
罪を犯した者が収容される施設が刑務所だが、そこでは日々どのようなことが起きているのか? 刑務所内の構造や生活、実際に起きた事件、そして死刑に関する話まで、現役刑務官だからこそ知っている話を描いた漫画『刑務官が明かす』シリーズについて漫画家・一之瀬はちさんに話を聞いた。(全3回の3回目)
受刑者や死刑囚と対峙する苦しみ
――漫画『刑務官が明かす死刑の話』をはじめ、シリーズを読んだ読者からはどんな反響がありますか?
一之瀬(以下、同) 「知らない情報がたくさんあって勉強になる」といった反応が多いです。“刑務所マニア”と呼ばれるような人たちが一定数いるのですが、そういった方たちからも好評をいただいていますね。
――ちなみに、実際に受刑者の方から反応があったことはありますか?
昔、刑務所から手紙があったと担当編集さんにいわれたことがあります。受刑者が中で漫画を読んで、その感想をくれたみたいです。
――“塀の中のあるある”として楽しまれていたのかもしれませんね。先生がこのシリーズを通して伝えたいことを教えてください。
犯罪や刑罰をテーマにした作品って、受刑者側から見たものが多いんです。なので、私は刑務官側から見た世界を漫画にして、そのリアルを届けたいと思っています。刑務官の方々は、仕事として受刑者や死刑囚と対峙しています。そこには悩み、苦しみ、そして不思議な受刑者たちとの関係性があります。でもつらいだけじゃなくって、ときには楽しさもあるはずなんです。
――刑務官の方からも反響はありますか?
協力者の皆さんに、感謝していただけることもあります。というのも、さまざまな刑務所作品の影響で、刑務官は受刑者いじめをしてるとか、ただ見回りして監視しているだけどか、世間からそんなイメージを持たれていることが多いらしいんです。
でも実際はそんなことはなくて、事務作業から介護的なものまで、本当にたくさんの仕事があることを漫画として世に発表してくれてありがとう、と。私としても、今後も「お仕事モノ」として刑務官の存在を描いていきたいと思っています。
――そもそも、先生はどんなきっかけで刑務官目線の作品を描こうと思ったのでしょうか。
同ジャンルのルポや漫画の中に刑務官目線のものが少なかったというのもありますが、一番は私自身が知りたかったからです。
特殊で困難に満ちた刑務官の世界
――刑務官目線の作品が少ない理由の一つに、仕事の内容を話したがる、話せる刑務官が限られているということもありそうですが。
そうですね。協力的な方に出会えた私は運がよかったと思います。正直、そんなに話して「大丈夫なの?」と思うこともあるくらいです。もちろん、受刑者の個人情報に関わるような話はないですが。あくまで聞いているのは刑務官の仕事内容についてです。
――作品内では、刑務官の大変な仕事内容が多数紹介されており、正直なところかなり驚いたというか、私には絶対に務まらないなと思わされました。刑務官の方々は、どんな志で職務にあたっているのでしょうか。
どの現場を切り取っても、かなりハードですからね。
――今後、同シリーズで先生がやりたいことはありますか?
実現性が高いところだと、少年刑務所や少年院、未成年の更生関係ですね。それから、死刑についてはまだまだ掘りきれていないので、今後も描いていくと思います。
――最後に読者やこれをきっかけに読もうと思っている方にメッセージをお願いします。
はい。この漫画をすでに読んでくださった方ならわかるかと思いますが、刑務官の人も普通の人間です。皆さんも、会社で働いて、悩んで、辞めてぇなあと思ったことが少なからずあると思います。ただ塀の中と外、というだけで、刑務官も同じように苦悩しながら働いています。それだけでもぜひ知っておいてほしいですね。
また、彼らは受刑者たちを更生させるのが仕事なので、いわば大人を相手にした学校の先生という側面もあります。
漫画の試し読みを読む
取材・文/関口大起