【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

回転寿司チェーンの勢力図に変化が生じている。長らくトップを独走していた「スシロー」は昨年、おとり広告に該当する景品表示法違反による措置命令後に失速が鮮明となった。

業界2位の「くら寿司」も値上げにより、100円ずしが消滅してからは既存店の客数が落ち込んだという。こうした各チェーンが苦戦する中で好調なのが、「かっぱ寿司」だ。

わずかな値上げが集客に直結する繊細な回転寿司業界

経営合理化を進めたカッパ・クリエイトが運営するかっぱ寿司は、かつては消費者の間で「安かろう悪かろう」の評価が定着し、客数の減少に苦しめられた。だが、長い年月を経てようやく今、復活の道を歩み始めている。

FOOD&LIFE COMPANIESが運営するスシローの2022年10月~2023年6月の売上高は、前年同期間比3.3%増の2189億円、営業利益は同29.2%減の72億円で、増収減益だった。

【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

株式会社FOOD&LIFE COMPANIESが運営する「スシロー」

同社は2023年9月期通期の売上高を3200億円と予想しているが、3Q時点での売上進捗率は68.4%。昨年は87.9%だったことを考えると、今期は苦しい戦いを強いられている。



同様にくら寿司も冴えない。2022年11月~2023年7月の売上高は前年同期間比15.1%増の1550億円。二桁増収となったものの、いまだ4億円近い営業損失を計上している。前年同期間もほぼ同額の営業赤字を出していた。

一方、かっぱ寿司は、2023年4月~6月の売上高が175億円、1億円の営業利益を出した。前年同期間は3億円の営業赤字だったことを考えると大躍進である。


同社は2024年3月期通期の売上高を742億円と予想している。前年同期間の売上予想に対する進捗率は22.5%。今期は23.6%だと、好スタートを切っている。

3社の集客状況は、下図の「既存店客数の推移」を見るとさらにわかりやすい。なお、既存店とは新規出店から一定の期間が経過した店舗を指し、新規出店分の客数が加味されないため、過去や他社との客数の比較をしやすいという特性がある。

【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

主要回転寿司チェーンの既存店客数の推移(※各社月次報告書より 筆者作成)

スシローは2022年6月に消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けた。

それ以降、既存店の客数は前年同月比で100%を下回るようになる。2022年11月、12月は80%を割り込んだ。

くら寿司は2022年10月1日から新価格帯を導入した。この価格改定によって100円寿司(税込110円)が消滅した。皿によっては5円程度のわずかな値上げだったが、回転寿司業界にとって、その影響は深刻だ。値上げ前6か月の平均客数は前年同期間比109.9%、値上げ後の平均は96.8%で昨対割れを起こしている。


一方で快走しているのが、かっぱ寿司だ。特に2022年11月以降が好調で、消費者の信頼が揺らいだスシローや、値上げを断行したくら寿司が取りこぼした層の受け皿になったように見える。

かっぱ寿司の原価率は3社の中で最高水準

かっぱ寿司はまぐろや真鯛、サーモン、いかなどの定番商品の一部で税込110円の価格を維持している。スシローは最も安い皿が120円。かっぱ寿司は価格競合の中で低価格路線を維持しているのだ。

かっぱ寿司は90年代に大型店の出店を開始し、100円均一を前面に押し出して業界トップの座に君臨していた。しかし、競合する各チェーンも同価格帯で大型店を出店するようになると、差別化を図ることが困難になった。



やがて、スシローやくら寿司は素材や味で勝負を仕掛けるようになる。価格競争が行きつくところまで到達し、素材への回帰が起こったのだ。しかし、かっぱ寿司は1皿90円のキャンペーンを打ち出すなど、低価格勝負からの脱却を図ることができなかった。その結果、消費者からは「安いが美味しくない」という評価が定着してしまう。

【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

株式会社カッパ・クリエイトが運営する「かっぱ寿司」 写真/アフロ

市場調査を行うインターワイヤードが2011年に実施した「『回転ずし』に関するアンケート」によると、スシローを美味しいと感じる人の割合は18.1%、くら寿司は11.0%、かっぱ寿司は7.1%だった。この数字が示すとおり、当時の消費者の評価は著しく低かった。



経営不振に陥ったカッパ・クリエイトは、2014年10月に「牛角」などを運営するコロワイドが公開買付を実施して、その傘下に収めた。かっぱ寿司は2017年6月にロゴデザインを現在のデザインに刷新。リブランドを行った。このとき、提供時間の短縮を目的としたオペレーション改善、メニューの再開発、テレビCMを一新してブランドイメージの育成を図るなど、大改革を行った。

そのなかでも、「質への回帰」は特筆すべきだろう。2016年の原価率は44.3%だったが、2022年には48.6%まで上がっている。

【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

主要回転寿司チェーンの原価率の変化(※各社決算短信、有価証券報告書より筆者作成)

競合2社と比較しても、現在では3社の中で最も原価率が高くなった。

前代未聞の「全皿半額キャンペーン」がターニングポイント

ただし、かっぱ寿司の原価率の改善は、2017年以前から始まっていたことも事実だ。

それでもしばらく集客に苦戦していたのは、消費者の間で「安かろう悪かろう」のイメージが根づいてしまったためだろう。

かっぱ寿司は食べ放題の導入、一貫50円から注文できる「ちょい食べ」、希少な高級魚クエや、大トロにキャビア、ウニをトッピングした贅沢寿司を提供するなど、粘り強く集客施策を繰り出していた。

しかし、決定打に欠けていた。そんな潮目を大きく変えたのが、2021年9月26日にたった一度だけ行った前代未聞の全皿半額キャンペーンだ。

待ち時間が10時間を超える店舗が出るなど、各店には大行列ができた。当時のかっぱ寿司のプレスリリースには、「本当においしくなった、と言えるからこそ、どうしても食べてもらいたい」と書かれている。

【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

広告費削減のために手書きされた告知

これは消費者に対する本音だろう。一度食べてもらえれば、これまでの評価が払拭できる自信があったのだ。一見するとやぶれかぶれにも見えるキャンペーンだが、既存店の客数では2022年に入ってスシローとくら寿司を上回るようになった。

しかし、カッパ・クリエイトに死角がないわけではない。昨年、代表取締役だった田邊公己氏が不正競争防止法違反で逮捕され、辞任した。今後の経営は「ステーキ宮」などを運営するアトムの社長だった新社長の山角豪氏の手腕に託される。

【「かっぱ寿司」の逆襲】低迷していた寿司チェーンが王者「スシロー」「くら寿司」を射程圏内に…転機は前代未聞の「全皿半額キャンペーン」

「くら寿司」は2030年までに海外店舗を約4倍の400店への拡大を掲げている 写真は台湾桃園市の店舗

また、現在もかっぱ寿司は低価格路線を維持しているため、人件費や原材料高の影響を抑える必要がある。自動化やデジタル化によるさらなるオペレーション改善も必要だ。

業績回復が鮮明になったさなかでの逮捕劇を乗り越えて、新社長のもと、利益率を高めるという次のステップに移行できるかどうかの分水嶺にいる。

取材・文/不破聡