小学生のころから団体行動が苦手だと感じていた大型トラックドライバーの長谷川春菜さん。そんな彼女にとっていまの仕事は天職だという。
苦手だった団体行動
――長谷川さんがトラックに興味を持ったきっかけを教えてください。
子供のころから乗り物全般好きで、それがトラックに集約されたのは中学生のときに映画『トラック野郎』シリーズをみてからです。「トラックかっこいい! 桃さん(菅原文太演じる星桃次郎)かっこいい!」となって、トラックドライバーになろうと決めました。
全部で10作品あるんですが、最終作は見ないまま、老後の楽しみにとってあります(笑)。
――中学生で菅原文太さんに! そして中学生にしてお仕事を決められたんですね。
もともと集団生活を苦手に感じていたこともあり高校には行かないと決めて。運転免許を取るための費用だったり、東京に行くためのお金を貯めるためにガソリンスタンドでアルバイトをしていました。
――ご両親から反対されませんでしたか。
されました。仕事は何をやってもいいけど、せめて高校だけはいってくれと。だから昼はガソリンスタンド、夜はイヤイヤながら定時制の高校に行くことにしたんですけど、やっぱりダメで…。両親に謝って退学しました。
――夢を叶えてトラックに乗ったのはいつなのでしょう?
16歳でバイクの免許を取って18歳で車の普通免許を取って。21歳のときに東京で中型の免許を取ったので、私のトラックドライバー人生はそこがスタートです。
4トンに2年乗って、大型に乗ったのは2023年の春からなので、いま10か月くらいですね。
――はじめて運転したときのことを覚えていますか?
デカいし長いなと(笑)。そして怖かったです…というか、いまでも怖いです。地元の山口県下関市と違って東京は人も自転車も多いので、下道は常に緊張してます。
でも夢が叶ってうれしかったですね。いまも高速道路に毎回乗るたびに「大冒険が始まるぞ!」みたいな感じで(笑)。窓が大きくて車高も高いので景色に感動しますし、空や海が本当にきれいですよ。天職だなと思いながら運転しています。
“トラガール”とは呼ばないで
――これまでに事故の経験は?
大きな事故はないですけど、こすったことはありますし、割り込まれて強めにブレーキを踏んでしまったことで荷物が破損してしまったこともありました…。
――それは不可抗力ですよね。
いや私が悪いんです。割り込まれることも想定して車間距離を空けておかなきゃダメなんですよ。もちろん車にぶつかるような車間では走ってはいませんが、積んでいる荷物にダメージを与えてしまってはプロ失格です。
――女性ドライバーを増やそうと国土交通省が推進している『トラガール促進プロジェクト』が話題になっていますが、それについてはどう思われますか。
入り口はトラガールに憧れてでも、なんでもいいんです。でも「私のことをトラガールとは呼ばないで」と思っています。
――どうしてですか?
トラガールと呼ばれる女の子たちって、自撮りをSNSにいっぱいあげていますよね? 私には「トラックに乗っている『自分』が好きなんだな」と思えてしまって。
私は「トラック」が好きだから、トラックに乗っている。結果的にドライバーとして仕事をしているわけだから「どこが違うの?」って思うかもしれませんが、私にとっては大きな違い。譲れない一線なんです。
――自分のためにトラックがあるんじゃなくて、トラックに乗るために自分がいる?
私はそうです。どちらがいいとかどちらが正しいとか、そういうことじゃなくて私が彼女たちと違うというだけなんですけどね。
現実的に下道では停めるところがない
――最近ではトラックドライバーのYouTubeチャンネルも増えていますし、動画の中では日本全国の美味しいものを食べていたり、楽しいこともたくさんありそうです。
うーん…実際はそうでもないですよ(笑)。サービスエリアグルメは確かにありますが、下道を走っているときは、停められる場所が少ないこともあって、大きな駐車場があるコンビニでおにぎりかパンを購入していますね。
時間に余裕があれば別ですが、決められた時間に届けるのが仕事なので、好きなときに好きな場所で休めるわけではありません。
もちろんポジティブなことを発信してくださっているYouTuberさんたちのことは、尊敬しています。
――動画で見るほど甘くないということですね。
でも楽しいですよ。運転中は煩わしい人間関係に悩むこともない。それが私には合っているし、好きなんです。好きな曲かけて大声で歌うこともできますしね。誰も聞いていないですから(笑)。
――いつもどなたの曲を?
ちゃんみなです。
でもライブはお金を払って観たい。そうじゃないと楽しめなくなるような気がするので。勝手に葛藤しています(笑)。
――昨年、アーティストの布袋寅泰さんが、「ツアートラックのドライバーをリスペクトする」とコメントと写真をSNSにアップして話題になりました。いつか、長谷川さんがちゃんみなのSNSに登場する日が来るかもしれませんね。
もしもそんな奇跡が起こったら号泣ですね。夢を叶えるために頑張ります。
取材・文/工藤晋
写真/松木宏祐
取材協力/じぇっトラTV