定価500万円が2000万円に!? 高額古着転売の“今”と古着売買の伝統「せどり」とは?

メルカリやヤフオクなどでCtoCの取引が一般化されて以来、転売業者が増えている。実際に副業や趣味の延長から始めて本業になってしまった人も多く、年商で億を超えるほど稼いでいる転売ヤーもいるという。

本記事では転売の現状と、店舗数が増え続け、盛り上がりを見せる古着文化を、ファッション業界の事情に詳しい実業家・作家であるMBさんが解説する。

定価500万円が2000万円に!? 高額転売の今

転売と聞くと、スニーカー、時計などのファッションアイテムを想像される人が多いのではないかなと思います。

これらは王道であり、過去から現在まで転売市場の定番となっています。転売には専門的な知識がそこそこ必要ですが、情報をまとめているサイトも多く、メルカリで売れ行きを1か月もかけてチェックすれば、ある程度流れはつかめます。

ただし、ファッション好きというのは「皆と同じ」を嫌がるもの。定番のアイテムとして市場に浸透した時点で興味を失います。彼らは人との差を求め、徐々に古着に傾倒するようになったのです。

「〇百万円のヴィンテージデニムを購入した」といったYouTubeなどの動画も増えていますよね。

基本的に一点ものである古着は他人と被ることが少ない。そうした服好きたちが牽引して、ここ数年で古着市場が拡大していきました。

市場規模が上がるとともに、「古着の転売市場」も膨らみ始めたのが昨今。結果、希少価値の高いヴィンテージデニムやアンティーク時計、デッドストックの年代物スニーカーなどはさらに高騰することになったのです。投機目的で全く興味がないのに所有する人も増えてきており、無駄に価格が上がってしまっています。


ちなみにパテックフィリップやロレックスなど、有名ブランドだと価格は爆上げ。パテックフィリップの人気モデル「ノーチラス(5712/1A-001)」などは古着(=中古品)でも、定価500万円だったものが2,000万円以上で取引されるなど、まさにバブルです。

定価500万円が2000万円に!? 高額古着転売の“今”と古着売買の伝統「せどり」とは?

希少生の高いアイテムの価値が相対的に高くなり、価格高騰しやすいムーブが続いているんですね。この傾向はしばらく続くでしょう。

アパレル業界の末端にいる者として「歴史的文化財に等しいものが投機目的のおもちゃになり下がる」のは納得いかないところもありますが、この流れは止められないでしょう。

実は古着の伝統である「せどり」

高額時計など専門的な知識やタネ銭(資金)が必要なものでなく、より簡単な方法で、転売を副業としている人もいます。大昔からある「ブックオフせどり」ですね。

10年以上前から存在する副業で、ブックオフと市場価格のズレを見つけて差益を得る方法です。

約10年前は「ビームせどり」と言って本のバーコードを読むと市場価格がわかる仕組みがあり、ブックオフで店員さんじゃない人がピッピッとバーコードを読み込んでる姿が見られました(店舗によっては禁止されていたところも)。

古着にはバーコードがないのでビームせどりはできませんが、同じように差益を得るため、はしごしてハードオフ(ブックオフの楽器・家電を専門的に扱う業態)やモードオフ(同・洋服を専門に扱う業態)を回る人がいます。ラグタグなどの専門店では値付けが適正なことが多いですが、モードオフなどの値付けは若干クセがあり、市場価格と乖離しているパターンがあるからです。

定価500万円が2000万円に!? 高額古着転売の“今”と古着売買の伝統「せどり」とは?

実際のところは、1店舗あたり数点は当たりがあるイメージでしょうか。現在のトレンドや売れ筋を理解している服好きであれば、安く値付けがされたアイテムを見つけることは容易です。



個人的な肌感ですが、グッチやプラダなどのハイブランド、もしくはアウトドアで人気のノースフェイスなどは当たりが多い印象です。ちなみにモードオフにもセールがあり、値引きされているときに買って、メルカリなどで転売すると、結構バカにならない差益が生み出せます。

この転売方法をなぜ説明したかというと、実は古着屋さんのバイヤーも同じようなことをしているからです。彼らがよく「アメリカに買い付けに行ってきた」なんて言うでしょ? アメリカで古着を買い付けて日本で売る、昔からある日本の古着流通の流れです。買い付けにはいくつかの方法があるのですが、一つはまさにこの「モードオフせどり」と全く同じ。

アメリカには、スリフトストアという「慈善団体が寄付によって集めたものを販売し、利益を活動にあてる」というリサイクルショップの元祖みたいなものがあります。
各州に存在するスリフトストアは規模も尋常じゃなく、アメリカ全土で10000店舗以上あるといわれています。

定価500万円が2000万円に!? 高額古着転売の“今”と古着売買の伝統「せどり」とは?

最大手とされているGoodwillだけでも3000店舗の展開があるそうです。いわゆるモードオフ的な内装で不用品である古着やアンティークがずらりと並びます。ここに日本からバイヤーが訪れ、ひたすら「当たり」を見つける。車を手配してひたすらスリフト巡りを行うのがアメリカ古着買い付けの一般的な手法です。

やってることは「モードオフせどり」と全く同じですね。

スリフトストアは専門業者じゃないと入ることができない、なんてこともありません。転売には是非がありますが、実は古着の買い付けってせどりなんですよね。

価格をいたずらに上げるような転売は好きになれませんが、こうしたせどりで古着市場が成り立っているのも事実。善悪の線引きが難しいところでもあるのです。

アジアではラルフローレンのシャツが100円で買える!?

また、あまり知られていませんが、実はアジアも古着買い付けのメッカです。

タイやマレーシアあたりに古着の買い付けに行く業者は多いのです。元々途上国への寄付で世界中から集まった古着が余って、格安で売ることになったことから買い付けが盛んになったとも言われています。

寄付品の中には前述したノースフェイスだったり、ハイブランドのアイテムも混ざっており、それらを目指して世界中のバイヤーや古着好きが集まります。ただし近年では取り扱う現地の人たちの目が肥えており、価値をしっかり理解しています。

そのため、以前と比べると少しずつ価格は上昇傾向にあります。筆者が通っていた業社向けの買い付け店では、ほんの数年前まではラルフローレンのシャツが数百円で売られていたりしていましたが(日本に持ち帰って販売すればおよそ5000~10000円ほど)、最近では「どうやらこのマークがついていると高くなるらしい」と認識しているようで1000~1500円ほどの値付けがされていました。

定価500万円が2000万円に!? 高額古着転売の“今”と古着売買の伝統「せどり」とは?

しかしながら古着のバブアーが2000円ほどで手に入ったり、バーバリーのコートが3000円なんてことも。これらはナイトマーケットなど一般の人が出入りする場所でも買えますし、業者向けに展開している古着倉庫も実は個人で購入が可能です。しかも1点から購入可能なところが多いので、多くのタネ銭を必要としません。旅行のついでに買い付けをしてくるなんてことも可能です。

ただし注意点が一つ。

買い付けたものをスーツケースに入れて持ち帰る悪質バイヤーが多いのですが、実はこれは関税逃れになってしまうので違法行為です。筆者は海外仕入れの際は正規のルートでシッピングをしていますが、関税やシッピングの費用などは相応に高く原価が跳ね上がってしまうので、これを避けようとするバイヤーが多いのが現状です。

個人だとグレーゾーンでやっている方も多いですが、明らかに適法行為なのでお忘れなく。

転売の是非を明確に線引きするのは大変難しいですが、個人的にはやはり「愛ある人が触れてくれる文化」であるとよいですね。投機目的のおもちゃに成り下がるのは服好きとしては悲しい限りです。

文/MB