物価(除く生鮮食品)」の前年比である。その理由は、季節的変動が大きいからというものだ。物価の基調を読み取るとき、攪乱要因になる生鮮食品は除外した方がよいという発想になる。

しかし、生鮮食品は生活者が物価高騰を実感する代表的品目のはずだ。消費支出の中でも、6・3%のウエイトを占める(食料品の消費に占めるウエイトは26・6%、2022年「家計調査」)。

除外して考えると、物価の趨勢を見誤ることもある。

生鮮食品の価格基調は、2014年頃から上昇トレンドにある。長い目で捉えると、生鮮食品もまた世界市場の影響を受けて上昇している。趨勢としての物価を捉えるときは、生鮮食品を含めた総合指数でも見る必要がある。

生鮮食品は、①生鮮魚介、②生鮮果物、③生鮮肉、④生鮮野菜の四つから構成される。過去10年間の価格変化を見て、一番大きく上がっているのは、生鮮魚介である。
2012年から2022年までの10年間で、1・5倍(149・2%)も価格が上がっている。生鮮果実は37%、生鮮肉は32%とかなり上がっている。

今や「絶滅危惧種」に近いさんま

次に、生鮮魚介で値上がりが目立つ品目が何かを見ていこう(図表1-2-2)。同じく過去10年間の物価変動を、総務省「消費者物価」を使ってみたものである。1位は、さんま(上昇率135・6%)である。秋の味覚のさんまは、4年連続で不漁である。世界的にも不漁なことから、もはや入手困難な魚になった。

絶滅危惧種ではないが、それに近い。

3位イクラ、2位いか、1位は? 止まらない生鮮魚介の価格高騰。背景には環境問題も

北海道東部から三陸沖の漁場で、海水温の上昇のためにさんまがいなくなったと言われる。地球温暖化の影響がここにも現れている。このほかにも、公海上での、中国と台湾の大型漁船が乱獲しているという海外情勢が絡んでいる。

2位はいか(上昇率108・0%)、3位はいくら(同93・8%)、4位は塩さけ(同91・6%)、5位はさけ(同72・3%)、6位はししゃも(同70・0%)と続く。

逆に、あまり値上がりしていない種類を探すと、いわし(18・2%)とあじ(12・8%)が10年間で見て比較的安定している。

それでも10%以上は上がっている。

上昇ランキングの上位を詳しく見てみよう。2位のいかの値上がりは、さんまと同様に不漁が原因とされる。漁獲量は、2015年頃から2013年比で50~66%も減った。海水温が変化し、稚魚の生育環境が悪化したことも影響しているようだ。いか釣り船の燃料費も高騰している。


いくら、塩さけ、さけは、同じく不漁が原因だ。ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア上空を通って空輸されるノルウェー産サーモンが空路の変更を強いられ、輸出量が激減している。代わりに、カナダ、チリなど別の産地への需要が高まった。

こうした水産資源の減少は、地球環境の異変が大きく関係している。「不漁」という表現は、何か「今年はたまたま例年よりも獲れない」というニュアンスを与える。しかし、地球環境の異変が不可逆的なものであることを考えると、来年以降も漁獲量は不安定である可能性が高い。地球環境問題を甘く見てはいけない。

日本の事業者が「買い負ける」理由

6位のししゃもは、アイスランドやノルウェーといった北欧の漁場で禁漁をしたため、日本に輸入されなくなったことも大きい。水産資源の保護に動く国々は、保護を優先して日本への輸出を絞ってくる。日本でも一時は国内産のししゃもは絶滅危惧種に近いとされた。レッドリストには、クロマグロやニホンウナギ(天然ウナギ)が載っている。乱獲を慎むような動きが強まることになる。

3位イクラ、2位いか、1位は? 止まらない生鮮魚介の価格高騰。背景には環境問題も

10位のぶりは、約4割が養殖である。養殖のエサは魚粉、小麦粉、大豆油粕などの粉末をペレットにしたものだ。これらも価格上昇しているから、養殖魚介の生産コストも上がる。

水産資源の不足の問題には、中国などアジアの国々が、魚を多く買い付けるようになったことも、日本にとっては不都合だ。特に、中国は所得水準が高まり、日本の事業者が「買い負ける」ことも起きている。間接的に、「買い負け」が起こっているのは、日本から輸出される水産物についての事情もある。

例えばほたて貝は、日本から海外に輸出されて成功している水産品の一つだ。日本産のほたて貝は身が厚くて人気がある。海外の顧客が高く買ってくれることは、日本国内に供給するよりも、海外に輸出する方が有利という環境を作る。世界市場が巨大に膨張するほどに、相対的に日本市場が小さくなっていることが、日本が「買い負け」する原因となっている。

文/熊野英生 写真/shutterstock

インフレ課税と闘う!

熊野 英生

3位イクラ、2位いか、1位は? 止まらない生鮮魚介の価格高騰。背景には環境問題も

2023年5月26日発売

1,980円(税込)

四六判/344ページ

ISBN:

978-4-08-786138-9

もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!