テレビにおけるトーク番組の大多数が、ホストMCとゲストによる掛け合い中心のなか、ゲスト3人による自由なトークというスタイルをもつ『ボクらの時代』。共演をきっかけに後に新たなコンテンツの誕生につながったりと独自性のあるこの番組を、テレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが、日曜の朝放送に注ぐこだわりと合わせ2024年のゲスト候補も考察する。
17年の歴史を刻む、日曜朝のトーク番組『ボクらの時代』
年寄りじみた話から始まり申し訳ないが、年齢を重ねるにつれて朝起きるのが早くなってきた。元来低血圧で朝に滅法弱かったはずの私だが、今はたとえ何の用事もない昼過ぎまで寝ていてもいい日曜日でも、朝6時過ぎには目が覚めてしまう。
起きてからテレビをつけると『はやく起きた朝は…』(フジテレビ系列)がいつものメンバーでやっている。そんなに早く起きる日曜朝なんかねえよと昔は思っていたが、今は『はやく起きた朝は…』が始まる前に目覚めている。
そんな悲しい気分で磯野貴理子たちを見終わった後、日曜朝7時にビートルズのナンバーと共に始まるのが『ボクらの時代』(フジテレビ系列)である。
2007年4月にスタートした『ボクらの時代』は3人(たまに4人)の有名人がトークする30分番組で、出演するのは俳優や芸人にとどまらず、ミュージシャンだったりスポーツ選手だったり文化人だったりさまざまだ。番組の歴史は17年を数え、今やトーク内容がしばしばネットニュースになることでも有名である。
第一回目の放送から伝わるフジテレビの意気込み
テレビにおけるトーク番組といえば、ホスト役がいてゲストの話を聞くスタイルが主流だ。『徹子の部屋』(テレビ朝日系列)、『A-Studio+』(TBS系列)、『おしゃれクリップ』(日本テレビ系列)……と代表的なトーク番組を思い浮かべてみても大半はこのスタイルである。
一方、『ボクらの時代』はホストMCどころか進行役のアナウンサーなども置かず、純粋にゲストだけが台本もなく勝手に話をする。こういうトーク番組は意外に少ない。
また、ここまでノンジャンルでいろんな人が出演する番組も珍しい。
『ジャンクSPORTS』(フジテレビ系列)のようにスポーツに特化しているわけでもないし、『アメトーーク!』(テレビ朝日系列)のように芸人に特化しているわけでもない。
そもそも第一回の組み合わせが「安藤忠雄×三宅一生×深澤直人」である。
当時できたばかりのデザインミュージアム「21_21 DESIGN SIGHT」の立ち上げメンバーである3人というつながりだが、それにしても豪華な組み合わせだ。
その前の週まで同じ枠で『晴れたらイイねッ!Let’sコミミ隊』でフジテレビアナウンサーがゆるい旅をしていたとは思えない力の入れようである。日曜朝に新たな文化を根付かせようという並々ならぬ決意が窺える。
そんなゴリゴリの文化人で始まった『ボクらの時代』も長い歴史を紐解けば、いろいろな組み合わせがあった。今回はその過去を振り返りつつ、2024年の『ボクらの時代』を展望していきたい。
親友? 共演者? 初対面?
トリオそのままでも出演できる「3人枠」の妙味
『ボクらの時代』では、たとえば「棚橋弘至×獣神サンダー・ライガー×オカダ・カズチカ」(2022年2月20日)のように3人のつながりがはっきりしているケースが大半なのだが、ときには「なぜこの3人?」という組み合わせもある。
たとえば、2008年5月18日の「郷ひろみ×萬田久子×安藤優子」。
萬田久子と安藤優子はもともと親しく番組共演経験も相応にあるが、なぜ郷ひろみ?と思って調べてみると、どうも2人が郷ひろみファンということだったようだ。
かと思えば2009年2月1日には「西城秀樹×野口五郎×徳光和夫」という回があった。郷ひろみ、出るならそっちだったのではないか。
ちなみにこのA、BがCのファンというパターンは他にも何度かあり、直近の2023年12月10日ではTRFのDJ KOO、SAMに、ロバートの秋山竜次という回があった(TRFの2人が秋山のファン)。
2010年1月31日は「市川染五郎×小笠原道大×田村淳」。一見何のつながりもなさそうな3人だが、共通点は年齢だけで、淳が同い年の他ジャンルの人に会いたかったという回。
全員が初対面ではないものの「AとB、AとCは元から親友だが、BとCは初対面」というパターンも多い。ちなみに日常でこういう飲み会があった際、Aがトイレに行くとB、Cはぎこちない会話をすることになる。
2010年12月19日「水谷豊×草笛光子×兼高かおる」などが実例で、この時は水谷×草笛は共演経験あり、草笛×兼高が長年の親友という関係であった。
出来上がっているA+Bの組み合わせにCを加えるというパターンもある。
おすぎとピーコは、2009年10月4日に「おすぎ×ピーコ×戸田奈津子」、2019年6月2日に「おすぎ×ピーコ×吉行和子」と2回出演。「おすぎとピーコと戸田奈津子」の語呂のよさは何度も口に出したくなる。
お笑いコンビは比較的バラ売りで出演することが多いが、サンドウィッチマンの2人は4回の出演すべてコンビで登場。2人と一緒に出演したのは、狩野英孝、吉川晃司、糸井重里、バイきんぐという面々だ。
トリオがそのまま3人で出演するパターンもそれなりにあるが、なんと言ってもシティボーイズ(大竹まこと、きたろう、斉木しげるの3人で結成したコントユニット)が圧倒的である。2007年、2010年、2013年、2015年、2022年と5回も出ていて、もはやこの番組がホームグラウンドと言ってもいいくらいだ。
「設楽統×若林正恭×星野源」では設楽が3人目に若林を指名
雑誌インタビューなどによると、この番組はキャスティングありきなので通常の番組の作り方とは違う制作過程なのだそうだ。
普通は企画があり収録日程を決めてそれに合う人をキャスティングしていくのだが、『ボクらの時代』の場合、まず3人を決めることが最初。
キャスティングに出演者が関わるケースも多く、ある人が決まっていて残りの2人をその人が誘ってくれるみたいなパターンも多いようだ。
コロナ禍に名場面集として再放送されたので記憶に新しいかもしれないが、2012年6月10日の「設楽統×若林正恭×星野源」は、まず星野源が決まり、星野源が設楽統の名前を出し、設楽が3人目として若林を指名したものだ。
番組でも語られたが、設楽が「星野と若林が共通点が多く似ている」ということで引き合わせたという経緯である。
この時の『ボクらの時代』がなければ、Netflixで何か月にもわたって語り合うような若林×星野のつながりは生まれていなかったであろう。こういうのも『ボクらの時代』の醍醐味である。
ナレーションでも発揮されている「日曜の朝」という番組コンセプト
また作り手側のこだわりとして「日曜朝」という時間はかなり意識しているようだ。
毎回小林聡美のナレーションで「それでは、今日も素晴らしい一日を!」で締められている通り、この番組を一日のスタートとして日曜日をぜひ有意義に楽しく過ごしてもらいたい、というコンセプトが徹底されている。
そう言った意味では、夜のトーク番組のような居酒屋ワイガヤというよりは、気のおけない仲間たちが急かされることなく、くつろぎながら語り合うこのスタイルがやはりふさわしいのだろう。
ちなみに、かつては夜に収録していることもあったようだが、今は日中、自然光がしっかり入る大きい窓がある場所で収録されている。
昨年の『ボクらの時代』でも、ryuchell(りゅうちぇる)が亡くなった後のpeco出演や、「ハリウッドザコシショウ×くっきー!×RG」のカオスな共演など、話題になった回が数多くあった。
2024年、個人的には田中みな実のラジオに何度も出演し、なぜか彼女の本音を引き出すCreepy NutsのDJ松永に期待している。
インタビュアーでは引き出せない話も、親友の前では意外な本音がこぼれたりする。2024年も意外な組み合わせで我々をあっと言わせて欲しい。
文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太