
猫が働くラーメン屋を舞台とする、ハートフルな“キャットコメディ”『ラーメン赤猫』。漫画家・アンギャマンが手がける本作は、「少年ジャンプ+」のインディーズ連載から通常連載へと移行し、テレビアニメ化まで決定した異色の作品だ。「シンデレラストーリー」とも表現される本作がたどった道のりについて、アンギャマン氏は漫画家としてどう伴走してきたのか。本人に直接聞いてみた。
「なんとなく、自分は漫画家になれると思っていた」
–––まず『ラーメン赤猫』のアニメ化決定、おめでとうございます。
アンギャマン(以下同) ありがとうございます。
–––アニメ化が決まったときの率直な感想を教えてください。
うれしいと思うより前に、びっくりしました。自分の漫画がアニメになるとは想像もしていなかったので。今は少しずつ監修の仕事が回ってきたりして、徐々に実感が湧いてきています。シンプルにやったー!という感じですね。
2024年7月からTBS系28局で放映されるテレビアニメ『ラーメン赤猫』
–––先生が漫画家になるまでのヒストリーを教えてください。いつごろから漫画を描き始めたのでしょうか。
漫画は、本当に自然に描き始めたんです。そもそも、小さいときから絵を描くことは自分にとって当たり前のことで。一番古い記憶だと、実家にあった大きなテーブルの裏にクレヨンで落書きしていたり…。
–––そのころから漫画を読むのも好きでしたか?
そうですね。歳の離れた兄が2人いるので、その影響で家に娯楽がたくさんあったんです。漫画とかゲームとか。で、それでひととおり遊んで飽きてくると、自分で空想するようになって。
–––それで漫画を描き始めた、と?
いえ、当時描いていたのは漫画と言えるようなものではありませんでした。画用紙に小さな絵を描いていって、それがうっすら物語としてつながっているような。小中学生のころまではそんな感じでした。
はじめてちゃんと漫画を描いたのは、高校生のころですね。ちょうど進路とか、やりたいことに悩む時期じゃないですか。それで、なんとなく漫画を描き始めたんです。
–––それはプロの漫画家を目指して?
なんとなくですが、自分は漫画家になれると思っていたんですよね(笑)。だから自然と描いていました。作品の投稿とかもしていて、たしか2本目の作品が『月刊ジャンプ』の月例賞の最終候補まで残ったはずです。でも「某作品のパクリだ」みたいな寸評があってショックでしたね。クソー!と(笑)。

アンギャマン先生
体を張った実録漫画『リアル遠足』の誕生
–––その後も作品を描いては、雑誌への投稿を続けていったのでしょうか。
いえ、それから投稿はせず、活動の場所をインターネット上に変えました。当時、自分のホームページで絵日記とか漫画を公開している人がたくさんいたので、僕も同じようなことを。
そのころから、紙の雑誌で漫画を読む人は今後減っていくんじゃないかという風潮があって、僕もぼんやりとそう思っていたんです。じゃあ、インターネット上で読むことに特化していったほうが生き残れるんじゃないかなぁと。

アンギャマン先生の個人HP「スカラムーシュ」。過去の漫画作品やイラストなどを公開している(http://www.scaramouch.jp/index.html)
–––当時はどんな作品を描いていたのでしょうか。
ライフワーク的に、『リアル遠足』という漫画を描いていました。当時大阪に住んでいたのですが、そこを拠点に目的地の神社仏閣を決めて、野宿しながら徒歩で向かうという、体を張ったドキュメンタリー漫画です。

行脚の様子を漫画家した『リアル遠足』。実際に先生が撮影した写真を背景に、先生の自画像と一つ目のキャラクターが登場する作品
–––漫画サイト「ジャンプルーキー!」にも投稿されている作品ですね。
はい。「ジャンプルーキー!」には1本しかアップしていませんが、トータルで6年くらいは続けていましたね。
–––それらの作品は現在、先生のホームページ上で公開されていますが、先生とともに歩く、一つ目のキャラクターが印象的です。
『リアル遠足』は写真にイラストを添えるスタイルの漫画なので、登場人物が僕1人だとあまりに画面に動きが出ないので、サポートキャラとして登場してもらいました。実はあれ、小学生のころに作ったキャラクターなんですよ。
–––そうなんですね! そのキャラクターですが、時折体の色が変わるのはなぜでしょう。
あれは、描いた日が変わったことを表しています。読者に何か伝えようというより、自分用の目印ですね(笑)。


小学生時代に作った一つ目のキャラクターが登場。シーンによって赤になったり、黄色になったり、白になったりと、色が変わる
ライフワークが過激化…大阪~島根を行脚するまでに
–––そもそも、どうして『リアル遠足』を始めたのですか?
漫画のネタが徐々に尽きてきたころ、ちょうどドキュメンタリー映画が流行っていたんです。じゃあその手法を漫画にも取り入れられないかなかと。ドキュメンタリーって、ネタの宝庫なので。
ただ、やっているうちに少しずつ過激化していって(笑)。最初は目的地が近場の山だったのが、最終的には大阪から島根の出雲大社まで行くとか、四国に行ってお遍路して帰ってくる、とかにまで…。
–––ネタ探しとはいえ、なかなかできることではないですね。もともと歩くのが好きだったんですか?
長距離を歩く原体験は、中学生のときの家出です。当時は大阪に住んでいたのですが、小学生時代に住んでいた奈良まで歩こうとして。結局、途中でギブアップしたんですけどね。歩き疲れてヒッチハイクしたら、乗せてくれたトラックの運転手さんにそのまま警察署まで届けられました(笑)。
–––ギブアップというより、強制リタイアですね(笑)。
そうですね。といっても、かなりの距離を歩いたので、当然苦しかったし、辛かった。でも、どこか楽しかったんですよ。記憶って、辛いことはどんどん消えて楽しかったことだけが残っていくので、その経験が『リアル遠足』を思いつくきっかけになったのかもしれません。
–––今さらなのですが、「アンギャマン」という作家名は、いわゆる「行脚」から?
はい。『リアル遠足』(KADOKAWA)は2010年に単行本として出版したのですが、そのときのタイトルは『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』でしたね(当時のペンネームは「左剛蔵」)。

『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』(KADOKAWA)
–––そういった活動を経て、2016年ごろから「ジャンプルーキー!」への投稿を開始されます。『河童と仙人と』や『仙錬のヌシビト』、そのほか「ジャンプ+」に掲載された読切など、先生の作品は大自然を舞台にしているものが多いですが、これも長距離歩行や野宿などの経験が影響しているのでしょうか。
そうかもしれません。少し話がずれますが、歩くのって引き返せなくなってからのほうが楽しいんです。だいたい出発して4日目以降とか。疲れて、苦しいからこそ、幸せのハードルが下がるというか。たとえば「晴れてるな」とか、「夕陽が綺麗だな」とか、そんなことがものすごく素敵なことに感じられるようになってきます。

「ジャンプルーキー!」への投稿作『河童と仙人と』。“どこかの山奥”で暮らす河童と仙人のちょっと不思議な交流を描いた作品。小生意気な河童が可愛らしい

第1回ジャンプ縦スクロール漫画賞で佳作を受賞した『仙錬のヌシビト』
–––『ラーメン赤猫』で描かれている“優しさ”も、先生が行脚を通じて得た幸福観によるものなのでしょうか?
その影響はあるかもしれませんね。僕が漫画を作るうえで一番気にしているのは、読後感です。読んだあと、いい気持ちになってほしいなと思っていて。
感動したり、いい気持ちになったりするのって、感情の起伏があるからじゃないですか。そうさせるには一度ストレスを作らなければいけないんですけど……実は、個人的にはそっちを描くほうが得意だと思っています(笑)。
『ラーメン赤猫』第1話を試し読み

「ジャンプ+」の『ラーメン赤猫』ページはコチラ
文/関口大起
ラーメン赤猫(1)(集英社)
アンギャマン

2022年10月4日発売
693円(税込)
B6判/204ページ
978-4-08-883279-1
猫が営むラーメン屋に面接をしに来た珠子。店長からの質問に「犬派」と答えて、あっさりと採用されたのだが…、仕事内容は猫の世話係!?
ラーメン赤猫、癒し大盛りで始まります!!