「こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞ」日本映画は政治かクリエイティブか…世界観を堅持してツッパった結果、失ったものとは…《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 前編》

おもねらない姿勢で作品を作り続ける二人のクリエイター。映画監督の奥田庸介とラッパーの呂布カルマ。

映画『青春墓場』で共演した二人が対談した。(前後編の前編)

『クズとブスとゲス』が決め手となった出演

――最新作『青春墓場』について、奥田庸介監督と出演した呂布カルマさんに話を聞きたいと思います。

「こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞ」日本映画は政治かクリエイティブか…世界観を堅持してツッパった結果、失ったものとは…《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 前編》

ラッパー・呂布カルマ(左)と映画監督・奥田庸介(右)

奥田 上映終わったのに取材って(笑)。

呂布 でも、下北沢で9月1日(金)から再上映やるんですね。名古屋はやらないんですか?

奥田 やりますよ。シネマスコーレで10月からやる予定です。ってか、こんな単館のインディーズ映画の取材とかしていていいんですか。

PVとれないですよ(笑)。

――PVがほしかったら、BreakingDownの動画見て「誰が誰に啖呵切ってました」とか、シコシコこたつ記事書いてれば、とれるんじゃないですか。別にシコりたくないんで、自分は自分の心が動いたものを取材して書きたいと思います。

奥田
わかりました。

――奥田監督は最新作『青春墓場』で、どうして呂布さんをキャスティングされたんですか?

奥田
ラッパーのダースレイダーさんが「呂布くんが(奥田監督の映画)『クズとブスとゲス』を面白いって言ってたよ」と教えてくれたのがきっかけです。もともと日本語ラップが好きで、呂布さんの音源も聞いていました。
今作で後輩をいじめる漫画家役がなかなか決まらなくて、呂布さんが昔、漫画家志望だったことは知っていたのでダメ元で声をかけてみたら、引き受けていただけました。

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漫画家役で出演した呂布カルマ ©2023映画「青春墓場」

――呂布さんはどうして出演を決めたんですか

呂布
日々いろんなオファーがくるんですけど、『クズとブスとゲス』を観てたんで「あ! 奥田監督だ! マジか!」って思って。ほとんど芝居の経験がなかったんでチャレンジだなと思って受けました。

「こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞ」日本映画は政治かクリエイティブか…世界観を堅持してツッパった結果、失ったものとは…《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 前編》

映画『クズとブスとゲス』 Amazon Primeなどで配信中 ©2015映画蛮族

――『クズとブスとゲス』、面白いですよね。

呂布
面白いですね。いや本当に。

主人公がすごいクズで、しかも監督が演じられている主人公が友達にめっちゃ似ているんですよ。

奥田 BASE【1】さんですよね。

【1】呂布カルマが主宰する「JET CITY PEOPLE」に所属するラッパー。

呂布 はい。僕の友達のB-BOYにすごく似てて、BASEみたいだなぁって思いながら見てたのもあって。

――実際、BASEさんが主人公と共通しているところはありますか?

呂布
あそこまでじゃないですけど、けっこうクズなので、クズっていうかB-BOYなので。
だいぶ共通してる部分もありますね。本人にも薦めました、お前にめっちゃ似てるよっつって。

商業映画デビューが決定した24歳

――奥田監督は24歳で商業映画デビューが決まったんですよね。

奥田 『東京プレイボーイクラブ』という映画でデビューしています。当時、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のグランプリ作品を最年少の23歳で受賞していたんです。それで、スカラシップ【2】で映画を撮ることになったんですが、いろいろあってスカラシップがなしになって。そんな時に、ゆうばりでグランプリになった自主映画を観た某制作会社の社長さんが「じゃあうちでやってみるか!」ってことで、商業一発目が決まったんです。

それが24歳。

【2】1984年よりスタートした長編映画製作援助システム

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――映画監督としては相当若いですよね

奥田
そうですね。若かったですけど、例えばオーソン・ウェルズみたいに25歳であんな傑作(『市民ケーン』)を撮ったり、ポール・トーマス・アンダーソンみたいに26歳で『ハードエイト』を撮ったり、結果が伴っていればいいんですけど。その作品を観た人がどう思うかは別として、自分としてはやっぱり「監督」といえる仕事はできなかったなってずっと後悔しています。

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映画『クズとブスとゲス』 ©2015映画蛮族

――デビューしてから『クズとブスとゲス』を撮るまで何年くらいありましたか?

奥田
それからは3、4年ありました。その間にケータイ小説が原作の恋愛映画のオファーをいただいたりしたんですが、とにかく生意気だったんで、その場で断ったりしていました。

「いやムリ! オレ、硬派だから」みたいな、今思うとすごい感じ悪いヤツでした。そんなだから、仕事が全然来なくなっちゃったんですよ。

それで自暴自棄になって「人生の早送りダー」って言って睡眠薬を飲むようになったんです。睡眠薬を飲むと時間が経つのが早くて1週間が1日ぐらいの感じになって。ずっと微睡(まどろ)んでる状態なんです。「オレはもうこのままダメなんじゃないかな」って思ってたけど、どうせ人間としてダメになっちゃうんだったら、映画でおかしくなりたいなと思って、『クズとブスとゲス』を撮りました。

呂布 そうだったんですね。奥田監督は俳優としても映画に出られていて、僕は役者としての奥田監督も好きなんですよね。『クズとブスとゲス』でも、本当に破滅的な主人公で。その破滅具合がどんどん加速していって、最後の方なんか燃え尽きる直前の話みたいな感じがいっぱいあって、見事な破滅映画でしたね。

日本映画は政治かクリエイティブか……

――奥田監督の撮る映画って男くさいですよね。今、映画業界ってそういう映画がどんどん少なくなっているように思います。

奥田
もともと邦画って左寄りなところがあって、偏ってるんですよ。その傾向が一層激化しているような気がしています。だから、明らかに完成度としては絶対獲れるはずなんてない作品でも日本アカデミー賞に選ばれちゃったりすることもあるんですよね。

呂布 自分も日本アカデミー賞を獲る映画って苦手なやつが多いですね。監督が悪いのか、脚本が悪いのかわかんないですけど……。

奥田 両方じゃないですか。政治なんですよ、映画って。だから、邦画はクリエイティブより政治色が強いんです。海外だと「才能があるから」ってポンと予算付けるみたいな例はまだあるかもだけど、日本ではあんまり聞かないですね。

「こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞ」日本映画は政治かクリエイティブか…世界観を堅持してツッパった結果、失ったものとは…《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 前編》

堀内暁子 ©2023映画「青春墓場」

――そんな中で本当に自分が面白いと思うものを撮ろうとしたら、どうしていくのがいいでしょうか?

奥田
もうヤケクソになるしかないですよね。私みたいに社会に馴染めず、自分の世界観を堅持していることに固執したがために、映画業界でしか生きられなかった人間が、今更その邦画っていう社会で、長いものに巻かれようとしてもムリなんで。
最近の若い監督ってみんな優秀だし、優等生なんですよ。でも別に彼らは作家とは呼べないと思っています。私は作家だから、できないものはできない。それでも映画を撮る機会に恵まれたら、自分は「これで最後だな」と思って撮っています。

呂布 脚本を書くのと、監督をするのと、役者をするのと、それぞれ全然別の作業じゃないですか。監督は全部されてますけど、本当にやりたいのはどれなんですか?

奥田 これはわかんないんですね。最初が1本数万円レベルの自主映画からスタートして、それが原体験になっていて、全部自分でやるスタイルが染みついちゃってるんで。ただ、俳優としてはもう本当に『クズとブスとゲス』を撮った後、EDになっちゃって…。

呂布 なんで?

奥田 いや、わかんない。大量に精神安定剤も飲んでたし、危険な飲み合わせも気にせず飲んでたんすよ。そしたら3か月ぐらい勃たなくなって。やっぱり、監督をやって脚本も書いてってなると、その世界観を誰よりもわかってるから普通の俳優より深い部分まで考えて、演じなきゃいけないわけですよ。だから精神的にすごいダメージがあって。

呂布 なるほど

奥田 やっぱ勃っていたいじゃないですか。

呂布 まぁそうっすね。

脱ぎたがる男、脱ぎたがらない女

――奥田監督の映画は暴力やドラッグやセックスも描いていますけど、実は女性の性描写はめちゃめちゃ優しいですよね

「こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞ」日本映画は政治かクリエイティブか…世界観を堅持してツッパった結果、失ったものとは…《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 前編》

©2023映画「青春墓場」

奥田 例えば、私は「チ●コ出せ!」って言われたら出せますけど、やっぱり女の人が裸になるのってすごい負担じゃないですか。なので、どうしても必要だったら、それは本人の同意を得て脱いでもらいます。でも、別に必要ないんだったら、全然脱ぐ必要はないと思っています。

呂布 僕は女の人が脱ぎたがらない理由を理解できないんですよね。男ってすぐ出せるけど、男が出して歓迎されることってないじゃないですか。だけど、女の人がオッパイ出したらみんな歓迎する。誰も嫌な思いをしないのに、頑なに出そうとしない。あの捻れは何なんすかね。本来、逆だろうと思うんですけど。

奥田 やっぱり出すと、価値が下がっていくからじゃないですか。実際、女優さんって人気がなくなってくると脱ぎがちっていうとこもあると思います。女優を志すのであれば、それは作品によっては脱がざるを得ないときは、覚悟しておいてほしいですけど。

呂布 グラドルとかAV女優が、俳優業に転身していって、いろいろ言ってたのに、結局しょうもない映画のただの脱ぎ要員とかで使われたりするのを見ると、泣きたくなります。今までの水着は何だったんだって。だったら「脱がないで!」と思うし、安い脱がされ方する場合もあるわけですよ。

奥田 こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞって思うときはありますよ。自分はもう自分の筋みたいなものを堅持してないと自分がダメになっちゃうから、それだけは守ろうと思って生きてますけど。周りの大人を見ていると、別にそうではないんだなって思うこともあります。

「こんなんで女優を脱がせんじゃねぇぞ」日本映画は政治かクリエイティブか…世界観を堅持してツッパった結果、失ったものとは…《ラッパー・呂布カルマ×映画監督・奥田庸介 前編》

――呂布さんはラッパーとして一本筋を通しているけど、大衆へのアジャスト力もすごいなと思います。

呂布
僕はそれこそ奥田監督じゃないですけど、自分の筋みたいなものはあります。そこを他人から口出しされたくないんで、なるべく他人にも口出しをしないようにしています。変なヤツいるなと思ったら、その変な部分が何で変なのか知りたいし、あんまり否定はしないですね。自分のルールって、自分でしかわからないから。人の変だなと思うところはそういう生き物なんだと思って、話を聞くようにしています。

奥田 映画を作っていると、それを矯正されることがあるんですよね。「出資してるし、お前の筋なんか通させないよ」みたいな。そこの戦いなんですよ。

呂布 自費でやれないのは大変ですね。

奥田 だからずっとなんでオレは映画を選んだんだろうって今でも考えます。音楽でもなく、小説でも絵画でもなく。

《後編》へつづく

取材・文/荒川イギータ 撮影/高木陽春