「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

昨年末に決算を発表したJ.フロント リテイリングと高島屋の業績が好調だ。2023年3-11月の売上高は、2社ともに前年同期間を1割上回っている。

高島屋に至っては、百貨店事業の売上高がコロナ禍の2019年同期間をも上回った。2社に共通しているのが、国内顧客の消費が旺盛だということ。決してインバウンドだけを背景にしたものではないのだ。その裏で苦戦しているのが、若者向け百貨店とも言えるマルイとパルコ。この構図から浮かび上がるのは貧富の差の拡大と、マス層の消滅だ。

国内顧客の旺盛な消費意欲を取り込む名門百貨店

高島屋の2023年3-11月の売上高は、前年同期間比5.2%増の3341億円、営業利益は同45.3%増の332億円だった。この好調ぶりを受け、高島屋は通期の業績を上方修正している。

売上高は予想比0.4%増の4670億円、営業利益は同2.3%増の450億円に改めた。

決算発表会においては、株主から上方修正が足元の業績に比して保守的なのではないか、との質問があった。そうした疑問が出るほどの好調ぶりだった。

「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

百貨店事業単体で見ると、2023年3-11月の売上高は前年同期間比5.5%増の2441億円、営業利益は同59.6%増の206億円だった。高島屋の国内百貨店の総売上高は、2022年比で11%増。2019年比で5%増だった。

コロナ禍で百貨店は甚大な打撃を受けたが、それを乗り越えて完全回復した。

「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

※業績説明資料より(筆者作成)

興味深いのは、インバウンドを除く国内顧客の売上高だけでも2019年の水準を4%上回っていることだ。2023年は前年に引き続いてインフレが継続していたが、高島屋では日本人の消費意欲が旺盛だったことになる。特に主力のファッションアイテムが好調だ。

大丸や松坂屋を運営するJ.フロントの百貨店事業2023年3-11月の売上高は、前年同期間の1割増となる1684億円、事業利益は2倍の182億円だった。大丸や松坂屋においては、戦略的に取組んでいた富裕層向けのラグジュアリーブランドが増収に貢献している。



大丸は、インバウンド向けである心斎橋店の免税売上が2割減少しているが、店舗の売上高は増加。松坂屋の名古屋店でも同様の現象が起こっている。百貨店の回復はインバウンドが注目されがちだが、日本人による消費も旺盛だ。

三越の2023年4-9月百貨店事業の売上高は、前年同期間比7.5%増の2085億円、営業利益は3.3倍の167億円だった。上半期の売上高としては過去最高を更新している。三越は基本戦略において「好感度上質消費の拡大・席巻、最高の顧客体験の提供」を掲げている。


その背景にあるのが、経済格差の拡大だ。マスに向けたマーケティングを改め、個人の趣味嗜好に合わせた販売戦略をとった。つまりは富裕層に照準を合わせたのだ。業績にその成果が如実に表れた。

1~2割の売上減に悩まされるマルイ

三越や高島屋、大丸、松坂屋の店舗別売上高を見てみよう。コロナ禍以前との比較だ。松坂屋名古屋店の2023年3-11月の売上高は、2019年同期間比5.5%増の904億円、大丸・心斎橋店は3.5%増、大丸・神戸店に至っては2割増の657億円だった。


「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

業績説明資料より(筆者作成)

松坂屋名古屋店は免税の売上高がコロナ禍と比較して3割も減少して20億円程度しかないが、店舗全体では増収となっている。大丸・心斎橋も免税は2割減だ。大丸神戸店の免税売上は、コロナ禍と比較すると2倍になった。しかし、金額は30億円にも満たない。それでも、神戸店は100億円もの増収に至っているのだ。

高島屋は主力である日本橋店の2023年3-11月の売上高が、2019年同期間比11.4%増の1066億円、新宿店が同19.1%増の631億円だった。

1~2割増加している。

次にパルコとマルイを見てみよう。パルコの2023年3-11月全店テナントによる取扱高は2103億円。2019年同期間と比較して1割増加している。ただし、これは渋谷パルコの建て替えとリニューアルの影響が大きい。2019年の渋谷パルコの売上貢献は30億円ほどだったが、現在は250億円を超えている。

店舗別に見ると、パルコが苦戦する様子が見て取れる。稼ぎ頭の名古屋店2023年3-11月の売上高は224億円。2019年と比較すると1割少ない。池袋も7.8%減少している。

「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

業績説明資料より(筆者作成)

マルイは2023年4-9月のグループ総取扱高が過去最高の2.1兆円を超えるなど、会社全体の業績は堅調だ。しかしこれはクレジットカードの収益貢献が大きい。小売事業は上半期の売上高が前年を下回った。

店舗別に見ると、主力の北千住店の2023年4-9月の売上高が2019年同期間比13.6%減の172億円、新宿店が同17.0%減の119億円、有楽町店は2割減の71億円だった。

「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

FACT BOOKより(筆者作成)

パルコやマルイは、かつてファッション感度の高い若者を引き付ける文化の発信地だった。ここで販売する衣料品に身を包めば、時代に乗り遅れることはないという安心感を与えていた。しかし、今やそうした意識は薄れた。代わりにユニクロやザラといった、ファストファッションがその役割を果たしている。

中間層とは、経済的な豊かさを実感できる人々のことだ。かつては、大量生産される衣料品を忌み嫌う風潮があり、パルコのような文化の拠点に熱狂した。それが中間層としての矜持だった。今の時代、それが失われているのだ。

着実に1に近づくジニ係数

昭和の百貨店もマス層である庶民が、非日常を楽しむ場所だった。屋上にはファミリーの集客装置である遊園地があり、上から下への動線を整えるシャワー効果によって各フロアに人が溢れていた。そこに集まる人びとは、少し背伸びをすれば購入できる品々を好んで手に取った。がんばれば何とか手が届くくらいの、絶妙なアイテムが当時の百貨店には並んでいたのだ。

しかし、百貨店の役割も変わりつつある。ターゲットを富裕層に定め、顧客の特徴に合わせた最適なものをセレクトして提案しているのだ。百貨店において、マスマーケティングは終焉を迎えつつある。

「高島屋」「大丸」「三越」大手百貨店の業績好調の影で「マルイ」「パルコ」が不調…加速する貧富の差と若者の百貨店離れ

厚生労働省の「所得再分配調査報告書」によると、2021年の再配分前の「ジニ係数」は0.5700。2017年の0.5594と比較すると上昇している。ジニ係数は格差が大きいほど数値が高くなり、1になると全所得を1人が独占していることになる。コロナ禍を経て貧富の差は拡大しているのだ。

名門百貨店の業績の伸長にも、その特徴がよく表れている。

文/不破聡