
高速ピストン、振動マシン、皮オナ、足ピンなど……刺激の強い自慰行為は時に勃起不全や膣内射精障害を引き起こすこともある。なかでも「床オナ」は、他の自慰行為とは一線を画す不適切な方法で、専門家や医者も警鐘を鳴らしている。
最も危険!? 不適切なオナニーのひとつ「床オナ」
「床オナ」とは、畳や布団などの固いものや、枕や毛布などの柔らかいものに陰茎をこすりつけて刺激するオナニーの1種。「TENGAヘルスケア」が2017年に行った「オナニー国勢調査」では、日本人男性の約6.35%の人が床オナを経験しており、10代での実施率は約11.5%と、若年層に多い傾向があることが判明した。
床オナを始めてしまう要因としては、子供のころに布団やベッドのなかで陰茎をこすりつけて快感を覚え、習慣になってしまうことがほとんどだという。その背景には日本の1世帯当たりの住居の間取りの「狭さ」が影響している場合もあり、相談者のなかには、家で1人になれる空間がなく、布団の中で“モゾモゾ”しているうちに床オナを覚えてしまったという人もいると、TENGAヘルスケアの赤木さんはいう。
「相談者に『どうして床オナをはじめたのですか?』と聞くと、保育園や幼稚園のころに、何となくカーペットに陰茎を擦りつけたら気持ちよくてクセになってしまった、といった人がとても多いですね。
その方法を小学生ぐらいまで続けていると、ある日突然射精し、強烈な快感が癖になってしまうようです。小さい頃から無意識のままやっていて、気づいたら大人になってもやめられなくなっていますね」
幼少期にその快感に目覚めることの多いという床オナ。この方法が不適切な自慰方法のひとつとされる理由は、手やオナホールといった他のオナニーとは異なって、強烈な圧力で陰茎を刺激するため、完全に勃起をしない、不完全勃起の状態で射精に至ってしまうことだ。
「相談者のなかには『床オナを20~30年やっていました』という人もいます。しかし、それほど長期間で床オナを続けていると半勃起状態の射精が習慣化してしまい、完全な勃起ができなくなってしまうのです。たとえ一瞬は勃起できたとしてもすぐ萎えてしまって維持できなくなります。圧迫してしまうことで海綿体に血流が集まらなくなり、それが常態化して勃起能力を失ってしまいます」
若ければ若いほど、トレーニングの効果が現れやすい
そして、勃起不全の他に床オナの危険性として挙げられるのが「膣内射精障害」だ。
床オナは前述の通り、床と体に陰茎を挟んで強烈な刺激を与える、実際のセックスとは大きくかけ離れた方法だ。
「不完全な勃起状態での射精を行っていると性行為での快感を得ることが難しくなり、その結果、膣内射精障害に陥ってしまいます。私の元にも床オナが原因で『彼女とセックスができませんでした』といったお悩みがたくさん寄せられます。
また、妊活中の新婚さんから『床オナが原因で射精ができません』と相談を受けることもあります。結婚や子作りの機会にめぐりあうことの多い20~30代の世代にとって、床オナによる機会損失は非常に大きな課題です」
セックスができなくなることで、パートナーとの関係性が壊れてしまったり、不妊の危険性を孕む床オナ。では、実際に悩んでいる人にとってはどのような解決方法があるのだろうか。
赤木さんによると「「半勃起状態で床オナをしている方は、射精のタイミングで勃起させて手オナに切り替える、または勃起させて最初からトレーニングカップを使用する」ことが一番の解決策だという。
「半勃起状態でも勃起状態でもとにかく射精直前に手で刺激することを繰り返していくと治りやすいですね。最初は違和感やくすぐったい感じがして難しいかもしれませんが、それでも続けていくと2週間~2か月後には徐々に改善していきます。大切なのは焦らないこと、そして途中でやめないことです」
年齢が重なれば重なるほどに加齢によるEDなどの症状と被ってしまうため、若ければ若いほど、トレーニングの効果が現れやすいと赤木さんは話す。勃起不全や膣内射精障害の原因がプレッシャーや緊張といった心理的なものなのか、それとも床オナをはじめとした間違ったオナニーが原因なのかをカウンセリングなどで判断したうえで、早期のトレーニング、改善を始めることが大切だ。
親が子供のオナニーを見たときの対応は?
床オナの悩みに直面するのは当事者だけでなく、子供を持つ親であることもある。
床オナは幼少期から無意識に行ってしまうことが多いため、親にとって子供の行動が悩みの種になるかもしれない。そのような状況に直面した際に、赤木さんは「怒らずに優しく教えてあげること」が大事だと話す。
「家庭では、子供がうつぶせになってモゾモゾ動いているところを見かけたら『おちんちんかゆいの?』と聞いてあげて、『おちんちんは将来子供を産むために大切なところだから、何かに押しつけたりするのはよくないよ』としっかりと伝えるのがいいと思います」
「また、5歳以上の子供であれば、オナニーのマナーも教えられるとよいです。頭ごなしに怒鳴ったり、一概にそれはよくないと言ったり、ペニスが汚い場所だと伝えたりするのはやめましょう。オナニーは誰にも見ていないところですること、強い刺激を与えないように手で優しく触ること、の2点を教えてあげてください」
しかし、まだまだ子供たちに向けた性教育の知識は広がっておらず、このようなオナニーのことを適切に教えられる親も少ないのが現状だ。また、子供たちにとってもオナニーそのものについて学ぶ場所や機会がなく、知らず識らずのうちに間違った方法を覚えてしまうことも少なくないのだとか。そのまま大人になって誰にも相談できず、自身のオナニーを「正しい」と信じ込んでいる例も少なくない。
「適切なオナニーとはペニスを手で上下に動かすものだという認識がないと、不適切な方法で覚えて続けてしまう可能性があります。その結果、床にこすりつけたり、強く握りすぎたり、高速でストロークしたり、足をピンと張ってしまったりと、さまざまな刺激の強すぎるオナニーが氾濫してしまいます。
ですが、周りの大人、特に同性である父親が適切な知識を持って、子供のオナニーに気づいて見直してあげられれば、将来的な勃起不全や膣内射精障害などの問題を防ぐことができると思います」
「これからも不適切なオナニーの危険性とともに、遅漏・膣内射精障害はトレーニングで改善できることを発信していきたい」と話す赤木さん。
男性の不適切なオナニーを改善することで、日本の少子化や男性の草食化に少しでも歯止めをかけられるかもしれない。今後のTENGAヘルスケアの啓発活動に期待したい。
取材・文/越前与